IoPを実現するデータシステムにAWSのクラウドサービスを利用

「高知県は耕作面積が広くないぶん、ビニールハウス栽培を中心とした施設園芸農業に力を入れてきました」と語るのは、高知県農業振興部農業イノベーション推進課IoP推進室の主幹・仙石健介さんです。施設園芸農業で栽培されたナスやミョウガ、ニラなどは、全国トップクラスの生産量を誇っています。

田んぼとビニールハウスの前に立ちほほ笑む男性。手には野菜
高知県農業振興部 農業イノベーション推進課 IoP推進室 主幹・仙石健介 さん

仙石さん「その一方で、就農人口の高齢化に伴う労働力不足、耕作放棄地の拡大など、高知県も農業全体が直面する課題を抱えています。それらの課題を解決し、将来を見据えて農業生産を維持していくためには、デジタル技術の活用は不可欠でした」

農業DXの取り組みとして、高知県では2018年から内閣府地方大学・地域産業創生交付金採択事業である「Next 次世代型施設園芸農業への進化」プロジェクトを推進しています。

仙石さん「県内の大学や農家と連携し、植物の見える化を図るIoP(Internet of Plants)を実現するプロジェクトです。その一環として、ビニールハウス内の農作物に関するデータをリアルタイムで集約するデータベースシステム『SAWACHI(サワチ)』を構築する際、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドサービスを利用しました」

ビニールハウスが10棟ほど並んでいる
高知県では温暖な気候の平野部を中心に施設園芸農業が発展してきた
緑色のシシトウが栽培されている様子
辛くないシシトウを開発するなど、高知県では農作物の品種改良も積極的に行っている

AWSの耐久性の高さや強固なセキュリティを重視

IoPクラウドと称される「SAWACHI」において、AWSのクラウドサービスはどのように活用されているのでしょう?

仙石さん「各農家のビニールハウス内に設置したIoTデバイスから取得した温度・湿度・CO2濃度・日射量などのデータ、カメラから取得した農作物の生育状態の静止画データなどを、すべてAWSに集約しています。約500棟のビニールハウスのデータが1分おきにアップロードされるので、膨大なデータを集約・管理できるAWSの耐久性の高さは重要なポイントでした」

複数のIoTデバイスとAWSとの接続には、AWS IoT Coreというサービスを利用しています。

仙石さん「温度や湿度といったビニールハウス内の状態を、パソコンやスマートフォンから遠隔で、リアルタイムで確認できるアプリケーションをAWSに構築しました。多くの農業従事者が使うものなので、AWS IoT Core による接続時の相互認証と暗号化といったセキュリティ面も重要でした。クラウドの構築は県として初の試みでしたが、AWSの担当者の手厚いサポートもあり、短期間で精度の高いものができたと思います」

また、拡張性の高さもAWSのクラウドサービスの利点だと言います。

仙石さん「『SAWACHI』という名称は、大皿に山の幸や海の幸を盛り合わせた高知の郷土料理・皿鉢に由来します。『SAWACHI』にも、農家の皆さんにとって役立つサービスをどんどん追加していきたいと考えています。AWSは拡張性が高く、カスタマイズしやすいので、新たなサービスを追加する際の利便性にも魅力を感じています」

ビニールハウスの中に半円形のカメラが設置されている
ビニールハウス内に設置された、農作物の生育状態を撮影するカメラ
スマホに表示されたアプリの様子。ハウス内の温度などが表示されている
AWSに構築した、ビニールハウス内の環境を確認できるアプリケーション

IoPクラウドを通じて農家の栽培面と経営面をサポート

AWSに集約された環境データは、農業イノベーション推進課や県内の大学が分析を行っています。

仙石さん「膨大なデータを分析し、農作物の生育に適した栽培環境を導き出し、農家の皆さんに共有しています。これによって、農家の皆さんの経験値やスキルが肉付けされると同時に、新たに就農される方のスキル習得・成長のスピードアップに貢献することができています」

実際に「SAWACHI」を利用している農家の方々からは、効果を実感する声があがっていると言います。

仙石さん「ビニールハウス内の栽培環境を管理しやすくなったという意見はもちろんですが、蓄積した過去のデータとご自身の経験値を組み合わせることで、精度の高い栽培計画を立てられるようになったという声をいただいています。農作物を安定的に生産し、供給することで、卸売市場の信用を獲得し、高知県産の農作物のブランディングにもつながっています」

ビニールハウスの中で会話をする男性2人
高知大学IoP農業研究会に参画するなど、農家の立場から農業DXを後押しする越智史雄さん(右)

AWSに構築された「SAWACHI」のアプリケーションは、県内の農作物の収穫量や、全国主要市場での取引価格などが閲覧できる点も特長です。

仙石さん「取引価格などの情報も組み込むことで、農家の皆さんの経営面もしっかりとサポートしたいと考えています。IoPクラウドによる農業DXによってスキルを高め、業務効率化や経営安定化を図ることで、高知県が掲げる『もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる農業へ』を広く実現していきたいですね」


誰もがデジタルによる恩恵を享受できる社会を築く

アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、2017年にパブリックセクター部門を立ち上げ、AWSを通じた公的機関のDXを支援しています。同社執行役員/パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮さんは、立ち上げの経緯をこう語ります。

オフィス内でほほ笑むスーツ姿の男性
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員/パブリックセクター統括本部長・宇佐見潮さん

