DXが社会全体に浸透する中で、デジタルは私たちの社会の安全にどのように役立てられているのでしょうか? 今回は、200種類を超えるクラウドサービスを提供し、アプリケーション構築を支援するアマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用し、セーフティドライバーの育成と飲酒運転防止に取り組む中小企業の事例から、DXによる安全への取り組みについて紹介します。

交通ルールを楽しく学ぶオリジナルの学科教材を制作

福岡県大野城市で自動車学校を運営するミナミホールディングス株式会社では、代表取締役社長の江上喜朗さんが旗振り役となり、数年前からDXを積極的に推し進めています。

自動車教習所の目に立つ男性 コーデュロイのジャケットを着ている
ミナミホールディングス株式会社 代表取締役社長・江上喜朗さん

江上さん「人口減少が社会課題となる中で、自動車学校業界も深刻な人手不足に直面し、指導員が不足して生徒を受け入れられずに廃校するケースも存在します。セーフティドライバーの育成という教育の質の向上と、企業として存続していくことが当社の事業課題でした。そこで、業務を効率化し、人手不足を解消するためのDXに取り組み、2020年からオンライン配信プラットフォームとしてアマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用しています」

現在活用されているオンライン配信用の学科教材は、2017年に同社が独自に制作し、販売を開始したものです。

江上さん「従来は淡々と交通ルールを解説する学科教材が主流だったため、ストーリー性やユーモアを加味したアニメーションの学科教材を制作しました。生徒に学ぶ楽しさを提供し、社会から交通事故をなくしたいという想いを形にしたかったからです。リリース当初は表現方法を疑問視する声もありましたが、現在では全国130校以上に導入されています。導入校からは、生徒の満足度が上がったという声を多数いただいています」

 

交通標識について説明をする帽子をかぶった「DON!DON!ドライブ」のアニメキャラクター
エンターテインメント性を取り入れたオリジナル学科教材「DON!DON!ドライブ」
戦隊アクションのキャラクター5人とかめライダーの文字
江上さん自ら変身する交通安全のヒーローは、イベントなどを通じて同社の企業イメージを変化させた
大きな窓から教習所のコースが見えるカフェスペース
教習所内にカフェや託児所を設けるなど、さまざまなサービス向上に取り組んでいる

AWSを活用してオンライン配信プラットフォームを開発

同社が基幹業務や広告などのデジタル化を進める中、2020年12月、警察庁が新型コロナウイルス感染症予防の観点からオンラインでの学科教習を認める通達を発出しました。

江上さん「生徒側からもオンライン受講に関する要望があったので、すぐにオンライン配信プラットフォームの開発に乗り出しました。前例のない試みだったため、試行錯誤の連続でした。何度も県警側に細かな要件や仕様を確認し、それらをシステム開発業者とすり合わせる作業を繰り返しました」

開発にあたって課題となったのが、複数の生徒が同時視聴しても遅延しないクラウドの耐久性と、生徒のなりすましを防ぎ、授業態度を確認する顔認証でした。

江上さん「それらをクリアするためには、AWSがベストな選択でした。AWSにはストリーミング配信サービスがあり、拡張性が高いので耐久性もまったく問題ありません。さらに、画像・動画分析サービスにある顔認証機能も活用できるので、なりすましや居眠りなどの授業態度を確認・記録する機能を搭載することができました」

PCの画面にうつる女性の顔。左上に「本人確認」という表示
AWSの顔認証機能で定期的に写真を撮影することで、居眠りなどの授業態度を確認できる

DXを機に個別指導を行い、誰一人取り残さない教育を実践

プラットフォームの開発に着手してから約半年後の2021年5月から運用を開始しました。

江上さん「動画配信や顔認証など、必要なものがすべてAWSのサービスに揃っていたからこそ、スピーディな開発が実現できました。完成したプラットフォームは当社の教習所で運用した後、他校にも販売しています。現場視点で作られたプラットフォームであること、AWSがガバメントクラウドにも採用されていることの信頼性の高さから、100校以上の自動車学校に導入していただきました」

