人口減少に伴う農家の減少や食料自給率の低下など、さまざまな課題が存在する農業。そんな中、強い使命感を持って農業の課題解決に挑む2社のスタートアップがあります。今回は、AIや機械学習などのサービスを提供するクラウドプラットフォーム、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用した両社の取り組みを紹介します。
養豚におけるさまざまな課題をテクノロジーで解決
東京都にある株式会社Eco-Porkは、AWSを活用したクラウド型養豚経営支援システム「Porker(ポーカー)」を開発し、次世代に食肉文化をつなぐというミッションに取り組んでいます。同社研究開発部長の大嶋尚一さんは、2017年の創業の経緯をこう語ります。
大嶋さん「代表取締役の神林隆が、次世代の子どもたちのために持続可能な社会を残したいと考え、着目したのが食肉文化でした。タンパク質の源である肉は、2050年までに需要と供給のバランスが崩れると予測されています。さらに、日本の畜産農家はこの50年で99%が廃業しており、食料自給率にも影響を及ぼしています。テクノロジーを活用して、そうした課題を解決できないかと考えたのです」
食肉の中でも市場規模の大きい豚肉にフォーカスし、神林さんが実際に養豚場で働きながら課題を見つけていったと言います。
大嶋さん「豚は一定の体重になるまで飼育された後、出荷されるのですが、数キログラムの誤差で取引価格が変動します。そのうえ、100キロを超える豚の体重を計測するためには、大変な労力と熟練の技術を必要とします。飼育頭数や豚の体重が手書きのアナログデータで管理されているなど、神林が実地体験することで多くの課題を発見しました」
意志やビジョンがあれば、それを実現できるのがAWSの魅力
それらの課題を解決するため、2018年、飼育頭数や出荷頭数などをクラウドで一括管理し、生産管理を見える化する「Porker」を開発。AWSにシステムを構築しました。
大嶋さん「『Porker』によって、現場の飼育者、養豚場の管理者、経営者、獣医師などが管理プロセスを共有し、適切な出荷タイミングの検討や、豚の健康状態の把握などが可能となりました。また、『Porker』と連動した、豚の体重を測定するサービスにもAWSを活用しています。自社開発した移動式カメラで豚を撮影し、画像データをAWSへ送信、独自の推論モデルによって豚の体の特徴点を解析することで体重を推測します。これによって、群れごとに飼育されている豚の体重の平均値を割り出し、日々の体重の増加率を予測することで適切な出荷計画をサポートしています」
同社のサービスを開発するにあたって、AWSの存在は必要不可欠だったと大嶋さんは続けます。
大嶋さん「AWSがスタートアップや起業家に必要なリソースを提供する無料プログラム『AWS Activate』を利用することで、イニシャルコストを最小限に抑えて開発に挑むことができました。創業当時はエンジニアが不在で、インターネットで公開されているAWSの使い方を独学で学んでサービスを構築しました。意志やビジョンさえあれば、それを実現できる。そんなユーザビリティの高さもAWSの魅力だと思います」
養豚を起点としたエコシステムを形成し、より良い社会を作る
「AI・IoTといったさまざまなテクノロジーを駆使する当社と、拡張性や自由度が高いAWSは相性が良い」と大嶋さんは語ります。
大嶋さん「当社はAWSのさまざまなサービスを統合してシステムやアプリケーションを構築しているので、AWSのサービスの豊富さや使いやすさにメリットを感じています。また、サービスを使用した分だけ料金が発生する従量制料金も、当社のようなスタートアップにとって効果的だと思います」
現在、「Porker」は国内シェア10%を獲得し、導入した養豚場では多くの効果が現れ始めています。
大嶋さん「生産管理を見える化することで、属人的な勘やコツから脱却し、技術の伝承、習熟スピードの向上といった効果が現れています。また、導入した養豚場では毎年、生産量が増えるという成果も得ています」
畜産農家が抱える課題を解決した先に見据えるのは、養豚を起点としたエコシステムの形成です。
大嶋さん「豚の生産から流通、消費までのプロセスをデータ化することで、無駄な廃棄や貯蔵を削減できます。豚の糞を肥料として再利用すれば、環境負荷を減らすことも可能です。こうしたエコシステムを形成することで、より良い社会を作っていきたい。農業のDXは、100年先の未来を作る重要な取り組みだと信じています」
衛星データと機械学習を活用し、農業が抱える課題解決を目指す
大学在学中、教育事業のスタートアップを起業した坪井俊輔さん。そんな彼が2018年、衛星データ解析および機械学習による農業課題の解決を目指し、サグリ株式会社を兵庫県で立ち上げたきっかけは、教育事業の関係で訪れたルワンダ共和国での出来事でした。