宇佐見さん「官公庁、教育機関、医療機関、公益法人の4つの事業ドメインを柱に、公的機関にAWSをご利用いただき、国民がデジタルによる恩恵を享受できる社会を築くことをミッションとして、パブリックセクター部門を立ち上げました。2021年にデジタル庁が発足し、行政サービスのデジタル化が進むなど、ここ数年で社会におけるクラウド活用は劇的に加速しています」

AWSは同年から日本政府のガバメントクラウドに採用されるなど、公的機関での活用領域が大きく広がっています。

宇佐見さん「AWSのクラウドサービスの活用方法には大きな可能性があり、社会の課題や困難を突破する破壊力を備えています。コロナ禍を機に遠隔医療や遠隔授業への必要性が高まり、医療・教育分野におけるAWSの活用事例も増えました。AWSのポテンシャルをどのようにお知らせしていくかも、私たちが担う役割だと考えています」

公的機関でAWSの活用が進むことで、スタートアップも成長を遂げる

AWSが公的機関にもたらす最大の価値は、「テクノロジーとデータの民主化」だと宇佐見さんは語ります。

宇佐見さん「一部のエンジニアではなく、誰もが学習せずともAWSを使いこなせるという意味でのテクノロジーの民主化。そして、AWSクラウドに蓄積された公益性の高いデータを分析・共有し、社会全体に還元するという意味でのデータの民主化。プライバシーへの配慮は不可欠ですが、この2つの民主化の実現によって公共サービスが発展し、成長のスピードも格段に上がると考えています」

テクノロジーとデータの民主化によって、例えば、医療分野では次のような発展が期待されると言います。

宇佐見さん「病気の症状や処置方法、治療効果の傾向、最先端の研究といったデータがAWSクラウドで共有されれば、医療の発展に大きく貢献できると考えています。それまでは医療機関や用途ごとに分断していたデータを一括してAWSに保管し、世界中の研究者をつなぐプラットフォームを作り出すことも可能です」

公的機関でのAWSの活用が進み、社会にクラウドが浸透することで、クラウドを利用して社会課題の解決に挑むスタートアップも増えていくと宇佐見さんは考えます。

宇佐見さん「AWSのクラウドサービスは使用した分だけ払う従量制料金のため、コストメリットが大きく、革新的なビジネスモデルを創出しているスタートアップが数多く参入しています。私たちとしてもスタートアップ支援に力を入れ、AWSの活用を後押しするスタートアップとパートナーネットワークを確立してきました。AWSの活用スキル向上のためのトレーニングを実施するなど、さまざまなプログラムをパートナー企業に提供しています」

スマートフォンに表示されているアプリ「接触証明書アプリ」の文字が見える
スタートアップがAWSを活用して構築した、デジタル庁のワクチン接種記録システムおよび新型コロナワクチン接種証明書アプリ

スタートアップに新たなビジネスチャンスが生まれ、革新的なビジネスモデルを作り上げるために、AWSの特長を活用してほしいと宇佐見さんは言います。

宇佐見さん「AWSの特長として、従量制料金に代表される経済性、ガバメントクラウドにも採用されたセキュリティ面での安全性、社会の喫緊の課題に対して短期間でシステムなどを構築できる俊敏性が挙げられます。また、需要の増減に応じてクラウドサービスのリソースを増減させる弾力性も重要です。例えば、災害関連のシステムなどは災害時にアクセスが集中するので、弾力性は公的機関のサービスには欠かせないと思います」

PCの画面。プログラミングのアプリケーションの操作画面
教育現場の授業支援クラウド「ロイロノート・スクール」など、AWSの活用範囲は大きく広がっている

パートナーネットワークを強固なものとし、地域創生のDXを支える

今後の展望として、「AWSを通じて地域創生を後押ししていきたい」と宇佐見さんは言います。

宇佐見さん「産学官が一体となって社会課題を解決した高知県の農業DXは、地域創生においてAWSのポテンシャルが発揮された好事例だと捉えています。今後は、地方のスタートアップとのパートナーネットワークをより強固なものにすると同時に、地方自治体が取り組む地域創生のDXを支え、テクノロジーとデータの民主化による好循環を社会に生み出していきたいですね」

オフィス内で遠くを見ている男性
「公的機関のクラウド活用を地道に浸透させていきたい」と語る宇佐見さん

農業DXを実現した高知県の事例が示すように、公的機関におけるAWSの活用は、社会課題の解決や地域創生に貢献しています。その好影響は、農家の経営安定化や、公的機関のDX支援を行うスタートアップの成長にも及んでいます。公的機関によるDXを起点とし、中小企業やスタートアップが飛躍することで、社会の好循環が加速していくかもしれません。


アマゾン ウェブ サービス (AWS)とは?
AWS は、世界で最も包括的で幅広いお客様に採用されているクラウドプラットフォームです。世界中のデータセンターから 200 以上のフル機能のサービスを提供しています。大企業や主要な政府機関など、何百万ものお客様がAWSを使用することでコストを削減し、俊敏性を高め、イノベーションを加速させています。


本連載について
Amazonでの販売を支援する「Amazon出品サービス」、ビジネス上の購買をサポートする法人向けサービス「Amazon ビジネス」、決済サービス「Amazon Pay」、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」など、Amazonはさまざまな企業の課題を解決する多様な選択肢を提供しています。本連載では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む中小企業と、そのDXをさまざまなカタチで支援するAmazonのストーリーをご紹介します。

 過去のストーリーはこちら


そのほかのAmazonのニュースを読む