EC(電子商取引)による海外販売が注目を集める中で、日本で日常的に使われている商品が海外でヒットする事例が生まれています。今回は、日本にいながら海外のAmazonに出品できるサービス、Amazonグローバルセリングを活用し、調理器具や和装アイテムを海外に販売している中小企業を紹介します。

職人の手で作られる鮫皮おろしをAmazonで販売

「和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことから、世界から日本の調理器具に注目が集まるようになりました。その波に乗って、2022年からAmazonで鮫皮おろしの海外販売を始めました」と語るのは、岐阜県にある株式会社ROKURO WORKSの代表取締役・大塚康史さんです。

木工作業場で黒いパーカー姿の男性
株式会社ROKURO WORKS 代表取締役・大塚康史さん

大塚さん「鮫皮おろしとは、真鮫と呼ばれるエイの背面中央部の皮を用いたわさびおろし器で、江戸時代から伝わる調理器具です。鮫皮特有の細かな粒によってきめ細かく擦りおろされたわさびは、風味が飛びにくく、わさび本来の辛味が引き立つことから、寿司屋や蕎麦屋などのプロの料理人に古くから愛用されてきました」

当初から商品の販路はECをメインに据え、2018年の創業と同時に日本のAmazon.co.jpで販売を始めました。

大塚さん「元々は父が鮫皮おろしの製造・販売を行っており、9割以上が問屋への卸販売でした。父の下で製造に携わるうちに、ECを通じて販路を全国に広げ、多くのお客様に直接商品を届けたいという想いが芽生え、独立しました。Amazonは初期費用が少なく、参入障壁が低いので、独立を後押ししてくれました」

新型コロナウイルス感染症が拡大した際の巣ごもり需要によって、同社の鮫皮おろしも脚光を浴びました。

大塚さん「SNSなどで商品を地道に宣伝していたこともあり、自宅で本格的な調理器具を使いたいという需要にマッチしました。また、なかなか会うことができない家族や親戚への贈り物としてのニーズも生まれ、刷毛(はけ)とセットにしたギフトボックスは今もAmazonで販売数が伸びています」

大小さまざまな大きさのわさびおろしと刷毛
地元岐阜産のヒノキや厳選した鮫皮にこだわり、1点1点職人の手で仕上げられる
鮫皮おろしで生わさびをおろしている様子
鮫皮の細かな粒で擦ることで、ふんわりとした食感とわさび本来の辛味が引き立つ

海外販売時の出品方法などをAmazonがサポート

2018年に日本のAmazon.co.jpで販売を開始すると、海外から問い合わせがくるようになったといいます。

大塚さん「和食ブームを背景に日本のわさびの輸出量が急増し、世界各地で栽培農家も増えました。それに伴い、日本の伝統的な調理器具として鮫皮おろしの認知度も高まり、問い合わせを通じて海外のシェフや個人のお客様のニーズがあることがわかったのです」

そうしたニーズを足がかりにして、2022年にアメリカのAmazon.comでの販売に踏み切りました。

大塚さん「Amazonグローバルセリングは、世界各国で展開しているAmazonならではのサービスだと思います。当初は、自分だけの力で海外販売は実現できないだろうと思っていましたが、Amazonの担当者が海外での出品方法について教えてくれたので、販売から出荷までスムーズに進めることができました。Amazonと日本貿易振興機構(JETRO)が共同で海外進出を支援するJAPAN STOREプログラムにも登録し、出品や商品の露出拡大などのサポートを受けています」

パソコン上に表示されたAmazon.comのJAPAN STOREの画面
日本の商品を紹介するAmazon.comのJAPAN STOREの画面
手元をライトで照らし、作業をしている様子
商品はすべて熟練の職人の手で作られ、1点1点目視で検品してから出荷されている
鮫皮を貼る前の素材。でこぼこした表面の皮と成形された木材
鮫皮の品質には特にこだわりを持っている

Amazonによる配送業務のアウトソーシングでものづくりに集中できた

同社の従業員は3名だが、少人数でも海外に販路を広げられた要因はAmazonのフルフィルメント by Amazon(FBA)にあるといいます。

大塚さん「ものづくりには自信がありますが、少人数なので出荷などの対応力には課題がありました。その点、FBAはAmazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や商品に関するカスタマーサービスを代行してくれます。少人数でも安心ですし、ものづくりに集中できています。土日や休日にも出荷できることや、配送の迅速さは、お客様の信頼につながっていると思います」

Amazonでの販売は、商品のこだわりや品質を伝えるためにも役立っているといいます。

大塚さん「鮫皮おろしの原材料となる真鮫の皮は年々減っています。だからこそ、薄利多売ではなく、鮫皮おろしの良さを伝え、本当に欲しいと思う人に届けたいと考えています。そのために、Amazonの出品画面に製造過程の動画を掲載し、品質へのこだわりを伝えています。『本格的なわさびおろし器はやっぱり風味が違う』といったカスタマーレビューを見るとうれしいですね」

大塚康史さんを中心に話をしている社員たち
美濃焼とのセット販売を考案するなど、岐阜県全体を盛り上げるための取り組みにも力を入れている

海外に出品することで、うれしい反響もありました。

大塚さん「Amazon.comで当社の鮫皮おろしを購入し、気に入ってくださったアメリカ人のわさび農家の方が、カリフォルニアから当社を訪ねてきてくれたときは驚きました。本当に良いものを作っていれば国境を越えて通じ合えるんですね。今は、彼と一緒にわさびの魅力を広める企画を練っています。Amazonのサービスを通じて、鮫皮おろしや和食文化を世界中に広めていきたいですね」


