日本では政府、民間そして地域をあげてデジタル化を加速させ、様々な社会課題を解決しようというデジタル・トランスフォーメーション(DX) の動きが活発化しています。中小規模事業者の皆さんがいかにデジタル化を進めていらっしゃるかを紹介するシリーズの第2回として、今回は酒類販売店をご紹介します。

近年、本来は食べることができたはずの食品を廃棄するフードロス(食品ロス)に社会的関心が寄せられています。コロナ禍で、飲食店による仕入れの減少やイベント中止などに伴い、フードロスはますます深刻化することが予想されています。しかしながら、催事などが取りやめになったことで大量の在庫を抱えた酒類販売店が、ECサイトの活用によりに窮地を脱することができた事例があります。多くの人にお酒をたしなむ時間を愉しんでもらいたい、そして、お酒を文化として広めたいという経営者の想いが、課題解決の原動力となりました。

新しいお酒との出会いの場

茨城県ひたちなか市にあるお酒の遊園地イシカワ本店は、広大な店内にビールやワイン、日本酒、焼酎といった約1万種類のお酒がところ狭しと並び、さらにはおつまみや食品も扱う酒類販売店です。

「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」。青空の下に響き渡る朝礼の掛け声とともに、20名を超える従業員が輪になってその日の業務内容を確認しています。時刻は9時50分。そろそろお酒の遊園地イシカワ本店の1日が始まるようです。

従業員の輪の中心にいるのは、 運営元である株式会社和飲風土の代表取締役 石川誠さん。日本最大級の品揃えとお酒の魅力を伝える丁寧な接客を追求し、全国にファンを持つ酒類販売店の舵取りをしてきました。他店ではお目にかかれない圧倒的な品揃えの理由を尋ねると、「単純にお酒を楽しむことが好きなんです」と石川さんは笑います。

「お酒の魅力を伝えたいと思っているうちに、気がついたら1万種類になっていました(笑)。この日本酒は苦手だけど、このビールだったら飲める。そんなふうに、お客様が自分好みのお酒と出会える場を作ろうと思った結果、あらゆるジャンルのお酒を取り扱うことになりました。
最近は若い世代のお酒離れが進んでいますが、それは自分が本当に好きなお酒にまだ出会っていないことも要因のひとつだと思っています。私が20代の頃、お酒の場というのは先輩や上司から、仕事や社会人としての経験を学ぶ場でもありました。お互い、余計な緊張が取れ本音で話すことができ、それが私の自己形成にもつながっていきました。震災やコロナに負けない不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を身に付けられたのもお酒の場があったからだと思っています。
今日では、若い方が上司や先輩に誘われてお酒を飲みに行く機会は減ってしまったかもしれません。それでも私は店舗運営に加え、梅酒やビールなどを紹介するイベントを開催することで、若い方がお酒の場を少しでも経験できる機会になればと考えています。好きなお酒との出会いの場はもちろん、お酒の味わいを楽しみながら経験の伝承ができる場を提供すること、お酒文化の継承にはそうした役割もあるのではないかと私は思っています」

にっぽんの中小規模事業のデジタル化を応援【その2】和飲風土が目指すお酒文化の継承
和飲風土 代表取締役 石川誠さん

人生を変えたフランスビールとの出会い

お酒の遊園地イシカワ本店を訪れるお客様のお目当てのひとつが、直輸入のフランスビールです。フランスといえばワインのイメージが強いですが、石川さんによれば、実は世界第4位のブルワリー数を誇るビール産出国。フランスビールを初めて飲んだ8年前の日のことを、今も鮮明に覚えていると石川さんは振り返ります。

「フランスが隠れたビール大国だと知って興味が湧いたのですが、当時はなかなか手に入りませんでした。あの手この手で60種類ほどのフランスビールをかき集めて、仲間たちと一緒に飲んでみました。衝撃でした。ひと口飲んだ瞬間に虜になりましたね。海水で作ったビールやバジルとライムを原料にして作ったビール、ソーヴィニヨン・ブランといったワインのブドウ品種で作ったビール……。他にはないオリジナリティやチャレンジ精神があって、非常に面白い。そのうえ、どれも最高に美味しい」

フランスビールの美味しさを日本にも広めたい! そんな使命感に駆られて直輸入に乗り出したものの、そこにはいくつもの困難が待ち構えていました。

「すぐに輸入できるだろうと思っていたら、まるっきり違いました。販売元にメールを送ってもなかなか返信がなく、返信がきても、『今はバケーション中だから次は1ヵ月後に』と言われることもありました(笑)。光明が差したのは、水戸に住んでいるフランス出身の方に出会ってからです。商談は一気に前進しましたが、それでも苦労の連続で、彼も『どうしてフランスの商品が日本に輸入されていないかがわかった』と苦笑いしていました。ただ、それを機に彼は貿易会社を立ち上げて、フランスの文化を日本に紹介する仕事を始めました。もしかしたら、私の想いが伝播したのかもしれませんね」