AWSを活用したオンライン学科教習への移行によって、指導員の業務効率化を実現した効果はさまざまな分野に変化をもたらしました。

江上さん「指導員の長時間労働が解消された上に、空いた時間を生徒の個別指導にあてています。模擬試験に受からない生徒や外国人生徒も含め、誰一人取り残さない教育を実践しています。今後も、交通安全教育の質とサービスの質の向上という、教育面と企業の持続性を意識したDXに取り組んでいきたいですね」

社員たちと会議を行う江上さん
同社の新しい取り組みに共感する入社志望者も増え、企業風土が変化しつつあると江上さんは語る

さらに、今回のプロジェクトで得た知見を別の分野にも活かす構想を練っているといいます。

江上さん「当社では操縦ライセンス (無人航空機技能証明) 制度が施行されたドローンの講習も行っており、自動車学科教習のプラットフォームを活かし、ドローンのオンライン講習も整備する予定です。AWSのサービスを活用すれば、将来的にオンラインでの自動車免許証更新も実現できますし、生徒の運転時のクセや傾向を分析し、技能教習に役立てることも可能です。自動車学校を起点に、業界のさまざまな課題をデジタルで解決する道を切り拓いて行ければと思います」


アルコール濃度測定器を開発し、運輸安全への貢献を目指す

運輸業・運送業では、乗務前後に運転者の健康状態や酒気帯びの有無などを確認する点呼が法令により義務化されています。静岡県富士市にある東海電子株式会社は、飲酒運転を防止するためのアルコール濃度測定器と、AWSを活用したクラウド型の点呼システムを開発・販売しています。現在でこそ同社の製品とシステムは18,000社以上の運輸・運送企業に導入されていますが、代表取締役の杉本哲也さんが入社した当時、同社は電子製品の下請企業でした。

電子機器の前に立つブレザーを着た笑顔の男性。メガネをかけている
東海電子株式会社 代表取締役・杉本哲也さん

杉本さん「前職で技術系メーカーに勤務する中で、質やコストにおいて、海外企業に押される日本の製造業に危機感を抱きました。2001年に事業承継を見越して、父が1979年に創業した当社に入社したとき、新しい分野に挑み、自ら製品を開発したいという想いはより強いものになっていました」

そんな中、飲酒運転が引き起こした悲惨な事故のニュースを知り、「我々が培ってきたものづくりの力を活かして、交通事故撲滅や運輸安全に貢献できないか」と考えるに至ったといいます。

杉本さん「そこからは、試行錯誤しながらアルコール濃度測定器を開発し、パソコンを使ってデータを記録・管理するシステムの構築に全力を注ぎました。まさにゼロからのスタートでしたね」

創業者である父親からの事業承継もスムーズだったといいます。

杉本さん「新たな事業を始めることに対して父は非常に前向きで、これからの時代に下請けでは生き残れないことを自覚していました。悲惨な交通事故をなくしたいという想いにも賛同してくれて、新しい事業を起こして社会に貢献することは、今振り返れば父と私の共通の使命だったと思います」

パソコンの横に置かれた測定器。小型カメラと息を吹きかけて呼気を測定する器具が取り付けられている
アルコールを測定し、管理・記録までを一括で管理できる「ALC-PROⅡ」
数本のホースにつなげられた器具を持つ作業員
自社工場で製品を製造した後、アルコール基準値への反応を確かめる検品が入念に行われる

使いやすく、管理しやすいシステムをAWSクラウドで開発

製品開発に着手した2002年当時、点呼は対面で行うことが義務付けられていましたが、2007年の法改正により、IT機器を通じて遠隔で点呼を行うIT点呼が認められました。そこで同社は、運転者の顔写真やアルコール測定時の写真、測定時刻などをパソコンに記録し、メールで運行管理者に共有するシステムを開発しましたが、メールのブロックや遅延といった問題に直面します。