Amazonでの販売を通じ、抜染技術を用いた粋な和装を届ける

茨城県にある株式会社江戸てんは、甚平や作務衣、雪駄や和小物などを、Amazonを通じて国内外で販売しています。代表取締役社長の穴沢あけみさんは、和装を愛する気持ちを形にするために、2005年に同社を立ち上げました。

紫色の着物を着て立つ女性穴沢あけみさん
株式会社江戸てん 代表取締役社長・穴沢あけみさん

穴沢さん「商品づくりにおいて大切にしているのが『粋であるか』という視点です。着用時に、江戸時代の庶民が愛した、さりげない美意識が光る商品を届けたいと考えています。また、生地に染料をのせるのではなく、脱色して柄を出す抜染技術を駆使することで、柔らかな風合いを演出しています。大量生産は難しく、生産者も減少傾向にある技術ですが、久留米織や遠州織物の職人と商品開発を行うことでその魅力を広めていきたいと思っています」

2011年から日本のAmazon.co.jpで出品を開始。実は、穴沢さんは創業当初から海外販売を視野に入れていたといいます。

穴沢さん「和装の魅力をもっと広めたいと考えたとき、海外進出は常に選択肢として心の中にありました。ただ、従業員が少人数の当社にとって、海外販売のハードルはあまりに高いものでした。そんなときにAmazonグローバルセリングを知り、すぐに申し込んだのです」

日本柄の和装グッズ
甚平や作務衣には伝統的なモチーフを施すことで日本文化の魅力を伝えている
緑色の雪駄と黒の雪駄
頑丈さや機能性にこだわった雪駄などの履物も展開している

Amazonグローバルセリングは海外販売のハードルを下げてくれる

2014年からアメリカのAmazon.comに出品し、翌年にはヨーロッパのAmazonにも出品しました。

穴沢さん「Amazonグローバルセリングを利用してみて、『こんなに簡単に海外販売できるんだ!』と驚き、ハードルの高さを感じていた当初のイメージは払拭されました。それまでは自社で海外のお客様に商品を発送していた時期もあり、配送準備に1日かかってしまうこともありました。現在はFBAを利用し、配送やカスタマーサービスなどをAmazonに任せているので、私たちは商品開発に集中することができています」

海外販売の売上は穴沢さんの予想を超えて伸長し、現在では半分近くが海外からの注文だといいます。

穴沢さん「和装アイテムはニッチなジャンルで、国内市場はそれほど大きくありませんが、世界に目を向けると愛用者は多く、市場は何倍にも広がります。国内市場だけでは頭打ちだった売上が伸びたこともうれしいですが、世界中のお客様と和装を愛する気持ち、粋を楽しむ感覚を共有できることが一番の幸せですね」

各国のお客様によるカスタマーレビューには多様な意見が寄せられ、商品開発の参考になるといいます。

穴沢さん「それぞれの国によって売れ筋やニーズは明確に異なります。例えばアメリカでは、Tシャツやジーンズといったカジュアルな格好に合わせるためか、着心地にこだわるお客様が多いようです。一方、ヨーロッパでは、生地の風合いや縫製、仕立て方を重視する傾向があるようです。そうしたカスタマーレビューは大いに役立っており、海外のお客様向けのカラー展開やサイズなどを増やしています」

台の上にセットされた布とさまざまな色のインクがセットされた機械
職人の意見を取り入れながら、抜染・擦染プリンターを使って自社工場で柄入れを行っている

JAPAN STOREプログラムによってブランドの知名度が向上

同社はJAPAN STOREプログラムにも登録し、さまざまな効果を得ています。

穴沢さん「特集ページに商品が掲載されたり、現地のイベントで商品を紹介してもらったりして、ブランドの認知度が上がりました。また、日本では夏に甚平などのアイテムがよく売れますが、海外ではハロウィンのイベントやクリスマスのギフトシーズンに需要が高まります。海外販売によって繁忙期を分散させることができたのは想定外の効果でした。これからはさらに海外展開に注力して、和装ファンを増やしていきたいですね」

女性スタッフと笑顔でミーティングしている様子の穴沢さん
世界各国から寄せられるカスタマーレビューをもとに、商品ラインナップを拡充させたいと語る穴沢さん

世界各国に展開しているAmazonのサービスを利用することで、日本にいながら海外販売を実現している両社。一見、ニッチなジャンルと思われる商品でも、高品質な日本の商品は世界の市場で求められている。両社の事例は、そうした日本の商品が持つ大きなポテンシャルを示していると言えるでしょう。


Amazonグローバルセリングとは?
日本にいながら海外のAmazonに出品(販売)できるサービスです。対象地域はアメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋地域など、世界各地に及びます。また、フルフィルメント by Amazon(FBA)を利用することで、Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や商品に関するカスタマーサービスを代行します。

2022年のこのシリーズでは、事業承継、地域活性化、働き方改革などの社会課題の解決のためにDXを活用した事例や農業や水産業などの第一次産業における中小企業が実践するDXについてご紹介しています

本連載について
Amazonでの販売を支援する「Amazon出品サービス」、ビジネス上の購買をサポートする法人向けサービス「Amazon ビジネス」、決済サービス「Amazon Pay」、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」など、Amazonはさまざまな企業の課題を解決する多様な選択肢を提供しています。本連載では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む中小企業と、そのDXをさまざまなカタチで支援するAmazonのストーリーをご紹介します。

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