4月22日は地球環境について考え、行動する「アースデイ(地球の日)」です。持続可能な未来に向けて地球環境を守るためのさまざまな取り組みを行うAmazonは、今年もアースデイを祝い、そして今年のテーマである「Invest In Our Planet(地球への投資)」について考えます。
Amazonサステナビリティ・アンバサダーは、社員のためのサステナビリティに関する理解を深めるプログラムの一環として、アースデイの始まりとサステナビリティをテーマにした社員向けのオンライン講演会を3月30日に開催しました。講師にお招きしたのは、アースデイジャパンネットワーク共同代表であり、放送作家、京都芸術大学客員教授の谷崎テトラさんです。一人ひとりが環境アクションを起こすことの重要性を知る、またとない機会となりました。
2000万人もが自由にアクションを起こした世界初のアースデイ
アースデイは、アメリカの上院議員であったゲイロード・ネルソンが発案し、1970年4月22日にスタンフォード大学の大学院生で全米学生自治会長を務めていたデニス・ヘイズが起こしたアクションをきっかけに、世界へと広まった記念日です。
谷崎さんは、アースデイの活動についてこのように説明します。
「母の日や父の日があるように地球の日をみんなで祝おう——まだインターネットもない時代に、デニス・ヘイズは口コミで広めていきました。初めてアースデイの活動が行われた1970年には、全米でのべ2000万人が地球への関心を示す行動をなんらかの形で起こしたと言われています。『地球を愛していこう』と一斉に街の清掃活動をするなど、それぞれが自由に自分でできる行動をしました」
そしてアースデイの特徴をこう話します。
「それまでの環境活動と異なり、アースデイはポジティブな運動でした。自動車は環境に悪いと『ノー』と言うのではなく、環境に優しい自転車に『イエス』と。自動車文明を否定するのではなく、自転車の暮らしを楽しんでいくというように。これが全米から始まり、瞬く間に全世界へと広まり、アメリカでは環境省の設置や環境に関する法整備が進む契機にもなりました」
環境意識や科学、経済学にも大きな影響を与えたアースデイ
それまでの環境運動は、特定の公害問題に対するものがほとんどで、地球全体を意識した環境運動はアースデイが世界で初めてでした。そうした環境運動の変化には、人類初の有人の月周飛行に成功したアポロ8号の宇宙飛行士が1968年12月24日に撮影した、有名な地球の映像「アースライズ(地球の出)」が大きく影響していたと、谷崎さんは考えます。
「人類10万年の歴史において、わずか50年前に撮影された映像で人類は初めて地球の外から俯瞰して見ることができたのです。その経験は人々に、地球は国ごとに隔たれたものではなく、一つの生命圏なのだと気づかせました。そしてそれ以降、国や民族にとらわれない『地球人』をアイデンティティと認識する人が増えていったように思います。アースライズは人々の環境意識も大きく変え、アースライズの映像が配信されてからわずか15か月後に、アースデイが誕生したのです」
谷崎さんによれば、アースデイは、科学、そして経済学にも新たな視点を与え、その分野の学者たちが続々と地球環境に警鐘を鳴らし始めたのだと言います。
たとえば、イギリスの科学者のジェームズ・ラブロック氏は、私たちの体がさまざまな臓器や細胞でできているように、地球は生きていて、大気などの自然環境と動植物すべてが調和して一つの生命体を形づくっていると見なす「ガイア理論」を提唱(『ガイア―地球は生きている』、ジェームズ ラブロック著、竹田悦子 翻訳、産調出版刊)。地球を単なる鉱物として捉える従来の科学の常識とは掛け離れたその仮説は、議論を呼びました。
「ラブロックはこの仮説のなかで、『もしかしたら人類は、地球にとっては、勝手に増殖して周囲を壊していくウイルスのような存在ではないか』とも言っています。ウイルスが増殖して人の体を害するように、人々が増殖して周囲を壊していったら、このままでは、自分たちが暮らす地球も壊してしまうと警告しました」
経済の分野では、1972年に世界的シンクタンクの「ローマ・クラブ」が、レポート『成長の限界』を発表。コンピュータ・シミュレーションにより、経済成長には限界があると未来予測しました(『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』、ドネラ H.メドウズ著、ダイヤモンド社刊)。
「人口増加や環境破壊が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、いずれ人類の成長は限界に達するというのがレポートの内容です。2012年には検証もされ、1972年当時の予見通り、ほぼそのまま推移していることが明らかになりました。では今後はというと、2040年に世界人口が81億人に達すると、文明は衰退していくとシミュレートされています。つまり、このまま何もしないでいると世界は持続しないということが明らかになったのです」
地球のキャパシティを大幅に超えた現代の暮らし
谷崎さんは「2040年の手前、2030年がひとつの目標になっています。つまり、これから10年間でどういう社会をつくっていくかが重要」と訴えます。
