自社製品の魅力をお伝えできることで、新たなお客様と出会えていると実感しています
白鳥が飛来することで知られる瓢湖。その近くに蔵を構える越後桜酒造は、新潟県で120年以上続く造り酒屋。1970年代中頃から全国的に日本酒の消費量が減るなかで、蔵の存続のために地道な努力を積み重ねてきた。老朽化した蔵を2009年に全面的に建て替え、大吟醸酒の大量生産に舵をきったのもそのうちのひとつだ。
高級な大吟醸、純米大吟醸の生産を増やし、普段から気軽に飲める価格にすることで、日本酒の魅力を広めたいという思いから生まれた大転換だった。作るのが難しい大吟醸を生産の中心とすることで、他の製品の品質も向上させ、蔵全体の技術を底上げさせることも意図した。
建て替えでは、蔵に空調設備を備えることで製造可能な期間を長くし、品質を保ちながら生産性を向上させた。また、手作業の必要な工程を選別し、負荷の掛かる場所には機械を導入。少人数でも生産可能な体制を整えることで、高齢化が進む造り手たちの作業負担軽減と人員不足の解消を図った。そうした改革から誕生した低価格で高品質の大吟醸は地元を中心に売り上げを伸ばした。しかし、取引先の酒店やスーパーなどでの売り場面積の減少と、日本酒の消費者層の高年齢化は解消する方法が見つからなかった。
「店舗では商品棚のスペースが限られるため、たくさんの種類の商品を並べることができません。それがさらに縮小してしまっては売上だけでなく、若い世代のお客様に日本酒の魅力を知っていただく機会さえなくなってしまうことに危機感がありました」と社長の長(おさ)昌幸さんは言う。
販路を模索し、売り場面積を気にせずに商品を販売できる自社サイトなどでインターネット販売にも挑戦したが、経験が乏しく、専任担当者を置くほどの余裕がなかったため、大きく展開することはできずにいた。
Amazonから商品納入の依頼を受けたのはそんな時だった。
手間をかけずにインターネットで販売ができるのなら、と納品を開始。最初はぽつぽつと売れる程度だったが、約1年後から勢いがつき、2016年にAmazon.co.jpの日本酒ストアがリニューアルされ、商品情報がより詳しく掲載されるようになると、売上は大幅に伸びた。
「作り手にとって売上の伸びは大きな励みになります。カスタマーレビューも参考になりますし、たくさんの商品の中で意外な商品が好調だったり、サイズを変えるだけで売上が変わったりするのは、新たな発見でした。これまで全国に広告を出すことなんてできなかったのですが、Amazonの商品ページで自社製品の魅力をお伝えできることで、全国の新たなお客様と出会えていると実感しています」
高齢化が進み、技術の継承が懸念された造り手たちにも変化が起きた。昨年は久しぶりに地元の20代の若者が2人入社した。そのうちの1人の本間光さんは、酒蔵ごとに個性のある酒造りの世界に憧れ入社したという。先輩たちの中にすっかり溶け込み「想像していたより体力仕事で、筋肉痛になったりもしますが、毎日が楽しいです」と笑顔を見せる。
越後桜酒造では、これまでも一般のお客様を蔵に招く蔵開きの開催や、随時行っている酒蔵の見学など、日本酒の魅力を伝える取り組みを行ってきた。長さんは、これからも日本酒のファンを増やすための挑戦を続けていくという。直近では、昨年鑑評会で優秀賞を受賞した純米原酒をAmazonで販売することを決めた。
「新酒の鑑評会用に特別に仕込んだ酒は流通させるには量が少ないため、これまでは販売せずにいたのですが、Amazonでなら少量でも販売できると気づいたのです。こうした様々な切り口で商品をご紹介することでお客様に日本酒のおいしさを発見していただきたいですね」