「私の伝えたかったことが伝わっていると感じられるとうれしいです。これからも学んだことを絵本などにまとめていきたいと思います」
絵本『よこいしょういちさん』著者 亀山永子さん

「私は、戦争のことをあまり知らないまま大人になってしまったので、母親になった今、娘たちと一緒に勉強をしているところです。そして調べたことをもっと多くの子どもたちにも知ってほしくて、絵本をつくりました」と話すのは、愛知県で夫と共に2人の子どもを育てている亀山永子さん。パートタイムの仕事をしながら、7年前からは週に1度、児童館で本の読み聞かせのボランティアを続けてきた。

彼女がAmazonプリント・オン・デマンド(POD)サービスで絵本『よこいしょういちさん』を出版したのは、2018年の5月。それ以前の1年半の間、彼女は同著書を約800冊分自分でコピーをとり、手作業で製本し、図書館や学校などに配っていた。

平和への思いを込め憧れの絵本作家に
亀山永子さん

絵本のタイトルになっている「横井庄一さん」は、太平洋戦争中に出兵し、終戦後も戦争が終わったことを知らないままグアム島のジャングルで約27年間日本兵として生き続け、1972年にようやく日本に帰国を果たした人物。亀山さんにとっては、子どもの頃から名前を知っている程度の歴史上の人物で、自分から遠く離れた存在だった。しかし、終戦70年の節目を迎えた2015年に、新聞で横井庄一さんの自宅が名古屋市内で記念館として公開されていることを知ると、詳しく知ってみたいという思いがわき上がった。そして、記念館に足を運び、横井さんの著書や関連書籍を読み進めていったのだった。

「横井さんのどんなことが起こっても負けるものかという気持ちで立ち向かわれた姿勢に感動し、児童館の子どもたちにも横井さんのことを伝えたいと思うようになりました」

しかし、横井さんについて子ども向けに書かれた本は見つからなかった。そのため、亀山さんは自分で絵本を作ることを決意する。以前にも自分で描いたイラストをまとめ、娘たちのために手作りで絵本を作った経験があったからだ。

平和への思いを込め憧れの絵本作家に
亀山さんが描きためたパステル画を用いて制作した手作りの絵本
平和への思いを込め憧れの絵本作家に
切り絵は本を読んで独学でマスターした

文献を調べ、横井庄一記念館を訪ねては、横井さんの妻・美保子夫人に横井さんの人柄やご夫妻のエピソードを尋ねた。また、さまざまな絵本を参考にしながら構成を練り、執筆に1年をかけた。「あなたは、ねずみを食べたことがありますか?」と問いかける冒頭の部分は、文章が疑問形になっていると、読み聞かせの時に子どもたちがその場で答えることもあり、一層関心を集めることができることに気づき、執筆終盤に付け足した。

絵本のイメージを左右する絵には、切り絵を採用。図書館で本を借りて独学で学び、半年をかけて制作した。

「これまで描いてきたパステル画で戦争を描くのは難しいと考え、切り絵に挑戦しました。横井さんが織物をしている場面は線が細いので、もう同じものは作れないと思うほど難しかったです。切り絵をしているととても集中できるので、絵に気持ちが入り込んだように思います」

絵本が完成し横井美保子夫人に見せに行くと、夫人は喜び、亀山さんに出版を勧めた。

「出版社4~5社に本を送りましたが、採用の知らせは届きませんでした。自費出版をするには費用がかさむため、自分でコピーをして、子どもたちが読んでも破れないように1ページずつビニールをかけて、製本したものを学校や図書館などに配り始めました」

平和への思いを込め憧れの絵本作家に
手作業で製本する様子。破れにくくするために一枚ずつビニールに入れる
平和への思いを込め憧れの絵本作家に
ビニールに入れたページをまとめていく
平和への思いを込め憧れの絵本作家に
亀山永子氏提供
小学校で読み聞かせを行ったときの様子
Amazon Story よこいしょういちさん
紙芝居用の木枠も手作りした

亀山さんにとって気がかりだったのは、物語の長さだった。子どもたちに読み聞かせをする時は、5~10分程度で読める本を選ぶことが多い。絵本『よこいしょういちさん』は朗読すると20分程度かかることから、子どもたちが最後まで飽きずに楽しんでくれるか心配だったからだ。しかし、最後には子どもたちの好奇心の強さを信じ、文章の短さよりも横井さんの人生をしっかりと伝えることを選んだ。

「実際に児童館や学校で読んでみると、子どもたちは話が終わるまでずっと静かに聞いてくれたんです。子どもたちに感謝しました」

絵本はとても好評で、本を読みたいという人がいると、亀山さんはそのたびに手作業で製本し、無償で送ることを繰り返した。しかし、手作りした本の部数が800冊を超えた時、1人で続けることに限界を感じるようになった。

新たな方法はないかと探していた時に出会ったのが、データをAmazonに入稿しておけば、注文毎にAmazonが印刷・製本・出荷を行う、Amazonのプリント・オン・デマンドだった。亀山さんは、A4サイズ横型だった絵本をA4サイズ縦型にレイアウトを変え、表紙の切り絵なども作り直して出版した。

『いのちをひろって エイさんと浜松大空襲』
『よこいしょういちさん』執筆前に、知人の戦争体験をまとめた『いのちをひろって』も PODで出版した

「最初は本当に本にできるのか半信半疑でしたが、手順に沿って作業を進めたら、簡単にできました。出版の費用も掛かりませんし、本を読みたいと言ってくださる方がいたら、Amazonで販売していることをお伝えすればいいので、とても楽になりました。絵本の出版を希望されていた横井さんの奥様にも喜んでいただいています」

本を出版したことで、「本を書く人になりたい」という子どもの頃の夢を思い出したという亀山さん。身近なところから歴史とのつながりを見出したことで、歴史にも興味を持つようになった。手作りで製本していた時間を、調べ物や創作活動に充てられるようになり、次回作も構想中だ。

「若い方から『横井さんがあきらめずに、何事にも取り組んでいった姿に感動した』『戦争の悲惨さを横井さんの人生から学んだ』といった感想をいただくと、私の伝えたかったことが伝わっていると感じられとてもうれしいです。これからも学んだことを絵本などにまとめていきたいと思います」

亀山永子さんの著書『よこいしょういちさん』はこちら

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