日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第3回は、コロナ禍で急成長を遂げる中小企業にフォーカスします。

※本記事は、2021年5月25日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

時代の変化を見逃さず、巣ごもり需要の増加に商機を見出す

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスによって、世界は一変しました。社会が、価値観が、ライフスタイルが大きな転換を迫られ、経済にも甚大(じんだい)な影響を及ぼしました。内閣府の発表によると、2020年度の国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質で前年度比4.6%減。リーマン・ショックの影響を受けた2008年を超える減少幅となりました。

その一方で、コロナ禍であっても業績を伸ばしている中小企業も存在します。その多くが、価値観やライフスタイルの変化にいち早く対応し、ステイホーム期間に伴う巣ごもり需要の増加に商機を見出した企業です。大阪府に本社を構える株式会社ワイ・エス・エヌもまた、一度目の緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、コロナ禍を見据えたEC事業の発足と新ブランドの立ち上げをスピーディに実現してきました。営業部部長の土屋まな美さんは経緯を振り返ります。

土屋さん「株式会社ピーナッツ・クラブ ホールディングスの一員である当社は1997年に創業しました。当時は化粧品や健康食品の製造販売を手がけていましたが、そこからアミューズメント施設用の雑貨や玩具の企画・制作・販売にシフトしました。ところが、コロナの影響でアミューズメント施設の営業自粛が相次ぎ、大変な打撃を受けました。そこで、コロナ禍にいち早く対応するために、非対面で商品を販売できるECに活路を見出しました。同時に、巣ごもり需要を商機と捉え、ホームキッチン用品をメインにした新ブランド『applife(アプライフ)』を立ち上げました。ブランド名には、電化製品という意味のアプライアンス、そしてアプリケーションの『app』を通して、暮らしの質を向上させたいという想いを込めています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
株式会社ワイ・エス・エヌ 営業部部長・土屋まな美さん

在宅時間が長くなったことで自炊の頻度が増え、調理器具やキッチン家電の需要は高まったものの、そこは競合がひしめく領域です。そこでワイ・エス・エヌは、ホームキッチン用品の中でも、楽しみながら調理ができるエンターテイメント性の高い分野に目をつけました。

土屋さん「アプライフの主力製品はワッフルやポップコーン、クレープ、ホットサンドメーカーです。外出自粛が続いて家に閉じこもっていると、どうしても子どもは退屈してしまいます。困るのは親御さんですよね。そこで、親子一緒にお菓子づくりができて、おうち時間が少しでも楽しくなる製品を作りたいという想いから、お菓子に特化した製品シリーズを展開しました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
ワッフルやホットサンドメーカー

おうち時間を楽しく、明るく、豊かに。そうした価値変容の影響はオーディオ機器にも及んでいます。株式会社サンドロッツは、2019年に自社ブランド「FunLogy(ファンロジー)」を立ち上げ、プロジェクターやサウンドバー、スピーカーなどを制作・販売していましたが、コロナによる需要の変化を代表取締役社長の植村祐貴さんはこう分析します。

植村さん「2017年に法人化した当社は、創業時からECが将来的に生活に浸透することを予測し、EC販売を行ってきました。当時は既存商品の卸売も手がけていましたが、オリジナルのプロダクトを作りたいという想いから立ち上げたのがファンロジーです。
プロジェクターを主力商品としてECで実績を積んできましたが、ほんの1~2年前まで、プロジェクターはオフィスで使うか、一部の愛好家がホームシアター用に購入するかが大半でした。ところが、巣ごもり需要の増加によって、多くの人がおうち時間を充実させたいと考えるようになり、加速度的に一般家庭にも普及し、コロナ前と比較して2倍近い売上を記録しました。プロダクトを通して365日を楽しく、豊かにしたいという企業理念が、コロナを追い風に具現化されていったのです」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
株式会社サンドロッツ 代表取締役社長・植村祐貴さん
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
スタイリッシュで小型化されたデザインが特徴のプロジェクター

