Amazonはパリ協定の目標を10年前倒しで達成する取り組みであるThe Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)の締結を2019年9月19日に発表して以降、社員も力を合わせ、さまざまな活動に取り組んできました。日本でも同年に結成された「サステナビリティ・アンバサダー」と呼ばれる社員ボランティアを中心に、環境に配慮したオフィス文化の推進や講演会などを通じ、社員一人一人の環境意識を高める活動に力を入れています。今回のAmazonサステナビリティ・アンバサダー主催のオンライン講座は、8月25日に開催したオンライン講座「企業とSDGs」に続く内容として、国立環境研究所 地球システム領域 副領域長・東京大学 総合文化研究科 客員教授の江守正多さんを講師にお招きし、「気候危機のリスクと社会の大転換」のタイトルで開催されました。

今回は、なぜパリ協定が重要なのかを理解するために、江守正多さんに、最新の気候温暖化の現状と将来予測、「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」で合意・発効された温室効果ガス削減に向けての長期目標、世界および日本の脱炭素化への取り組み、温暖化と脱炭素化による社会的な影響と意識の改革についてお話しいただきました。進行役を務めたのは、Amazonサステナビリティ・アンバサダー・プログラム共同議長の1人、船田真理子さんです。

Seita Emori Photo
国立環境研究所 地球システム領域 副領域長江守正多さん

人の活動によるCO2の排出で加速する温暖化

江守さんがスライドを交えながら、まず解説したのは、「国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第一作業部会が8月に発表した第6次評価報告書に基づく温暖化の原因と将来予測です。江守さんも執筆に参加した今回の報告書で注目されたのは、人間活動の影響で地球が温暖化していることは「疑う余地がない」と断言したことでした。その根拠となったのは、1850年から2020年までの世界平均気温変化の推移です。

「1850年からの2020年までの観測データを調べてみると、2010年から2019年までの10年は1850年に比べ、1.06℃上昇していました。地球の気温変化の要因には、化石燃料の利用などによる温室効果ガスや大気汚染物質の排出といった人為要因と、太陽の変動や火山活動による自然要因があります。自然要因のみの評価と自然要因に人為要因を加えた評価を比較シミュレーションしたところ、自然要因のみでは1850年から大きな変化が見られないのに対し、人為要因を加えた評価では、とくに最近数十年間、明らかな上昇が見られました。これ以外にも海水温上昇や海面上昇など複数の証拠が整合したことから、これまで断言を避けていたIPCCも、明らかに人間活動が影響していると発表することになったのです」

Emori Shota slides

国ごとに異なる影響と将来世代が抱えるリスクに目を向ける

温暖化が進むと異常気象の頻度が増えることは、この数年の世界的な自然災害を振り返っても、容易に想像がつきます。江守さんによれば、世界平均気温が1.5℃上昇すると、産業革命以前は50年に1度しか起きなかったような高温日が8.6倍に増え、2℃上昇すると13.9倍に増えることが予測されています。ちなみに、現在は1.06℃上昇していることから、約4.8倍になっているそうです。

Emori Shota slides

「温暖化の問題は世界的な視野を持ち、将来世代にも目を向け、より深刻な被害を受ける人たちがいることを想像する必要があります。発展途上国で干ばつが進んだり、海面上昇と高潮で土地が浸水したりすると、農業が成り立たなくなり、食糧危機や水危機、難民問題が発生しかねません。それらの問題を引き起こしているのは、温室効果ガスを大量に排出している先進国や新興国であり、これまでの世代の私たちです。それにもかかわらず、発展途上国や若い世代、これから生まれる子どもたちは、温暖化が進んだ環境で暮らすことになり、異常気象の悪影響も大きくなります。そのため、『Climate Justice』つまり『気候正義』について考えることも、温暖化問題では非常に重要なのです」

パリ協定の長期目標を左右するCO2排出量の抑制

そこで、2015年にCOPでパリ協定が合意され、翌年に発効しました。これは2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みを定めたもので、長期目標が立てられました。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ、2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求するという目標です。そのために、21世紀後半には温室効果ガス排出量と植林などによる吸収量のバランスを取る必要があるという認識も明記されました。