「食料にしても、エネルギーにしても、これからどのように過度な消費を抑え、分配していくかがひとつのポイントになっています。人が地球環境に与える負荷の大きさを数値化した『エコロジカル・フットプリント』*は、地球の再生能力を超えてしまっていることを示しています。現代の日本人と同じ暮らしを全世界の人がしたら地球2.9個分が必要だと言われています。世界の人々の暮らしを平均化しても、地球が1.6個分必要な計算です。いわば今の私たちの生活は未来につけを残している状態ということになります。将来にわたり人類が地球で生きていくためには、地球のキャパシティを超えないよう、私たちは生活を変えていかなくてはなりません」
*エコロジカル・フットプリント=人口×1人あたりの消費×生産・廃棄効率
そんななか、1992年には初の国連環境開発会議「地球サミット」がブラジルのリオデジャネイロで開催され、持続可能な開発に関する行動原則が決められるとともに、「サステナビリティ」の概念が世界に普及したのもこのときからです。
「サステナビリティという、持続可能な社会を目指す、ということは今の社会が持続できないといっていることなんです。環境条約の大きな柱である『気候変動枠組条約』『生物多様性条約』が生まれたのもこの地球サミットです。子ども環境協会の代表として12歳のセヴァーン・スズキさんが感動的なスピーチを行ったことでも印象に残っています」
「地球サミット」は、国連が発表した持続可能な開発目標「SDGs」の誕生へとつながり、世界中が呼応するように2019年に行われた気候変動マーチなど、さまざまな活動が広がっていきます。
谷崎さんが「2030年まで残された時間はわずか7.5年」と強調する通り、気候変動対策は待ったなしの状況。世界の平均気温が産業革命前と比べて1.5度以上上昇すると、自然災害が激増すると言われています。ところが、1.5度未満に抑えるために排出が許されるCO2の量を、今のペースだとあと7.5年ほどで使い切ってしまうという研究報告が出ているのです。
そこで、気候変動への認知を広めるために、残された時間をカウンドダウンする時計「Climate Clock」が考案されました。2020年のニューヨークを皮切りに世界で設置が進められています。
アメリカの環境保護活動家のポール・ホーケンは、同国でベストセラーとなっている著書『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン著、 江守正多・東出顕子 翻訳、山と渓谷社刊)に、温暖化を止める方法は100通り以上あると明記。具体的な方法だけでなく、どれだけ費用がかかるかまで示しています。
しかし、そのようにいくら方法があっても、実際に人が動かなければ世界は変わりません。その点について谷崎さんは、「ハーバード大学の政治学者のエリカ・チェノウェス氏によれば、世界の3.5%の人々が気づけば、世界の価値観は変えられる」と説きます。さらにチェノウェスは、20世紀の数百にもおよぶ市民活動の調査から、非暴力的な活動は暴力的な活動に比べて成功率が2倍であることも明らかにしていて、ピースフルな活動は倫理的というだけでなく、最も強力な方法でもあると述べています。
人と人をつなげて地球規模の環境アクションを
日本で開催されている、アースデイ東京は、2001年に代々木公園で始まりました。
「環境問題に興味のない人にいかに環境問題を知ってもらうか。アースデイ東京はその入り口になるイベントなのです」
谷崎さんがそう紹介するアースデイ東京は、今では10万人以上が参加する日本最大規模の環境イベントに成長しました。今年も、多数のアーティストやミュージシャンが出演し、4月16日、17日に、東京の代々木公園とオンラインで開催されました。4月22日のアースデイ当日には、オンラインで視聴できるアースデイ気候会議が開催されます。
「現在、世界のアースデイ団体と連携をとっているEarth day. Orgでもネットワークをつくり、地球規模のアクションを起こそうと、動き出しています。日本でも、市民グループであるアースデイジャパンネットワークは、北海道や大阪、沖縄など全国にあるアースデイ団体とつながり、国内でのネットワークをつくりながら、皆で地球規模の環境アクションを起こしていけるよう活動しています」
谷崎さんは講演の最後にこう呼びかけました。
「アースデイは地球のことを考え、行動するための日です。ぜひ皆さんもアースデイに参加して、地球のことを考え、感じてみませんか。できることからやっていきましょう」
アースデイに読みたい1冊
谷崎さんの講演から環境問題を考えるためにおすすめの本をご紹介します。
『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』
ドネラ H.メドウズ著、ダイヤモンド社刊
『小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』
J.ロックストーム、M.クルム著、武内和彦・石井菜穂子 監修、谷淳也・森秀行 翻訳、丸善出版刊
『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』
ポール・ホーケン著、江守正多・東出顕子 翻訳、山と渓谷社刊