Amazonはダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)を積極的に推進しています。多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包括性(Inclusion)を組み合わせたDEIは、誰もが暮らしやすい社会とよりよい未来を築くための道筋になる大切な言葉です。そして、DEIを浸透させるには、一人ひとりの考え方やモノの見方、知識が大きく関わってきます。
5月28日、アマゾンジャパンの物流拠点フルフィルメントセンター(FC)でDEIを推進するコミッティが中心となり、DEIへの理解を深めるため、エール株式会社取締役の篠田真貴子さんを講師に招き、社員を対象にしたオンラインセッションを行いました。タイトルは「『無意識の偏見』に気づくことから始めるDEI」。約1時間のセッションは、経験や習慣で無自覚に身についた偏見や思い込みが、仕事や社会に大きな影響を及ぼす可能性があること、そして、すぐに活用できる無意識バイアスの乗り越え方のヒントを学ぶ機会になりました。
日常で感じたDEIの必要性からオンラインセッションを企画
今回の篠田さんを講師とするセッションを企画したのは、DEIコミッティの一人で、Amazonの物流拠点フルフィルメントセンター(FC)で勤務する、オペレーションズ・マネージャーの佐治洋子さんです。
「私が職場や日常生活のなかで気になっていたのが、相手の性別や年齢によって接し方を変えるケースに遭遇していたことでした。職場で「ちゃん」や「くん」づけすることなどはその一つの例です。よくあるコミュニケーションの取り方ではあるものの、果たして本当にその人が快適なのか、疑問でした。そうしたコミュニケーションの多くは、意識しての行動ではなく、過去の経験や習慣が影響しているのだと思います。そんなもやもやとした気持ちを抱えていた時に、篠田さんのアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)についてのお話をうかがう機会があり、『あ、これだ』と思いました」(佐治さん)
佐治さんの企画に、DEIコミッティのメンバーも賛同し、佐治さんが所属するオペレーション部門が主体となって、セッションが開催されました。登壇者は、FC事業部 関西リージョン 本部長の松本潤さんが大阪からオンラインで参加、そして東京会場では、FC事業部 統括本部長の島谷恒平さん、講師の篠田さんが参加し、そして司会を佐治さんが務めました。
セッションの皮切りは、島谷さんによるオープニングトークから。Amazon創業者兼最高経営責任者のジェフ・ベゾスの言葉を借りながら、AmazonがなぜDEIを重視しているかを語りました。
「Amazonのミッションは世界で最もお客様を大切にする企業になることです。そして、多様性を持つ存在といえば、お客様一人ひとりに他なりません。Amazonがお客様に新しいイノベーションを提供していくためには、企業として、また社員も個人として互いの多様性を認め合い、機会の公平性を保つことが大切になり、それらを受け入れる素地を作るためのインクルージョン(一体性)も必要になるのです。DEIはAmazonにとって新しい概念ではなく、コアバリューを達成するための道筋であり、基本的な考え方だと思います。お客様を最も大切に考える『カスタマー・オブセッション』を明確に気づかせてくれる言葉なのです」(島谷さん)
DEIが未来のよりよい社会基盤をつくる
次に『「無意識バイアス」が日本の女性活躍を妨げている』などを執筆した、篠田真貴子さんが登壇。国内の銀行や外資系企業など、さまざまな企業で勤務した経験や知見を交えてお話しされました。
篠田さんは、このアンコンシャスバイアスとDEIを理解する必要性について、まずは、DEIは誰もが暮らしやすい社会の実現に不可欠なものだからとし、そして「あまり議論されていませんが、もう一つマクロから見た大切な視点があります。DEIは、将来にわたり社会基盤のあり方を左右することがあるのです」と語りました。