「IPCCが提示した世界のCO2排出量の5つのシナリオに基づくシミュレーションでは、現状の削減ペースで進むと2100年には世界の平均気温が2.7℃前後上昇し、パリ協定の目標を達成できないと指摘しています。理想のシナリオである1.5℃を目指すのであれば、2050年前後にはCO2の排出量を実質ゼロにしなければなりません。温暖化対策が後退すれば、5℃近く上昇する最悪のシナリオも考えられます。2030年ごろには、理想のシナリオでも一旦1.5℃に達してしまう可能性が5割程度あります。それでも、理想のシナリオに乗れば最終的に1.5℃前後で温暖化が止まります。今ならまだその可能性があります。私たちは1.5℃で温暖化を止められるギリギリの段階にいるのです」

では、どうすれば温室効果ガスの排出量を抑えることができるのでしょうか。1つはエネルギーの脱炭素化です。エネルギー効率の向上、建物の断熱、ITによる制御、ライフスタイルの変革による省エネ。そして、太陽や風力、バイオマス、地熱、小水力による再生可能エネルギーの活用です。もう1つは、植林や農地管理の促進や、大気中のCO2を吸収し地中に封じ込めるCCSなど、大気中のCO2を吸収する方法です。

誰もが幸せに暮らせる脱炭素社会のあり方

日本では、化石燃料を起原とするCO2の排出量が世界の約3%を占めています。中国などの海外生産で排出している分も加えると、排出量はその13%程度増加すると言われています。政府は2021年4月、脱炭素化を加速させ、2030年度の目標を2013年度比46%に減らす目標を掲げました。

「脱炭素化の成否には、人々の意識も大きく影響します。残念なことに日本人は、気候変動に対し後ろ向きに感じる人が多いというデータがあります。世界では温暖化対策で生活がよくなると考える人が多いのに、日本では我慢や負担と感じる割合のほうが高いのです。しかし、1.5℃の目標はしぶしぶ努力したり、何かを我慢して達成できる数字ではありません。価値観やものの見方、常識を変える社会の大転換(トランスフォーメーション)を起こす必要があります」

Emori Shota slides

江守さんは、大転換(トランスフォーメーション)を喫煙環境の変化になぞらえます。かつては、どこででもタバコが吸えましたが、受動喫煙の害が医学的に証明されたり、嫌煙を主張する裁判が起きたり、健康増進法が施行されたことにより、公共空間では決められた場所でしか吸うことができなくなりました。そして、この喫煙環境の変化が今では常識になっています。

「私は、人間が化石燃料から卒業する時期に来たのだと考えています。石器時代が終わったのも、石がなくなったのではなく、鉄や青銅という、より便利で生活を豊かにする材料が使えるようになったからです。それと同じように、化石燃料より安くて豊富で使いやすいエネルギーシステムが身近になれば、社会は自然と脱炭素へと変わっていくでしょう。すでにビジネスの世界では、安価な再生可能エネルギーやバッテリーなどの登場により、脱炭素化に向けたパラダイムシフトが起こりつつあります。エネルギーインフラに新しい巨大マーケットが形成され始め、その波に乗り遅れまいという気運が各国で高まっているのです」

江守さんは、私たちができる行動として、節電や公共交通の利用などの身近なことだけは不十分だと指摘しました。積極的に温室効果ガスの削減に取り組む企業や団体を支援したり、興味を持ってSNSなどで発信したりすることで、脱炭素化を後押しすることが重要です。

「誰もが幸せに暮らせる脱炭素社会のあり方も考えてみてください。脱炭素化が成功しても、社会的に弱い立場の人たちが被害にあったり、経済や生活に格差が再生産されたりすることは、好ましくありません。温暖化の解決、持続可能な社会の実現には、こうした問題の出口も問われているのです。これからも引き続き考えていきたいと思います」と締めくくりました。

江守さんの講演をうけて、船田さんは、「脱炭素化をするには社会の意識改革を伴う必要があり、常識が変化していく必要があること。そして、その変化を広い視野で見つめる意識も持たなければ、同じような問題が繰り返されるという江守さんのお話には、とても共感しました」と語り、講演は終了しました。

サステナビリティ・アンバサダー主催 沖大幹 国連大学上級副学長による講演「企業とSDGs」はこちらからお読みいただけます

そのほかのAmazonのニュースを読む