2020年は、これまでにない一年でした。3月までに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に広がり、家族、企業、コミュニティに影響を与えました。1年が経った今でも、多くの人々がこの感染症の拡大と戦い、新しい変異株の登場が私たちのコミュニティを脅かしています。感染拡大が速かったことから感染者の診断は遅れ、医療関係者はテクノロジーを活用する新たな方法を模索してきました。

各国がCOVID-19検査の規模拡大という課題に取り組むなか、私たちは昨年4月、アマゾン ウェブ サービス(AWS)診断開発イニシアチブを立ち上げ、世界中の組織がクラウドを活用して診断ソリューションに関する研究開発を加速できるよう支援してきました。AWSは2,000万米ドルのクレジットを提供するとともに、AWSプロフェッショナルサービスのチームが専門的な知見を提供することで、AWSを活用して診断技術の革新を進めるお客様をサポートしています。

AWSはこのイニシアチブの第一フェーズにおいて、スタートアップ、非営利団体、研究機関、企業などの17か国・87団体を支援しました。AWSは、抗体、抗原、核酸などの分子検査、画像診断、ウェアラブル端末、人工知能(AI)や機械学習(ML)を利用してウイルスを検出するデータ分析ツールなど、さまざまな診断プロジェクトを支援し、800万米ドルを提供しました。

今年、新フェーズを始めるにあたり、AWS診断開発イニシアチブの範囲を拡大し、残りの1,200万米ドルを提供できることを嬉しく思います。具体的には、1)個人やコミュニティレベルでの発生を特定するための早期疾患検出、2)疾患の軌跡をより深く理解するための予後診断、3)世界的なウイルスゲノム解析を強化するための公衆衛生ゲノミクスの3つの新分野に範囲を拡大します。COVID-19に関するプロジェクトを優先しますが、他の感染症に焦点を当てたプロジェクトも評価の対象とします。申請は2021年年末まで受け付けますが、7月31日までに受理された申請を優先的に考慮します。ご興味のある方は、こちらからご応募ください(英語のみ)。

AWSはこの1年間に、機械学習を活用したX線画像解析から、迅速かつ高品質な消費者に直接、お届けできる検査の開発まで、スタートアップ企業や多様な組織が診断方法に変革をもたらすイノベーションに取り組む様子を見てきました。これは今後も進化し続け、各国の将来の感染症発生時の対応を支えてくれるでしょう。

お客様のイノベーションを加速

AWS診断開発イニシアチブでは、医療診断の可能性を変え、COVID-19の検出に向けた効果につながる複数のプロジェクトを加速しています。これらのプロジェクトは、医療界がCOVID-19に迅速に対応できるようにするだけでなく、他の多くの感染症にも影響を与えます。ここでは、AWS診断開発イニシアチブから資金を提供したプロジェクトの例を紹介します。

シンガポール・Medo:AIを活用し、医療従事者による重篤なCOVID-19の症例の迅速な把握を支援

Medoは、シンガポールで設立され、カナダのエドモントンに本社を置くAIヘルスケアスタートアップです。AWS診断開発イニシアチブの支援を活用して、Medo Lungソリューションの開発を加速させました。Medo Lungは、肺の超音波スキャンを素早く行い、AIアルゴリズムで精査することで、患者の肺機能が正常であるか、COVID-19に関連する重篤な合併症の多くにつながる間質性肺炎などの合併症を患っていないかを検出できるようになります。このスキャンは、COVID-19検査を行うクリニックにおいて数千人の患者に実施することができ、緊急性の高い患者を特定することで、迅速かつ正確なトリアージを支援することができます。これにより、患者、特に高齢の患者が、どうしても必要な場合を除き、外出して医療機関に行く必要がなくなり、医療資源を効果的に利用しながら、潜在的な感染を避けることを支援します。

AWS診断ソリューションの開発イニシアチブを強化し、資金提供の範囲を拡大
MedoのAIは、肺の超音波画像におけるBラインやコンソリデーションの存在を識別して表示します。これらの特徴の存在はさまざまな肺の合併症と関連しており、COVID-19を含む肺疾患の存在と重症度を示す可能性があります。

MedoはAWSと超音波を活用することで、放射線科医や臨床医による肺やその他の病状の診断を容易にすることができるようになりました。その結果、医療従事者は一般的な疾患と重篤な疾患をより迅速かつ正確に診断することができ、個々の患者に適した治療方針をより迅速に把握することができます。

Medoは現在、カナダでMedo Lungソリューションを試験的に導入しています。COVID-19に加えて、Medo Lungは、肺炎、胸水、気胸、肺水腫などの疾患にも対応しています。

