「海外にいるともっと日本が好きになる。日本の製品がアメリカや世界に広がるようにサポートしていきたいです」
「日本企業が企画した優れた商品やサービスを世界に広めたい。ずっとそう思っていました」そう語るのは、アマゾンジャパンから転籍し、現在Amazon.comに勤務する竹崎孝二さんだ。彼は今年2月から米国シアトルのオフィスで、フィットネス部門のシニア・ベンダー・マネージャーとして勤務している。ベンダー・マネージャーとは、お客様に品揃え、利便性、お求めやすい価格をご提供するために、Amazonに商品を納入いただく事業者との取引を担当する業務。地域のお客様の特性やメーカーとのつながりなどを知っている必要がある職種のため、Amazon.comで、日本人がその職務に採用されたのは極めて珍しいという。彼は、自分の夢を叶える場所としてAmazonを選び、その実現に向けて取り組んでいる。
竹崎さんは、大学卒業後、日本の総務省で6年勤務し、米国の大学院に留学。その後日本家電メーカーの現地法人に就職した。その時は、Amazon.comへ商品を卸す立場だった。
「インターネット販売が今のように一般的になるまでは、メーカーは小売店に商品を届けるまでが仕事で、お客様に商品を販売するのは小売店。その商品を店内のどの棚に並べてもらえるか、チラシに載せてもらえるかは交渉次第、最終的には店側の判断にゆだねるしかないため、売り上げは店舗の状況に左右されていました。メーカー側では良い製品を作っても、その先はコントロールしにくい状態だったのです」
特に製品として成熟しているヘッドホンなどの商品については差別化が難しく、他メーカーとの競争に打ち勝つのは難しかった。しかしAmazon.comでの販売は、状況がまったく違った。
「Amazonは、販売面でも商品の見せ方や販売促進の取り組みをメーカー側でコントロールできる部分が多いため、お客様に伝えたい商品説明や写真もしっかりと見せることができる。そうした積み重ねによってAmazonでの売り上げは伸びていきました。その画期的な販売システムに可能性を強く感じました」
家電メーカーを退職後、一度はAmazon.comに応募したものの、その時は縁に恵まれず、日本に帰国後、アマゾンジャパンに就職した。
「Amazonのシステムは世界共通なので、まずは日本の環境で実績を積み、いつかAmazon.comで働こうと考えていました。面接でもそのことをしっかり伝えたうえで採用いただきました」
日本でスポーツ用品のシニア・ベンダー・マネージャー職に就き、彼が注力したのは、オリジナル商品開発だった。入社した頃のスポーツ用品の売り上げは一過性のヒット商品が中心だった。売れ行きは良いが、注文が集中しやすく、ブームが去ると在庫を抱えやすいという課題があった。そのため、竹崎さんはいつでもお客様が必要とされる定番商品で、品質・価格共に優れた製品を開発し、ブランド化することを目指した。
「Amazonには商品数が多い分、選ぶのも難しい。そこでメーカーと協力して、お客様に、『この商品なら安心して買える』と思っていただけるAmazon限定ブランドを作れば、安定した売り上げが見込め、メーカー様にも負担が少ないと考えました」
ロット数の少ないオリジナル商品は単価が高くなりがちだが、竹崎さんはメーカーと共に工場に出向き、どれだけやる価値があるか、長期的に見れば工場側にもメリットがあることを理解してもらい、競争力のある価格を実現した。商品販売後も、定期的にメーカーとカスタマーレビューや売れ行きを分析し、細かく商品の改善を続けた。その結果、ヨガマット、ストレッチポール、重量が変えられるダンベル、懸垂器、ルームランナーなど9ブランド、約400商品を生み出す。売上も伸び、収益性も改善。ブランドの認知度も高まり、人気商品に成長した。
「私はメーカーでの勤務経験があったので、メーカー様と一緒に動きましたが、Amazonは自分で考えて行動するOwnershipを大切にする会社なので、担当者ごとにやり方は違うと思います。お客様が何を必要とされているのかを考えて、アクションをとっているということがぶれていなければ、基本的に判断は個人に任せていただいていましたし、個性を発揮しやしい職場だと思います」
Amazonには、インターナル・トランスファーという社内異動制度があり、社員は公開されているポジションに自ら応募できる。竹崎さんも日本での職種と全く同じポジションがシアトルで募集開始されたのを見つけ、すぐにコンタクトをとった。最初に採用担当者から直接業務内容やチームの方針などを聞ける機会が設けられ、そこでお互いの方向性や相性などを確認し、その後正式に採用面接に臨む。竹崎さんは無事に面接を通過し、今年2月に晴れて、シアトルでの勤務が始まった。
「思っていた以上にエキサイティングで居心地よく働いています。効率的に働く人が多いし、フレンドリーなカルチャーなので、肌に合うと感じています」
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、Amazonは今年3月に在宅勤務が可能な社員に対して、10月までの在宅勤務を推奨するアナウンスを行った(現在は来年1月まで期間を延長)。竹崎さんは日本で暮らす家族に会うために一時的に日本に帰国したものの、現在は単身でシアトルに戻り、オフィスから徒歩圏内の自宅で在宅勤務を続けている。
「技術的には日本でも勤務することは可能ですが、お客様が今どういう気持ちでいるのか、お客様が何を求めているのかを知ることが大切な仕事なので、シアトルで勤務することを選びました」
今でも朝に英語の単語を復習し、寝る前には発音矯正アプリで勉強しているという竹崎さん。英語はそれほど得意ではないというが、勤務開始からわずか4か月弱でハードライン部門の年間MVPを受賞するという快挙を達成した。
「チームに貢献しようと、提案をたくさんしたことが評価されたようです。入ってすぐの僕の意見を受け止めてくれる懐の深さを感じますし、目立たなくても、プロセスまで含めてきちんと評価してくれるのだと感じました。その一方でAmazon.comの中で日本人や日本企業、日本のサービスの存在感がないことに個人的に残念に思っています。やることをやって、しっかりと実績を作ることで「あ、やっぱり日本ってすごいね」って思ってもらえるように日本のプレゼンスを上げていきたいですね」
アマゾンジャパン時代に取引のあったメーカーともつながりを保ち、つい先日も、シアトル赴任直後からサポートしてきた、日本のメーカーがようやく米国内に事業基盤を整え、Amazon.comでの商品展開を開始した。今後の成長が楽しみだという。
「優れた商品で日本では人気があっても、アメリカでは知られていないためAmazon.comでは販売されていない商品もたくさんあるので、そうした商品を紹介していくことから始めたいと思っています。僕は日本をもっと知ってもらいたいと思って、海外に出ているし、海外にいるともっと日本が好きになる。日本の製品がアメリカや世界に広がるようにサポートしていきたいです」