“挑戦することが楽しいんだっていうことを表現していきたいですね”
株式会社ヤマップ社長 春山慶彦さん

 20代の頃は、人生で何をすべきかを真剣に悩んでいたという春山慶彦さん。その答えを求めてフィリピンでのボランティア活動、写真家を目指してのアラスカ留学、旅行系出版社勤務などさまざまな経験を重ねてきた。そうした経験を経てあらためて思いを強くしたのは、自然や風土を尊ぶ気持ちだった。
 「本来人間は自然の中から生まれてきた生物であって、自然と切り離された存在ではないと思うのです。よい仕事をする職人や農家の方たちは風土に根差している強さを持っています。都市の中で暮らしていると、自然とつながる感覚が薄らいでしまいますが、よい仕事をするためには、自分が自然の中にいるという本来なら当たり前の感覚を取り戻すことが、必要だと考えるようになりました」
 その考えをじっくりと熟成させて春山さんが作ったサービスが、登山中に自分の位置をスマートフォンで確認できる登山アプリ、YAMAP(ヤマップ)だ。GPS衛星が発信している電波を利用するため、携帯電話の電波が届かない場所でも使用できる。その着想は、春山さんが登山をしていた時に、偶然GPS衛星の電波がスマートフォンの画面上に表示されることに気づいたことから得たものだ。

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樋口浩平さん

 「人の心は“べき論”では動きません。楽しいとかワクワクするとか、ポジティブな回路を通して、都市と自然をつなぐ仕事ができないか。そう考えた時、登山やアウトドアは、都市化が進む現代において最適だと思いました。しかも山という環境の中で、緊急時には人の命を救うツールにもなることにやりがいを感じました」
 着想を得た2011年5月からエンジニアの樋口浩平さんと共に開発を始め、アマゾンウェブサービス(AWS) のスタートアップ*支援「AWS Activate(アクティベート)」を利用し、2013年3月にサービスをスタートさせた。

AWS
Yamapのオフィス

 「当初は2人だけでしたし、AWSを使うのも初めてだったので、試行錯誤の連続でした」と笑う樋口さん。「AWSには新しいことを始めやすい環境が整備されている上、起業したての時期に技術サポートを無償で受けられたり、サーバー費用の負担が軽減されたりしたことで安心して開発に臨めた」という。
 現在YAMAPのアプリのダウンロード数は50万を超え、登山・アウトドアの愛好者から多くの支持を集めている。登山アプリという性質上、季節によって利用者数が大きく変化するため、サーバーの利用量をスムーズに変更できるAWSは春山さんたちにとって、低コストというメリットに加え、YAMAPのサービスの安定性の面でも信頼がおける重要な存在になっているという。
 YAMAPでは、月に1回、平日に社員全員で登山を行い、自分たちでサービスを検証しているほか、お客様に直接会う機会も積極的に設けている。お客様の声を開発に生かし、優れたサービスを生み出している環境は、開発者のやる気向上にもつながっているようで、東京や大阪からオフィスのある福岡に移住してくるスタッフも増えている。
 「僕らは勤務時間を8時半から5時半までと決め、残業はほとんどしていません。スポーツの試合時間のように、限られた時間の中でどれだけ生産性を上げられるかを意識して仕事をしています」
 働き方にも暮らしそのものを楽しみ、大切にすることで、良い発想や良い仕事がうまれるという春山さんの理想が反映されている。
 「子育て中の社員も多いですし、暮らし全般で考えると、東京よりも家賃が安くて通勤時間も短い地方のほうが有利だと思っています。東京以外の選択肢や新たな働き方を提示するのも、僕たちのようなスタートアップが担う役割の一つではないかと考えています」
 今は、世界全体が変革期にあると感じている春山さん。そういう時代だからこそ、失敗を恐れない文化を日本に根付かせたいという。
 「僕自身、『アラスカに行ってどうするんだ』とか、事あるごとに人から反対され続けてきました。でも今30代になって思うのは、これまでの経験のどれひとつを外しても今の仕事にたどり着けなかったということ。今の若い人たちや、やりたいことがあっても踏み出せずにいる人も、今の時代の価値観の延長で自分の生き方を図るのではなく、自分の命がときめくことに素直に従って物事を進めていったほうが、結果的にいい仕事ができるんじゃないかなと思います。そのためにも、挑戦することが楽しいんだっていうことを仕事を通じて表現していきたいですね」
**スタートアップとは、これまでにない事業領域を開拓する新興企業のことです。


*Amazonウェブ サービス(AWS)とは、Amazonのクラウドコンピューティングサービスです。

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