AWS、診断ソリューションの開発イニシアチブを強化し、資金提供の範囲を拡大
Medo 共同創業者 David Quail(デイビッド・クエイル)氏

Medo 共同創業者 のDavid Quail(デイビッド・クエイル)氏は、次のように述べています。「COVID-19により、最も必要とされる診療現場であらゆる医療従事者が実施でき、患者に快適かつ安全な環境を保つことができるAI診断の必要性が改めて認識されました。医用画像の利用を民主化し、できる限り多くの人々に当社のソリューションを提供するという当社のビジョンはさらに具体化しました。Amazon SageMakerやAmazon Textractなどの先進的なAWSのAI/MLサービスを利用することで、短期的にも、コロナ後を見据えた長期的にも、患者さんに大きな変化をもたらすMedo Lungを開発することができました」

放射線科医 兼Medo 共同設立者のJeevesh Kapur(ジーヴェシュ・カプール)博士は次のように述べています。「超音波による自己診断を世界各地で民主化するという私たちの取り組みを可能としているのは、人工知能と機械学習です。AWSを活かすことで、患者の診療や管理に必要なインフラがない場所も含めて、患者のアウトカムを大きく改善することができました。臓器をスキャンするのにかかる時間はわずか数秒で、我々のアルゴリズムは1分以内に信頼性の高い結果を提供し、医用画像へのアクセスと初期段階における信頼性の高い診断をすべての人に提供します」

AWS、診断ソリューションの開発イニシアチブを強化し、資金提供の範囲を拡大
放射線科医 兼Medo 共同設立者のJeevesh Kapur(ジーヴェシュ・カプール)博士

インド・オンコフェノミクス:次世代シークエンサーで変異したCOVID-19ウイルスを迅速に検出

オンコフェノミクスは、インドのハイデラバードを拠点に、がんや感染症の診断ソリューションを開発するヘルステック・スタートアップです。同社は、インドにおけるCOVID-19ウイルスの遺伝子疫学を研究しており、迅速かつ正確で手頃な価格の検査の必要性に取り組み、それを大規模に適用することで、国が感染者を特定し、COVID-19ウイルスの亜種に感染した患者に検疫措置を講じるための検査・追跡を実施できるようにしています。

現在は実用化されているすべての検査が、懸念されている新しい変異株を検出できるわけではありません。オンコフェノミクスは、こうした変異株に特化した診断法の不足を踏まえ、2ステップからなる唾液を利用した包括的な診断ソリューションを開発しました。唾液を使ったCOVID-19診断ソリューションは、その場で、かつ、数分の時間で患者のCOVID-19検査を行うことができ(自己採取型の検査で、綿棒を使う必要はなく、看護師などのサポートも必要ありません)、陽性のサンプルは研究所に送られ、同じ唾液サンプルを使って数時間以内に完全なウイルスRNAの配列を決定する第三世代のリアルタイムロングリードシークエンシング(Oxford Nanopore Technologies)アプローチを用いて、COVID-19ウイルスの変異株を正確に診断することができます。

AWS診断ソリューションの開発イニシアチブを強化し、資金提供の範囲を拡大
DNA Genotekの唾液採取キット
©DNA Genotek

このデータは、オンコフェノミクスが独自に開発したバイオインフォマティクス・パイプラインを用いて、AWSのクラウド上にアップロードされ、解析されています。オンコフェノミクスは、すべての患者のサンプルを、インフルエンザウイルス遺伝子データベース「GISAID」(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data、すべてのインフルエンザウイルスとCOVID-19の原因ウイルスのデータの迅速な共有を促進するイニシアチブ)を介して100万以上のCOVID-19ウイルスゲノムの世界的なリポジトリと数分で比較し、臨床的な相関関係を持つ変異株に関するレポートを迅速に作成することができます。

政府、公衆衛生・検査機関、医療従事者は、このプラットフォームを利用することで、COVID-19ウイルス変異株に感染した個人を効果的に特定し、地域社会におけるさらなる感染拡大を防ぐための適切な介入を計画することができます。インドやその他の国で発生しているCOVID-19の第2波に対抗するためには、このような迅速な介入が不可欠です。

オンコフェノミクスの唾液を用いたCOVID-19診断ソリューションは、2021年6月までにインド・医学研究評議会Indian Council of Medical Research:生物医学研究の策定、調整、促進を目的としたインドの最高機関であり、世界で最も古く、最大規模の医学研究機関の一つ)による性能評価と臨床検証を経て、同・中央医薬品基準管理機構(Central Drugs Standard Control Organization:医薬品および医療機器に関するインドの国家規制機関)による承認を得る予定です。その後、インドでの提供開始を経て、シンガポールやその他のアジア太平洋地域でも展開される見込みです。