にっぽんの中小規模事業のデジタル化を応援【その2】和飲風土が目指すお酒文化の継承
豊富な品揃えを誇るフランスビール

大量のビールが救われた日

苦労して輸入したフランスビールは瞬く間に人気商品になりました。その一方で、ビールは賞味期限が短いこともあり、在庫の管理が大変だと石川さんは言います。さらに、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、お酒の販売イベントが軒並み中止に追い込まれ、飲食店からの注文も激減。大量の在庫を抱えることになってしまいました。

「イベント自粛や飲食店の営業時間短縮要請がいつ明けるかわからない中で、ビールの賞味期限は迫ってくる一方でした。フランスビールをはじめ、大好きなお酒を廃棄せざるを得ないという状況に居ても立っても居られませんでした。そんなとき、Twitterで『(外出)自粛によりイベントが全て中止に。大量のフランスビール達が行き場をなくしています。このまま(フード)ロスになるなんて悲しすぎます』とつぶやいてみたんです。あの頃は藁にもすがる思いでした。すると、投稿に対してものすごい反響があり、私たちもびっくりするくらい大量の注文が入りました」

その要因のひとつに、 お酒の遊園地イシカワのECサイトで導入していた ID決済サービスAmazon Pay(アマゾン・ペイ)があったと石川さんは分析します。

「注文の7割以上がAmazon Payによる決済だったので、これほどお客様に浸透しているのかと驚きました。お客様からしてみれば、新規にECサイトのアカウントを作成したり、クレジットカード情報を入力する手間もなく、クリックひとつで購入のステップに進めるので、ハードルが下がったのだと思います。以前は別の決済サービスを利用していたのですが、支払いの不備などが生じると当社の従業員が対応に当たらねばならず、かなりの時間を取られていました。Amazon Payはそうした煩わしさが一切ないので、従業員からも好評です。AmazonのECサイトでもビールを販売していますが、そちらの売上も好調です。お客様にとっての使いやすさなど、サイトの仕組みが理に適っていますし、ご利用されている方が多いですよね。Amazonを通じて多くの方の目に触れる機会が増え、新たなファンの創出につながっています」

にっぽんの中小規模事業のデジタル化を応援【その2】和飲風土が目指すお酒文化の継承
自社サイトの売上・顧客管理などを担う従業員の木村真一さん

お酒を文化として広めるために

午後1時を回ったころ、石川さんはデスクを離れ、足早に会議室に向かいます。会議室の片隅には照明とカメラがセッティングされ、机の上には1本のマイクがあります。実はここ、お酒の遊園地イシカワのYouTubeチャンネル「オ酒ノ遊園地ch-お酒と感動が勢揃い-」の動画を撮影するための自社スタジオなのです。

「新型コロナウイルス感染症の影響を含め、ECサイトやSNSを活用しないと生き残れないという危機感があります。加えて、フードロスに際してのTwitter上のコミュニケーションでSNSの影響力の大きさを実感しました。その経験を踏まえて始めたのがYouTubeです。お酒の素晴らしさをもっと多くの人に、大げさに言うなら世界に向けて発信したいという想いから始めたのですが、まさかこの歳でユーチューバーになるとは夢にも思いませんでした(笑)」

「オ酒ノ遊園地ch-お酒と感動が勢揃い-」では、さまざまな種類のお酒の入門講座や飲み方の提案、おすすめのマリアージュなどをテーマにした動画を配信しています。従業員がテーマに沿った解説を行い、石川さんは聞き役となって撮影が進みますが、そこには石川さんの狙いがあると言います。

「テーマを企画するのも、解説するのも従業員。お酒の各ジャンルのバイヤー6人が担当するので、私はB6と呼んでいます(笑)。というのも、YouTubeを始めるにあたって、お酒の魅力を広めるという目的に加えて、従業員を主人公にしようと心に決めていました。動画を公開するということはテーマ選定やリサーチに責任が生じますし、同時に反響があればやり甲斐も生まれる。従業員一人ひとりが主人公になって商品知識を深め、モチベーションの糧になってくれればと思っています」

1万種類を超える品揃え、困難を経て実現したフランスビールの直輸入、そして、ECサイトやSNSといった時代に即した試みなど、さまざまな挑戦を続ける石川さんの原動力となっているのは、場面に彩りを添えるお酒の魅力を、文化として受け継がれるものにしていきたいという強い想いです。

「お酒を飲むシーンそのものが大好きなんです。仲間と一緒にわいわい盛り上がったシーン、普段なかなか言えないことを打ち明けたシーン、そして先輩から大切なことを教わったシーンなど、お酒には場を楽しくしてくれる力があります。だからこそ、その魅力を周囲の人と共有し、文化として受け継がれていくことが私の願いです」

にっぽんの中小規模事業のデジタル化を応援【その2】和飲風土が目指すお酒文化の継承
従業員と共に試行錯誤を重ねているYouTubeの撮影風景