「とくに情報通信技術や医療、立法、企業のポリシー、投資といった社会のインフラともいえる枠組みを左右する分野では重要です。それらの分野で生まれた新しい技術や方策にDEIの視点があるかどうかによって、私たちの生活が大きく変わってくるからです」(篠田さん)
例として篠田さんが挙げたのは、意識しなかったことで、だれも意図していなかった差別を助長する技術開発が行われてしまった例でした。
2018年に公表されたマサチューセッツ工科大学メディアラボの研究では、いくつかのAIによるジェンダー分類システムで、肌の色が黒い女性に対する認識精度の誤認率が、肌の色が白い男性よりも最大で約34%も高いことが明らかになりました。原因を調べたところ、開発会社のエンジニアに肌が白い男性が多いことが影響していたというのです。
エンジニアたちに肌の色が黒い女性に対する差別意識はありませんでした。しかし、データサンプルの集団としての属性に偏りがあったことが開発のプロセスに影響し、AIの認識精度に偏りが生じていました。そして、このAI技術がアメリカの市場ですでに流通し、明らかに不利益を被る人が出ていたことから、大きな社会問題になりました。
「携わった人間に差別する意識がなくても、組織構造や経験、慣習などの影響を受け、偏見のバイアスがかかることはあります。男性が多数派になりやすい分野、たとえばエンジニアや政治家、企業の管理職に女性を増やす必要がありますが、単に数を増やせばいいというだけではありません。『無意識の偏見』を修正するために、マジョリティ(多数派)とマイノリティ(少数派)が互いを刺激し合うことが大切になるからです」(篠田さん)
マイノリティが全体の3割以上*になると、マジョリティとの差を小さくすることが可能になるそうです。そして、さらに必要なのが、そこからの話し合いです。マジョリティとマイノリティがお互いに相手の価値を認め、尊重し、話し合いを経て結論を導くシステムにならないと、「無意識の偏見」は解消できないのです。
「インクルージョンとは、相手に同化することではありません。お互いに価値観も考え方も違うことを理解し、認め合うことです。それには、まず違いがあることを知ること。そして、違いの受容がないと、新しいものが入ってきたときに積極的に受け入れることもできなくなり、新たなものを生み出せなくなります」(篠田さん)
個々が「無意識の偏見」を修正する大切さ
オンラインセッションの最後はディスカッションの時間に。佐治さんが「Amazonの社員が日々、意識するとよい行動は?」と質問すると、篠田さんは、「まずは自分のなかに『無意識の偏見』があることを自覚することが出発点です。存在に気づけば、日々の行動のなかで少しずつ修正していくことができます」と答えました。
自覚するようになると、身の回りの出来事に敏感になったり、他の人と話し合ったりする機会が増えます。そして、そうした行動をする人が増えていけば、組織が変わるきっかけになっていくというのです。
篠田さんは、アマゾンジャパンの今後に期待を持っているそうです。約8,500人もの社員が個々に「無意識の偏見」に敏感になり、行動するようになれば、社会のさまざまな場でDEIの大切さを拡げていくこともになるからです。
オンラインで参加していた松本さんは、篠田さんの講演を聴いて、誰もが無意識の偏見を持っていることに、改めて気づかされたそうです。
「それだけでなく、無意識の偏見を修正する経験を積むことで、その傾向を軽減できることも分かりました。DEIは正解がないだけに難しいですが、考える機会を増やし、継続することが大切なのですね。語り合いやすい環境をみんなで作っていきたいです」(松本さん)
島谷さんも、「篠田さんの話を伺って、発見したことがたくさんありました」と話します。
「無意識の偏見を完全になくすことは難しいでしょう。であれば、なくすことを考えるより、その存在にどれだけ気づき続けられるかが大切なのだと思います。学ぶ機会を増やし、継続していくことの重要性に気づけたことが、個人的にもとても勉強になりました」(島谷さん)
佐治さんも「私はアマゾンジャパンの社員は柔軟な考えを持っている人が多いと感じています。DEIを学ぶ機会が増えれば増えるほど、積極的に仕事や生活に取り入れていくと思います。私たちのFCはDEIに取り組み始めたばかり。これから学ぶ機会が増えれば、DEIが加速していくと期待しています」と語りました。