お客様の声を重視し、改善を続ける姿勢

商品ジャンルは異なりますが、両社にはいくつかの共通点を見出すことができます。一つ目は、前述の巣ごもり需要に商機を見出した時代の変化への対応力。そして二つ目は、お客様の声を重視する姿勢です。

土屋さん「アプライフでは、ホームキッチン用品のほかにオートアルコールディスペンサーを販売しています。2020年5月頃に商品開発に踏み切り、3~4カ月後に販売に至りました。もちろん、スピード感は意識しましたが、急いで粗悪品を作るよりも、時間をかけてでも良質なものを作りたいという想いが揺らいだことはありません。コロナ禍においてニーズの高い商品だからこそ、利益やスピードに偏りすぎず、お客様に満足していただける品質と、多くのお客様に行き渡る価格設定を重視しました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
オートアルコールディスペンサー

植村さん「ファンロジーでは、テレワークという新しいワーキングスタイルに合わせてモバイルモニターを発売しました。その数カ月後、モニターのマグネットが強すぎて操作しづらいという、一人のお客様のレビューを見つけました。すぐにお客様の求める磁力に調整して発送したところ、『ここまでしてくれた会社は初めてです!』とありがたいお言葉をいただきました。手前味噌ではありますが、お客様との信頼関係を感じた瞬間でした。お客様一人ひとりを大切にすることは当社のモットーであり、ECという非対面の販路でも、お客様に寄り添える部分はたくさんあると感じています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
モバイルモニター(右)とスピーカー(左)

このように、お客様の声を重視する姿勢は両社の二つ目の共通点だといえます。

植村さん「インターネットが普及した今、お客様はカスタマーレビューを参考にして商品を購入するのが当たり前になりました。同時に、カスタマーレビューは自社に対する客観的評価でもあるので、自分たちのやっていることが正しいのか、間違っているのか、その指標にもなります。時には厳しいご意見もいただきますが、だからこそ、お客様の声を絶えず拾い、迅速に改善していくことを重要視しています」

土屋さん「お客様の声をダイレクトかつスピーディに知ることができるのは、ECならではの利点だと思います。特に、長らくアミューズメント施設向けのBtoBを販路にしてきた当社にとって、直接お客様からいただく声は新鮮であり、気付きに満ちています。例えば、当社が販売するヨーグルトメーカーで発酵バターが作れることをお客様から教えていただき、すぐに商品ページの紹介欄に反映したこともあります」

AmazonのFBAがもたらした生産性向上とワークライフバランス

三つ目の共通点は、Amazonのさまざまなサービスを活用し、ビジネスを加速させていることです。特に、Amazonの物流拠点に商品を預けるだけで、保管から注文処理、配送、返品処理までをAmazonが一括で代行するフルフィルメント by Amazon(FBA)のメリットは大きいと両社は口を揃えます。

土屋さん「FBAは梱包や配送を任せられることはもちろん、休日の出荷やお客様の返品対応までしてくれるので、社員がしっかり休んでワークライフバランスを保つことができています。EC事業を初めて手がける当社にとって、Amazonの出品ハードルの低さやユーザー数の多さは大きな魅力でした。将来的にはグローバル展開も視野に入れているので、世界各地のマーケットプレイスに販路を開拓できるAmazonグローバルセリングも決め手の1つになりました」

また、Amazon担当者のサポートもなくてはならないものだと土屋さんは言います。

土屋さん「当初は画像のアップロード作業にも手間取っていたのですが、その都度、Amazonの担当者が解決方法を提示してくれました。さらに、次の工程のマイルストーンを設定し、『今はこういう商品が売れていますよ』と商品開発につながるアイデアもくださいます。実際に、担当者の方の意見を参考にした新商品も開発中です。Amazonの担当者は二人三脚でEC事業をサポートしてくれる、マラソンでいうところの伴走者のような存在ですね」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Amazonの画面で自社商品を確認する土屋さん
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Amazonの画面で自社商品を確認する土屋さん