AWS診断ソリューションの開発イニシアチブを強化し、資金提供の範囲を拡大
医師であり、オンコフェノミクス創業者 兼 CEO であるShibichakravarthy Kannan(シビチャクラバルシー・カナン)博士
Mallikarjun Katakol

医師であり、オンコフェノミクス創業者 兼 CEO であるShibichakravarthy Kannan(シビチャクラバルシー・カナン)博士は次のように述べています。「AWSは、私たちがクラウドを活用することを容易にしてくれます。私たちの目標は、従来のRT PCR(Real-Time Polymerase Chain Reaction)検査に影響を与える新たな変異株を考慮し、COVID-19検査の有効性、つまりその正確性、特異性、感度の問題に取り組むことです。私たちは世界がCOVID-19の新たな波という差し迫った脅威に直面している重要な時期に、短期間でエンドツーエンドの強固なCOVID-19診断ソリューションを開発するために、あらゆるリソースを投入しました。データ分析の中には、計算量が多く、クラウド上でしか実行できないものもあります。GISAIDで公開されているデータセットとAWSの拡張性の高いクラウドコンピューティングがなければ、COVID-19変異株に対応するこの検査ソリューションを開発することは不可能だったでしょう。現在、唾液ベースの検査ソリューションであるポイントオブケア診断パート1は、インド固有の変異株を対象としていますが(パート2のナノポアシークエンスはすべての変異株を発見できます)、新たなCOVID-19の波に対応するため、世界中のあらゆる地域に合わせてカスタマイズしていきたいと考えています」
米スタンフォード大学医学部:スマートウォッチを使った診断用アラームシステムを開発

スタンフォード大学医学部ヘルスケア・イノベーション・ラボの研究者らは、COVID-19感染症と闘うための兆候をとらえるスマートウォッチ・アプリを開発しました。このアプリは、個人の安静時の心拍数と歩数の変化を検出するアルゴリズムを搭載しており、パイロット試験では新たに感染した人が症状を自覚する10日前に警告を発することに成功するなど、初期段階で良好な試験結果を得ています。

スタンフォード大学によるスマホアプリの画像
スタンフォード大学が開発したCOVID-19スマートウォッチアプリ「MyPHD」スタンフォード大学が開発したCOVID-19スマートウォッチアプリ「MyPHD」
スタンフォード大学

このアプリは次の研究段階に入っており、スタンフォード大学のチームは、COVID-19の兆候をリアルタイムで検出する能力を高めるため、1,000万人を目標に試験への参加者を募集しています。このスマートウォッチを利用した早期発見システムは、AWSプロフェッショナルサービスチームによるデータ処理パイプラインに関する支援を受けてAWS上に構築されました。

こちらを向いて微笑んでいる男性。著者のアマゾン ウェブ サービス パブリックセクター部門 アジア太平洋・日本担当マネージングディレクター ピーター・ムーア
著者のアマゾン ウェブ サービス パブリックセクター部門 アジア太平洋・日本担当マネージングディレクター ピーター・ムーア(Peter Moore)
Kwek Ke Yuan

スタンフォード大学医学部 遺伝学分野教授 兼 学科長のMichael Snyder(マイケル・スナイダー)博士は、次のように述べています。「身に着けられるデバイスを用いた継続的な検診により、現在の検査の壁を克服するための拡張的な診断ソリューションが提供されること、また、より多くの研究者にデータへのアクセスを拡大することで、人々の健康を向上させる新たな発見に貢献できることを期待しています。今後もクラウドを活かして、可能性の限界に挑戦していきたいと思います」

世界中のお客様がクラウドテクノロジーを活用して迅速に診断を進めることで、この困難な時期にCOVID-19と闘う人々を支援し、政府による効果的な医療資源の活用を通じて、より多くの命を救うことを支援するという創意工夫に、私たちは心を動かされ続けています。多様な組織やコミュニティが将来の感染症の発生を把握し、より迅速に対応できるよう、クラウドテクノロジーの幅広い利用を支援していきます。

2020年に資金を提供したその他の団体については以下をご参照ください。
AWS Diagnostic Development Initiative (DDI)

この記事は、4月12日にアメリカ版のAmazon Blog Day One に掲載された記事の翻訳版です。

アマゾン ウェブ サービス(AWS)、新型コロナウイルス感染症の診断・研究・テストを加速するグローバルイニシアチブを開始も併せてお読みください。