Amazonはパリ協定の目標を10年前倒しで達成する取り組みであるThe Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)の締結を、2019年9月19日に発表後、社員も含めてさまざまな活動を行っています。日本でも同年に「サステナビリティ・アンバサダー」と呼ばれる社員ボランティアが結成されました。彼らが中心となり、オフィス内の紙コップ使用削減の仕組みをつくるなどの環境に配慮したオフィス文化を推進し、また、講演会などを開催し、社員一人一人の環境意識を上げるために活動をしています。2021年8月25日に開催されたオンライン講座では、国際連合大学上級副学長沖大幹さんを講師にお招きし、「企業とSDGs」をテーマに、世界の誰一人取り残すことなく、健康で幸せに生きられる社会の実現に向けて、Amazonがどのような役割が果たせるかを学びました。

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国際連合大学上級副学長 沖大幹さん
写真: 沖大幹氏提供

Amazonサステナビリティ・アンバサダーが企画したSDGsセミナー

今回のオンラインセミナーの進行役を務めたのは、「サステナビリティ・アンバサダー・プログラム」共同議長の1人、船田真理子さんです。以前から生物多様性に関心を持ち、個人の活動としても、世界的な規模で地球環境問題について考える「アースデイ東京」などの活動に長く携わってきました。

「日本の社員は環境問題などへの関心が高く、『サステナビリティ・アンバサダー・プログラム』の情報を受け取ることができるメーリングリストの登録者は、Amazonのシアトル本社に次いで2番目に多くなっています。私たち『サステナビリティ・アンバサダー』は、これまでも社員の皆さんが環境保護につながる行動が自然にできるように、マイボトルやマイカップを持参して社内の紙コップの使用を減らす『ゼロカップ』の推進などのアイデアを実現してきました。また、環境保護をテーマにした映画のオンライン上映会、専門家や創業者などゲストを招いた講演会も続けています」(船田さん)

現在は感染予防のために、サステナビリティ・アンバサダーの活動はすべてオンラインになっています。今年8回目の講演会となった8月25日は、東京工学系研究科教授で国連大学上級副学長である沖大幹さんを講師にお招きし、「企業とSDGs」をテーマに開催。歴史をたどりながら学ぶSDGsの基本的な理念、ビジネスサイドから見たSDGsの重要性、地球環境や世界の人々にとってのSDGsと幅広い内容となりました。

持続可能な未来の構築が安定した社会の維持に

まず、沖さんはスライドを交えながら、なぜ今、SDGsがこれほどまで世界的に重要な目標になっているのか、1990年代からの歴史をたどりながら、企業と投資家の関係性をひも解くところから始まりました。

全米200社の最高責任者による団体「ビジネス・ラウンド・テーブル」が1997年に発行したレポートによると、当時、企業が第一の目的にしていたのは、株主の利益でした。株主の利益追求を長期的な視点で考えれば、従業員や顧客、取引先などの利益につながるという考え方です。その後、この考えは「CSR(企業の社会的責任)」や「CSV(共通価値の創造)」につながっていったといいます。

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東京大学 生産技術研究所 沖研究室

「しかし、世界が高度経済成長期から低成長期になった21世紀では、中国やインド、ブラジルなどの新興国を含め、投資をしてもかつてほどの高い収益が望めません。年1〜2%の成長率では、投資の回収に非常に長い時間がかかります。そうなると投資家は、資産を増やすより、減らさないことに関心が向くようになります」(沖さん)

そして、この傾向に拍車をかけるのが、地球温暖化による気候変動や石油エネルギー資源の枯渇問題です。20世紀のような安定した気候やエネルギー供給が望めず、洪水や干ばつなどの自然災害により、人々の生活が不安定になると、貧困や難民などの社会問題が顕著になります。食料生産や経済活動にも悪影響が出ます。

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東京大学 生産技術研究所 沖研究室
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東京大学 生産技術研究所 沖研究室