坪井さん「貧困によって教育を受けられない多くの子どもたちを目の当たりにして、教育現場を変革するだけでは負の連鎖は断ち切れないことにショックを受けました。流れを断ち切るためには、子どもたちの親の所得向上という根本から改善する必要がある。そう考えて、ルワンダの基幹産業である農業に着目しました」
しかし、ルワンダ共和国に何度も足を運び、農業の現状を把握することは容易ではありません。もやもやした気持ちを抱えて帰国した坪井さんは、あるニュースを知ります。
坪井さん「2017年に欧州の衛星データが無償公開されることを知り、『これだ!』とひらめきました。衛星データであれば遠く離れた土地の状況を分析し、把握することができるので、世界中に手を差し伸べられます。そうしたアイデアをもとに、衛星データと機械学習を活用し、農業が抱える課題解決を目指すサグリを起業しました。ただ、当初から収益性があるとは考えていませんでした。自分が人生を懸けてやりたいことは、ビジネスとして儲かるかどうかではなく、どのように社会の課題を解決するかなのです」
AWSには挑戦のハードルを下げる環境が整っている
農業が抱える課題の代表的なものに、耕作放棄地問題があります。同社が開発した「アクタバ」は、耕作放棄地などの農地調査の工数を9割削減することに成功し、全国の自治体で導入が進んでいます。
坪井さん「衛星データを独自の機械学習モデルによって解析し、耕作放棄地である可能性が高い農地を予測し、地図上に表示するサービスです。機械学習モデルの推論はAWSクラウドで行っています。さらに、田畑にどんな作物が植えられているかという、作付け状況を把握・記録できるサービス『デタバ』も開発しました」
自治体や農家の方々が農地の状況を確認するアプリをAWSに構築するなど、同社はさまざまな領域でAWSを活用し、スマート農業を後押ししています。
坪井さん「AWSにはさまざまなものが準備されていて、挑戦のハードルを下げる環境が整っています。扱うデータ量の増加に対応できる拡張性はもちろん、農村部でのネットワークスピードの低下や不安定さなど、新たな課題に直面しても、解決できるサービスが揃っています。従量制料金なので事業計画も立てやすく、さまざまな機能を組み合わせ、テクノロジーのトランスフォーメーションを実現できる点にもメリットを感じています」
多くのユーザーが利用するAWSは、「エンジニアにとっての共通言語」だと坪井さんは分析します。
坪井さん「AWSに関する膨大な知識がインターネット上に共有されているので、エンジニアは知識を深め、習熟のスピードを上げることができます。また、新たなエンジニアを採用した場合でも、AWSを共通言語としてスピーディに目的と方法を共有できる。この利点は非常に大きいですね」
DXによって日本の農業を持続可能なものとし、日本の食を守る
AWSをはじめ、さまざまなテクノロジーを駆使することでイノベーションが加速し、実現したいビジョンの幅も広がっていると言います。
坪井さん「DXによって実現できることは無限大です。将来的には、区画情報や作付け状況などを一元管理できるデータベースを形成し、農林水産省に提供したいと考えています。そうすれば、日本の農業を持続可能なものとし、日本の食を守ることにつながります。まずは日本で実績を上げて、世界へ打って出る。日本から世界の農業を変えるイノベーションを起こしたいですね」
AWSを活用し、農業が抱える課題解決に挑む株式会社Eco-Porkとサグリ株式会社。両社は、農業や食を持続可能なものにしたいという、強い使命感を持っています。さまざまな形でイノベーションを加速させる両社は、これからもAWSを活用することで、大きなチャレンジを続けていくことでしょう。
アマゾン ウェブ サービス(AWS)とは?
AWS は、世界で最も包括的で幅広いお客様に採用されているクラウドプラットフォームです。世界中のデータセンターから 200 以上のフル機能のサービスを提供しています。大企業や主要な政府機関など、何百万ものお客様がAWSを使用することでコストを削減し、俊敏性を高め、イノベーションを加速させています。
本連載について
Amazonでの販売を支援する「Amazon出品サービス」、ビジネス上の購買をサポートする法人向けサービス「Amazon ビジネス」、決済サービス「Amazon Pay」、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」など、Amazonはさまざまな企業の課題を解決する多様な選択肢を提供しています。本連載では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む中小企業と、そのDXをさまざまなカタチで支援するAmazonのストーリーをご紹介します。