FBAによる生産性向上に加え、植村さんはAmazonビジネスを活用することで、より販路を拡大させていると言います。

植村さん「FBAは創業当初から使っています。社員14名で業務に取り組む中で、多い月だと数千件の注文が入ります。それらの注文処理や梱包・発送を社員がやるとなったら、倍の人数でも足りません。FBAのおかげで社員の生産性が上がり、労働時間の短縮は商品価格を抑えることにもつながります。商品をお求めやすい価格でお届けできているのも、少人数かつ短期間でここまで成長できたのも、大部分がFBAのおかげだと言っても過言ではありません。また、Amazon ビジネスも利用しており、法人のお客様向けの数量割引なども設定できます。かつては展示会に出展して家電量販店などに販路を開拓していましたが、今ではAmazonから家電量販店に販売することが可能になりました」

Amazonのサービスを活用することで生まれた時間から、植村さんは働きやすい職場づくりにも力を注いでいます。

植村さん「当社は少人数の会社ですから、社員マネジメントにも力を入れています。社員がリフレッシュできるよう、オフィスにジムスペースを設けたり、健康を考えて、高さが調節できるスタンディングデスクを導入したりしています。また、自分自身、読書が趣味ということもあり、月に1冊、社員がKindleで本を購入する援助をしています。読んだ本については全員の前で発表し、アウトプットとシェアの場を設けています。社員一人ひとりの考え方や個性を知り、共有することで、それらをビジネスに生かすマネジメントを実践するためです」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Amazonのセラーセントラルの画面を確認する植村さん
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
オフィスの一角にあるジムスペース

もう一つ、Amazonのサービスを利用することで生まれた時間で、サンドロッツがより注力できるようになったことがあるといいます。

植村さん「当社が最も重視している、購入後のカスタマーサポートです。家電やオーディオ機器は、本当なら実際に目で見て、触ってから購入したいのがお客様の心理ですよね。非対面がECでの購入ハードルになるとしたら、お客様の不安を払拭するきめ細やかなカスタマーサポートを徹底する必要があります。コロナ禍によってECでモノを買うことが生活に浸透した今、お客様一人ひとりに寄り添ったカスタマーサポートこそが信頼や安心感を生み、ブランド価値を高めていくと考えています」

こうした考えには、過去に実施したWEBアンケートの結果が反映されていると言います。

植村さん「アンケートで家電を購入する際に重視するポイントを尋ねたところ、『価格』『性能』『デザイン』『ブランド力』などを上回って『コストパフォーマンス』が1位になりました。コストパフォーマンスの中には、値段に対する性能やデザイン性、カスタマーサポートも含まれています。仮に『ブランド力』が1位になったら、後発である当社が勝てる見込みは少なかったと思いますが、『コストパフォーマンス』が1位になったことで、カスタマーサポートを含めた商品力で勝負できるという確信につながりました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
社員と談笑する植村さん

土屋さん「ECがこれだけ生活に浸透した今、後発企業である私たちがビジネスを軌道に乗せられるか、不安に感じていた時期もあります。でも、Amazonという開かれたマーケットプレイスでは先発も後発も関係なく、カスタマーレビューを指標に良いモノが売れていく。参入障壁が低く、後発の企業も闘えるフィールドだと実感しています。
それから、EC事業が軌道に乗った背景には、当社の経営理念が関係しています。それは『社内外の環境変化を活かしてビジネスチャンスに挑戦する』というもので、時代の変化に柔軟に対応する企業精神が備わっていました。だからこそ、今回のコロナ禍においても成長を遂げることができたのだと思います」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
社員と打ち合わせをする土屋さん

確かに、コロナ禍は価値観やニーズを一変させました。しかし、今後も価値観やニーズは目まぐるしく変化を遂げていくことでしょう。その中でも重要なのは、常にそうした時代の変化に敏感かつ柔軟であり、お客様の声に耳を傾け続ける姿勢なのだと、両社が示してくれています。

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.1(前編)はこちら
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.1(後編)はこちら
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.2 はこちら