そこで投資家は、安定した社会を維持し、収益を確保するため、環境を尊重した包括的な開発を重視し、教育や健康への投資を進め、人間の幸福を重視するSDGsが掲げる未来を選択したほうがよい、という考えにシフトします。そして、持続可能な社会への変換に追随できない企業は避け、貢献できるビジネスモデルを持つ企業への投資を重視するようになるのです。

「さらに重要なのが、誰が持続可能な未来の構築を担うのか、という問題です。以前は国や国際機関がやるべきものと考えられていました。しかし、Amazonのような世界規模の企業が増えた今は、それらの企業によるビジネス展開が、持続可能な未来を左右するほど、影響力が大きくなっています。国や国際機関に頼り切るのではなく、企業、そして個人もSDGsを担う時代になってきているのです。人任せにしていられない、そういう時代になっているということだと思います」(沖さん)

SDGsのターゲットに含まれていないものを考えてみる

SDGsには、2030年を目標に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として、具体的な17のゴールと169のターゲットが示されています。日本ではSDGsを環境問題と捉える傾向が強いのですが、人権の尊重やジェンダーの平等、民主主義なども含まれています。沖さんは、「SDGsには社会、経済、環境の3つの側面があり、それらが一体となって実現することで持続可能な未来が構築される」と言います。

そして、ユニークな提案もしてくださいました。職場などでワークショップを開く際、「SDGsに含まれているべきなのに、含まれていないものは何か?」を考える課題に取り組むのです。その理由を沖さんはこう語ります。

「たとえば、SDGsのゴールは2030年に設定されていますが、すべての問題がカバーされているわけではありません。今のSDGsは食料やエネルギー、健康に関する即物的な目標が先行しています。宗教や文化、スポーツには深く踏み込んでいませんし、日本で言えば、少子高齢化や生活習慣病は深刻な問題です。エンターテイメントや祭りのような営みも、よりよい人生には不可欠ですし、それらに関連した事業で社会貢献している企業もたくさんあります。知的好奇心を刺激したり、精神的な充足を与えたりするものが、『アジェンダ2030』に含まれていないからといって、SDGsに関係ないと考えるのは、とてももったいないと思います」

そして、沖さんはこう指摘します。

「『2030アジェンダ』には国や国際組織が扱うような目標が多く、市民ができることは限られているように思えるかもしれません。しかし、そうではなく、SDGsが目指すのは、一人ひとりの自己尊重感が大切にされ、世界中の誰もが取り残されることなく、健康で幸福に暮らせる社会です。今のアジェンダに含まれていないものを考えることは、SDGSに含まれているものを丹念に見ていかなくてはできません。そうすることでSDGsの本質的な理解を助けてくれます。そして、含まれていなかったものを見つけたら、次の目標と考え、個人個人が準備を始めてはどうでしょうか」

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質疑応答時の様子

約40分の講義終了後は、質疑応答です。視聴していた社員から、「Amazonなどの企業が本質的に自分ごととして目標を達成するためには、何がカギになるか」という質問がありました。

それに対し、沖さんは、「SDGsの169のターゲットにこだわらず、人々を幸せにするために、企業ができることを目標としてしっかり設定することが大事。その結果やプロセスがSDGsに貢献している、というロジックで考えたほうがわかりやすい」と答えました。

その他の視聴者からも、「地球温暖化によって水問題にはどのような影響があるのか」「社会の安定のため、他人の幸福を増すことに多くの人が感心を持つためのロジックには何があるのか」などの質問があり、SDGsを通じて、世界や社会の未来と自分たちにできることを考察する有意義な時間となりました。 

セミナーを終え、司会進行を務めた船田さんは、「以前からの疑問を解消する糸口が見つかり、新たな知識を得る機会にもなった」と感じたそうです。 

「今のSDGsは自然科学の側面が強く、文化が入っていないことは、私たちもよく話していました。今日のお話をうかがって、SDGsの達成は2030年がゴールなのではなく、通過点でしかないと気づかされましたし、企業が自分たちで考える力を持つことの重要性を教えていただいたと思います」(船田さん)

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司会を務めた船田真理子さん

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