日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第2回は、グローバル・ビジネスを展開する中小企業にフォーカスします。
※本記事は、2021年4月26日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
マーケットの変化を読み、グローバル市場に挑む
内閣府の「高齢社会白書」によれば、日本の総人口は2008年をピークに減少傾向にあり、2065年には8,808万人(2020年現在から約3,700万人減)にまで減少すると推計されています。国内市場の先細りは免れない事態に追い打ちをかけるかのように、新型コロナウイルス感染症によってインバウンド需要が消滅。宿泊業・飲食業を中心に大きな打撃を与え、2019年のGDP(国内総生産)の0.7%に相当する約4兆円が失われた試算になります※。※経済産業省「経済解析室ひと言解説集」
静岡県静岡市で食品サンプルの製造を行う株式会社北村サンプルの北村脩さんは、新型コロナウイルスの影響をこう振り返ります。
北村脩さん「1931年に個人事業として創業した当社のルーツは、飲食店のショーケースに陳列される食品サンプルの製造です。ただ、時が経つにつれて食品サンプルの需要は減り、今では写真入りのメニューが置かれることのほうが多くなりました。そんな中、食品サンプルを作る企業はそれぞれが独自の路線を歩み出しました。当社の場合、2002年頃から食品サンプルの技術を生かしたアイテムや販促商品、ブライダル用のフェイクケーキの制作に領域を拡大しました。結果的に、寿司モチーフのキーホルダーやマグネットなどが主力商品として成長しました。主な卸先は成田や羽田などの空港です。外国人は日本独自の文化である食品サンプルを面白がってくれて好評でしたが、コロナの影響で売上は9割減。これは想像以上に大きな打撃でした」
こうした状況において、グローバル市場を見据え、海外進出することは1つの打開策だといえます。北村さんもまた、インバウンド需要の消滅と共に、創業約90年の歴史で初めて海外進出の構想を描いたといいます。
北村さん「空港での売上がほとんどゼロになった昨年の今頃、このまま手をこまねいているわけにはいかないと、ECを通じた海外進出を思い立ちました。元々、寿司モチーフのアイテムは外国人のニーズが高かったので、EC販売においても需要があるのではないか、より多くの人に日本の良さを知ってもらえるのではないかと考えたのです」
一方、猫に特化したペット用品の企画・制作・販売を手がける株式会社猫壱の竹内淳さんは、2013年の起業時から海外進出を視野に入れていたといいます。
竹内淳さん「アメリカのペット用品ブランドのアジア代理店を始めた10年ほど前のことです。私たちが日本仕様にカスタマイズした商品がアメリカに逆輸入されていたことを知り、海外でも通用するかもしれないと可能性を感じたことを覚えています。
その後、猫壱を起業したときは明確に海外進出を意識しました。当時は現在のような猫ブームは起きておらず、ましてや猫用品は市場の大きい犬用品との兼用だった時代です。ペットショップでお客様の声に耳を傾けると、『色や形、素材の選択肢が少ないから、欲しいものがない。消去法で選んでいる』という意見がたくさんあり、だったら自分たちの手でお客様と猫のニーズに応える商品を作ろうと起業しました。
ただし、ニッチなジャンルなので、国内の市場規模はそれほど大きくありません。でも、アメリカにおける猫の飼育頭数は2000年を境に犬を上回っています。つまり、グローバル市場に目を向ければ将来的なポテンシャルや勝算がある。そこで、『グローバルニッチNo.1』というヴィジョンを掲げて海外進出に動き出しました」
海外進出の常識を変えたECとAmazonのFBA
ひと昔前ならば、企業の海外進出にはさまざまな障壁が存在しました。例えば、現地法人の開設、倉庫・物流の確保、決済の言語対応など、莫大(ばくだい)な初期費用、ランニングコストが発生します。資金や人員が豊富な大企業ならまだしも、中小企業が二の足を踏むのもやむを得ないことだといえます。
しかし、北村サンプルと猫壱は、Amazonが展開する世界11のマーケットプレイスへ出品できるグローバルセリングを利用し、少ないコストで海外進出を成功させたのです。
北村さん「当初は『やってみないとわからない』というのが正直なところでした。そんなとき、デジタルマーケティングやダイレクトマーケティングを手がけるアウル株式会社の方が『一緒にやりましょう』と声をかけてくださいました。海外進出にあたって、Amazon.comで競合商品がないかを徹底的にリサーチしてくださり、我々の持つ技術を武器にすれば勝算はあるという結論に至りました。並行して『GOOD CHOICE TOKYO』というSNSチャネルを開設してもらい、そこで寿司アイテムを国内向けにPRする活動もスタートしました。
当社とアウルにとって越境ECは初めてのチャレンジでしたので、グローバルセリングの担当者にさまざまな面でサポートしてもらいました。『本当に売れるだろうか』という不安と共にAmazon.comで販売を開始し、プレスリリースを発行したところ、一気に売上が伸びて驚きました。Amazonのユーザー数が膨大であると同時に、サイトを訪れるユーザーのニーズが顕在化しており、購入確度が非常に高いことを実感しました」
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さらに、フルフィルメント by Amazon(FBA)を利用すれば、海外のAmazonの物流拠点に商品を預けるだけで、保管から注文処理、配送、カスタマーサービスまでをAmazonが一括で代行してくれます。