杉本さん「運行管理者の承認を得ないと運転者は出発できないため、メールのブロックや遅延は業務上の支障につながります。そこで、2016年にデータを瞬時に共有できるシステムの開発に着手しました。多くの企業様のデータを扱うため、セキュリティ、クラウドの拡張性、信頼性の観点からAWSのクラウドサービスを採用しました。また、AWSの画像・動画の認識・分析サービスを活用し、顔認証を実現することで、ログイン時のID入力の省略、アルコール測定時の身代わりといった不正防止も実現しました。運転者にとって使いやすいこと、運行管理者にとって不正を防止できることは、AWSだからこそ得られた成果だと思います」

測定結果を表示するパソコン画面
顔認証機能によって身代わりを防ぎ、個人のデータを記録・蓄積することができる
測定結果の画面表示
記録したデータを分析することで運転者の健康状態の把握にも役立てることができる

AWSのクラウドサービスへの移行で業務効率化と経営安定化を実現

AWSによるクラウドサービスへの移行は、システムのメンテナンスにも大きな成果をもたらしました。

杉本さん「移行前は、システム不調時は電話で応対し、お客様のもとへ出向く場合もありました。お客様第一を貫く一方、従業員の移動時間や出張経費の削減は常に課題でした。その点、クラウドサービスなら遠隔でメンテナンスできるので、業務効率化や経営安定化に大きく貢献しています」

AWSのコストメリットも、経営面において重要なポイントだと言います。

杉本さん「AWSはサービスを利用した分だけ費用が発生する従量制課金なので、スモールスタートを切ることができました。当社のような中小企業は投資余力が限られているので、一気に巨大なシステムを開発するリスクは非常に大きい。AWSを使えば必要な部分からスタートし、必要に応じてサービスを拡張できるので、投資のロードマップを描きやすいという利点がありました」

笑顔を見せながら社員をミーティングをしている杉本さん
事業承継前は約20名だった従業員は、事業転換に成功したことで約150名に増えている

従業員のマインドに与えた影響もあるといいます。

杉本さん「デジタル活用によって従業員の視野が広がり、情報発信や社会貢献に前向きな気持ちが生まれました。今後も、ものづくり企業としての誇りを胸に、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた相乗効果を通じ、社会の交通安全に貢献していきたいと考えています」

将来的には、蓄積したビッグデータの活用も視野に入れています。

杉本さん「当社には、いつ、どこで、誰が点呼を行い、事故が起きたかというデータがクラウドに蓄積されています。それらを分析することで、交通事故の減少に貢献できることは間違いありません。将来的には国土交通省にデータを提供し、1件でも悲しい事故を減らすために役立てられればと考えています」

AWSを活用し、交通安全教育と飲酒運転防止に取り組む両社。交通安全のため、そして中小企業の持続性や従業員の成長においてもDXは重要な役割を果たしています。DXが社会に貢献する分野は、これからも増えていくことでしょう。

2022年のこのシリーズでは、事業承継、地域活性化、働き方改革などの社会課題の解決のためにDXを活用した事例や農業や水産業などの第一次産業におけるDXについてご紹介しています

AWSとは?
アマゾン ウェブ サービス (AWS) は、世界で最も包括的で幅広いお客様に採用されているクラウドプラットフォームです。世界中のデータセンターから 200 以上のフル機能のサービスを提供しています。大企業や主要な政府機関など、何百万ものお客様がAWSを使用することでコストを削減し、俊敏性を高め、イノベーションを加速させています。


本連載について
Amazonでの販売を支援する「Amazon出品サービス」、ビジネス上の購買をサポートする法人向けサービス「Amazon ビジネス」、決済サービス「Amazon Pay」、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」など、Amazonはさまざまな企業の課題を解決する多様な選択肢を提供しています。本連載では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む中小企業と、そのDXをさまざまなカタチで支援するAmazonのストーリーをご紹介します。
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