「お客様を起点に考えるのがAmazon。私の業務では、社員がお客様です。そう考えたら、社員の皆さんのために何でもやってみようと思えるようになりました」
平岡恭子さんは今年、Amazonに入社して15度目の春を迎えた。業務はオフィス計画策定のほか、受付、郵便物の管理や出張手配などの総務全般、社員食堂の運営など幅広い分野を取り仕切るファシリティ・マネージャーを務めている。2012年の渋谷から目黒オフィスへの移転、2014年の目黒第2オフィス開設、そして2018年の目黒第3オフィス開設を手掛け、日本でのAmazonの成長を支えてきた1人だ。
「入社した頃は、まさか自分がこれほど大きな仕事を任せてもらえるようになるとは思ってもみませんでした」と当時を振り返る。
外資系金融での資金調達のキャリアを積んだ後、子育てを契機にキャリアチェンジを行い、外資系デザイン会社でのプロジェクト・マネージメントを務めた経験が認められ、2005年4月Amazonに入社。当時は、Amazonが日本で営業を開始してから約4年半が過ぎた頃で、東京オフィスで勤務する社員もまだ170人程度だった。
「当時はいかにもベンチャーという雰囲気があり、面接の際に訪れたオフィスの様子を見て、『これはやりがいがありそう』と感じました。オフィス内の整理整頓、家具の配置や動線など改善すべき点がすぐにたくさん見つかり、ぜひこの仕事に就きたいと思いました」
そんな平岡さんだったが、実はすぐに入社したことを後悔したという。
「ファシリティ・マネージャーという肩書ではありましたが、当時は受付スタッフと私の2人だけ。部署の場所も誰が何をしているかもわからない入社直後に、5フロア分の社員全員の郵便物を1人で仕分けして配らなくてはならなくなり、その時はさすがにため息が出ました」
しかし、平岡さんはくじけることなく、その壁を乗り越えた。
「もともと負けん気が強い性格ですから、どうせ同じことをするのなら、エキスパートになろうと思いなおして、笑顔で『おはようございます』って言いながら毎日、両手で持ちきれないほどの郵便物を配りました。そのうえでもちろん、スタッフを雇用してもらえるように、本社に要望書も提出しました。お客様を起点に考えるのがAmazon。私の業務では、社員がお客様になります。そう考えたら、社員の皆さんのために何でもやってみようと思えるようになりました」
そうした平岡さんの姿勢が伝わったのか、次第に日本の幹部たちからも協力が得られるようになり、本社からも信頼を獲得し、要望が通りやすくなっていった。その要望の中には、女性の働く環境や社員の健康を考えた平岡さんの強い思いが込められたものもあった。
「ある時、出産後に仕事に復帰した女性社員から『搾乳する場所がないため仕方なくトイレで搾乳をしていると、なんだか悪いことをしているみたいで悲しくなる』と聞いたのです。自分も子育ての経験があったので、ハッとしました」
すぐに個人で予約できる休憩室に消毒用アルコールと冷蔵庫を設置し、消毒と搾乳した母乳を冷凍することができるように整備した。
2012年の目黒への移転時には、社員の健康面と利便性を考え社員食堂を設置。メニューの種類、味付け、価格、そして食べやすさを考えたお弁当の盛り付けまで、開業後も運営会社と何度も丹念に話し合い、社員から愛される社員食堂に育てあげた。サラダバーは大好評で、昼時には山盛りのサラダを食べる社員の姿がよく見られる。
「サラダバーを始めたときに、若い男性社員から『ここの野菜のおかげでとても助かっています。健康になりました』と声をかけられて、うれしかったですね。ランチタイムにリラックスしながら食事ができることって大事だと思うんです。談笑しながら食事している姿を見ると、うれしくなります」
仕事を終えて帰宅するのは、夜8時を過ぎることが多いという平岡さん。ご主人と二人で、録画しておいた朝の連続ドラマを見るのが、ほっと安らぐ夫婦の日課となっている。毎週土曜日には仏像を彫る木彫教室、月に一度はオペラのレッスンにも通う。意識的に自分を解放させる時間を作ることで、ワーク・ライフ・ハーモニーを保っているという。
「習い事ではまったく異なる分野の方と交流できるので、世の中にはこんなに素晴らしい人がいるんだと感動したり、さまざまな刺激を受けます。大きな声でオペラを歌うとすっきりしますしね。歌詞の意味をもっと深く理解したくなって、以前始めたイタリア語をまた再開しようかなと思っています」
昨年、目黒の3つ目のオフィスをオープンさせるという大仕事を終え、現在は、既存のオフィスの改善を進めている。ダイバーシティ(多様性)を重視し、好評だった植物に囲まれた空間を増やし、より健康的に過ごせる環境に改造していく計画だ。
「睡眠時間を除けば、自宅より会社で過ごす時間の方が長い人がほとんど。だからこそ、オフィスはみんなが快適に過ごせるようにしなくてはならないと考えています。作ったから終わりではなく、新しいオフィスで試みたことを検証し、改善を続けています」
Amazonでの14年間、さまざまな機会が与えられ、まったく飽きなかったと話す。
「私たちの仕事は1人ではできません。ここまで続けてこられたのは、出会った人達が協力してくださったおかげです。私は大学の建築学科出身でもないので、しっかりとサポートしなくてはと思ってくださるのか、デザイナーの皆さんや協力会社の皆さんが助けてくださいます。人に恵まれて本当にありがたいと思います。6000人以上の社員の皆さんがより働きやすくなるよう、そして家族や友達にオフィスを自慢したいって言ってくれるようになるまで、もっともっとがんばりたいです」
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