デビューできずに悩んでいる人や、何らかの理由で発表をあきらめた人にも、Kindleで作品を発表してみてほしいですね
漫画家 高野真之さん

 プロの漫画家として作品を描き続けるためには才能だけではなく、雑誌など発表する場が必要だ。雑誌の休刊や連載の打ち切りのために、途中で断ち切られた物語は少なくないだろう。しかしそうした漫画の宿命から逃れ、新たな道を切り拓いている漫画家もいる。高野真之さんはその一人だ。
 子どものころから漫画家を志していた高野さんは、広島から進学のために上京し、雑誌のイラストなどの仕事を経て漫画家のアシスタントとなった。その後、先輩作家に紹介された編集者から声がかかり、1999年に漫画雑誌で本格デビューした。
  「それまで2~3本しかストーリー漫画を描き上げたことがなかったので、デビューできたのは本当にラッキーでした」と高野さんは当時を振り返る。好きな映画や漫画を参考にして身に着けたという構成力と、アシスタント時代に鍛えられた画力などの才能が買われ、人気ライトノベルの漫画化を任せられるなど、漫画家として順調に活躍していくかに見えた。
 しかし、その後発表したオリジナル作品は評価されず、連載が打ち切られると、次第に経済的にも厳しい状況に陥っていった。
 次の作品はどうしてもヒットさせなければならない。強い気持ちで描き始めたのが『BLOOD ALONE(ブラッド・アローン)』だった。同作は、吸血鬼の少女と小説家の青年を主人公に、少女を吸血鬼にした元凶の吸血鬼の行方を追うという異色のファンタジー。もともと高野さんが趣味的に同人誌で発表していたイラストや物語の断片から物語を再構築し、2004年から漫画雑誌での連載がスタートした。

 しかし高野さんは、この作品でも苦労を強いられる。約6年間連載が続いたにもかかわらず、物語の途中で打ち切りが言い渡された。別の出版社の雑誌で連載を再開できたが、約4年間連載が続いたところで再び打ち切りとなってしまった。
 10年かけて紡いできた物語を中途半端に終わらせたくない。作品を読んでくれている人たちに最後まで物語を届けたい。そう考えた高野さんが選んだのが、同人誌とKindleでの出版だった。
 「最初は自分で同人誌をつくりイベントで販売していたのですが、Kindleでも出版されている漫画家がいることを知って、自分でも出版してみようと思いました。データを作った翌日にはAmazonで販売されているのが確認できて、あまりにもスムーズに出版できて驚きました」。
 2014年3月にKindleで出版すると次第に売れ始め、カスタマーレビューでも「大好きな作品だったので、続きを読めるのがうれしい」「続きがとても楽しみ」などのコメントが寄せられるようになった。
 「同人誌はイベント会場に来て購入するというハードルがありますが、Amazonですぐに購入してもらえますし、以前読んでくれていた読者にも再び作品を読んでもらえるようになって本当に良かったです」
 Kindleでの収入が大幅に増えたのは、2016年8月にAmazonの読み放題サービスKindle Unlimited(キンドル・アンリミテッド)がスタートしてからだった。
 「定額の読み放題ということで、気軽に作品を読んでくださる方が増えたのだと思います。毎月収入が得られ、創作活動に集中できる環境を維持できているのはありがたいことです。Kindle Unlimitedでは販売冊数ではなく、読まれたページ数がわかるので、作品が読まれていることを実感できるのもいいですね。こんなに作品を読んでいただけるなら、より良い状態で作品を届けなくてはという気持ちになります」
 現在、高野さんは、雑誌連載打ち切り以後のストーリーを描き進めながら、既刊分に手直しを加えてKindleで再出版している。Kindle版の『BLOOD ALONE』が1~6巻、10~12巻と変則的な形で出版されているのはそのためだ。丁寧に修正や執筆を行うあまり、出版のペースが遅くなってしまうのが悩みの種だ。2018年中には『BLOOD ALONE』を完結させ、全巻をKindleで読めるようにすることを今の目標にしている。次回作はまだ決まっていないが、これからもKindle版と同人誌を並行して出版し、作品を発表する場所を自分で確保していくという。
 「今は漫画があまりにも多すぎて、作品を知ってもらうことさえも難しい時代だと思います。でも、Kindleで出版すれば、Amazonのおすすめ機能や商品検索などで作品を知ってもらえます。そのおかげで僕の作品も、以前の読者の皆さんに再び読んでもらえるようになったのだと思います。なかなかデビューできずに悩んでいる人や、何らかの事情で発表をあきらめた人にも、Kindleで作品を発表してみてほしいですね。これまで世に出てこなかった作品は、きっとたくさんあると思います」
 2018年1月掲載
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