竹内さん「起業して翌年の2014年、グローバルセリングを利用してアメリカとカナダのマーケットプレイスに出品しました。FBAを利用すれば現地に倉庫を持たなくて済みますし、人を雇う必要もありません。初期投資が少ない上に、配送や決済、お客様からのお問い合わせ対応までお任せできるので、私たちは商品づくりに専念することができます。Amazon.comの売上は想像以上に好調で、今では売上の約5割を占めています」
北村さん「FBAのメリットは当社も実感しています。顧客情報の管理や倉庫への伝達、伝票処理、配送などには相当の人員やリードタイムが必要です。その点、FBAを利用すればそれらをAmazonに一任できます。在庫が切れると通知してくれるので納品が滞ることもありません。おかげさまで売上も好調で、人を楽しませる商品を作るという当社の使命を全うできています」
竹内さんは、海外進出におけるAmazonのメリットは意外なところにも存在すると言います。
竹内さん「アメリカの実店舗や展示会でも販売を行っているのですが、ある種のしがらみを感じることがあります。例えば、競合のペット用品メーカーは、ユーザー視点よりもバイヤーや販売代理店を意識した商品を作っていました。もちろん、彼らに気に入ってもらうことが販売の前提ではありますが、結果的に代わり映えのしない商品が市場にあふれます。一方、Amazonではそうしたバイヤーや販売店の好みに左右されず、お客様に直接商品を見ていただけます。言うなれば、新規参入した私たちが、いきなりアメリカの一等地に自動販売機を置いて販売しているようなものです。初期投資やしがらみにとらわれず、日本にいながらグローバル・ビジネスを展開できる。これならゲームチェンジャーになれると確信しました」
越境ECとDXがもたらすビジネスの変革
Amazonを利用することで、ミニマムな投資で最大限の利益を上げ、海外進出に成功した北村サンプルと猫壱。両者に共通するのは商品力へのこだわりです。
竹内さん「自動車や電化製品など、特定の分野ではメイド・イン・ジャパンへの信頼は高いと思います。けれど、その言葉に甘んじてはいけないと肝に銘じています。あくまでもアメリカで1プレーヤーとして勝負を挑まない限り、足をすくわれてしまうからです。だからこそ、私たちは愛猫家の方の意見やAmazonのカスタマーレビューを参考にし、1つの商品を生み出すのに1〜2年を費やします。
例えば、当社のヒット商品に脚付きのボウル型食器があります。これは、猫が首を曲げすぎずにフードや水を口にできる高さに設計し、猫の体への負担や安全面を1年かけて研究しながら開発したものです。また、猫が嫌がる爪切りをスムーズに行うために、切れ味が良くて薄い刃の爪切りの開発にも挑みました。刃物の産地として有名な岐阜県関市にある30社ほどの会社に声をかけましたが、猫の爪切りに興味を持ってくださる会社は本当に少なくて…。最終的に1社に協力していただけることになり、完成にこぎ着けました。
そうして生まれた商品は『こんな商品がほしかった』とお客様に喜ばれ、ときには『猫が商品を開発しているみたい!』と褒めていただくこともあります。海外進出には、やはり商品への絶対的な自信は不可欠だと思います」
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北村さん「当社の寿司アイテムは、本物の寿司ネタから型を取っています。リアリティを重視した上で、職人が細かい質感や色味を追求していく。その結果、海外の人はもちろん、日本人が見ても驚く品質を保てていると思います。その一方で、寿司のモチーフをあしらった壁掛け時計は、Amazonのカスタマーレビューを参考に改良を重ねました。現状に満足せずに努力することも大事だと思います」
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商品価値の向上を主眼とする北村サンプルは今後、Amazonでの販路を拡大する予定だと言います。
北村さん「アメリカに続いて近々、カナダに出品予定です。静岡で作った寿司アイテムが海外の家庭に届き、子どもたちが遊んでいる姿を想像すると、少し不思議な気分であり、夢が広がるような想いです。将来的にはヨーロッパやアジアにも販路を拡大したいと考えています」

竹内さんは越境ECのさらなる普及と共に、DXがもたらす変化も見据えて将来のヴィジョンを描いています。
竹内さん「先ほどの『グローバルニッチNo.1』という言葉には、ニッチな市場をグローバルで攻めるという意味がありますが、越境ECが加速する今、No.1という考え方の重要度が増していると感じています。
例えば、お客様がAlexaに話しかけて『猫の爪切りを探して』と検索したとき、上位にくるのはAmazonのベストセラー商品です。そこで競合メーカーの商品が表示されることは商機の損失につながります。もっと言うと、Amazonのベストセラーに入ることで商品価値が高まり、バイヤーや実店舗への交渉もしやすくなる。ニッチな市場だからこそ、No.1でいることは重要だと思います」
越境ECによって障壁が取り除かれたグローバル・ビジネス、さらにはDXによって変化を遂げるカスタマージャーニー。今後のビジネスを大きく左右するキーワードと共に、中小企業のゲームチェンジはすでに始まっているのかもしれません。
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために









