日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第4回は、ヘルスケア事業において成長を遂げる中小企業にフォーカスします。
※本記事は、2021年6月17日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
コロナ禍での健康意識の高まりをビジネスチャンスに
私たちの暮らしや価値観に甚大な変化を及ぼした新型コロナウイルス。中でも、自宅で過ごす時間が増えたことから食生活の見直しや運動不足の解消が取りざたされ、健康に対する意識はますます高まりつつあります。日経リサーチ※1がコロナ禍において行った調査によると、約52%の人が「自身や家族の健康管理に気を付けている」と回答。それに伴い、ヘルスケア産業市場は2025年に約33兆円規模に成長すると予測されています※2。
赤石さん「当社は『足の悩みを、靴で解決する』というミッションのもと、靴医学や義肢装具の設計思想を取り入れた靴を開発しています。現在、多くの女性が外反母趾や扁平足など、足に健康上のトラブルを抱えています。室内履きには、これらの悩みの原因である足裏のアーチをケアするアーチサポートを導入しています。開発にあたって1,000人以上の足型を取り、研究を重ねた結果、足裏に心地よく作用するアーチサポートを生み出しました。私たちが目指しているのは単なる靴メーカーではなく『足のかかりつけ医』。社員全員が靴医学を学び、科学的な見地から健康を意識した靴作りを行っています」
株式会社AKAISHI 代表取締役社長・赤石恒一さん靴医学の研究に注力し始めたのは、赤石さんが三代目の社長になってからのこと。実は赤石さん、社長と保健学の博士という2つの顔を持っています。
赤石さん「1つだけでいいから、社内の誰にも負けない知識や技術を身につけたい。家業を継ぐにあたってそう決意し、保健学を学び始めました。保健学とは人間の健康を保つための学問。骨格や筋肉、歩行のバイオメカニズムについて研究しています」
保健学に基づく製品開発の体制を構築し、外反母趾でも痛くないと評判のパンプスや、重心のバランスを整えてO脚を改善するサンダルなど、次々と画期的な靴を生み出しています。
赤石さん「靴業界は古くからのしきたりが根強く、靴の作り手の知識量や経験則で『靴はこれが当たり前だから』と作られていることが非常に多いんです。一方、我々は論理的に、例えば靴のヒール1つとっても、人間はこう歩くからヒールの高さは何cmで、これくらいつま先に負荷がかかるからこの角度に設計しようと、身体の構造を考えて緻密に設計しています」
01 / 02
一方、意外なヘルスケア製品のニーズも高まっています。女性用の腹巻です。兵庫県加古川市でインナーウェアの生産・販売を手がける株式会社エル・アイ・シーの代表取締役・船原政一さんは、ニーズの変化をこう分析します。
船原さん「コロナ禍の外出機会の減少によって健康意識が高まり、冷え性を改善したいというニーズが増えています。腹巻をはじめ、ハンドウォーマーやレッグウォーマーなど、冷え性対策の商品の売れ行きは好調に推移しています」
もともと、エル・アイ・シーは靴下のメーカーでしたが、今から25年前、商品展開を考える中で靴下と似た編み方で作れる腹巻も手がけてみようと、腹巻専業メーカー・塩山メリヤス株式会社との協業が始まりました。ところが、「靴下業界と腹巻業界では商習慣も販売方式も全然違う。職人さんと意見がぶつかることは一度や二度ではありませんでした」と当時を振り返ります。
船原さん「でも、信じていたことが2つありました。1つは、腹巻=男性のものというイメージを覆して、『身体が冷えやすい女性にこそつけてもらいたい』という想い。もう1つは、塩山メリヤスが持つ技術力の高さです。塩山メリヤスには日本に数台しかない希少な編み機があり、工場長の今西義明さんをはじめとする職人が丁寧に調製していくことで心地よい肌触りを生み出すことができます。ただ、男性用の腹巻を長年作ってきた彼らにとって、『女性が薄着でも着用できる軽くてカラフルな腹巻を作ってほしい』というオーダーは前例がなく、何度も衝突しました。でも、粘り強く女性用腹巻への想いを説明し、理解してもらうことで、シルクやオーガニックコットンなどの自然素材を使用した『Sowan(ソワン)』というブランドを立ち上げることができたのです」
01 / 02
地道に信頼関係を築いた結果、塩山メリヤスの社長が引退する際、船原さんは事業の後継者として指名されるに至りました。
AKAISHIの科学的見地に基づく靴、エル・アイ・シーの従来のイメージを覆す女性用腹巻。両社のビジネスには、確かなアイデアや挑戦という共通点を見て取ることができます。
業界に先駆けてECに参入し、ニーズを開拓
両社にはもう1つ共通点があります。現在のようにECが普及する以前、AKAISHIは2006年頃から、エル・アイ・シーは2007年頃からECに参入している点です。両社はEC参入を機に、BtoBメインの業態からBtoCに舵を切っています。
赤石さん「BtoBの場合は棚の陳列の仕方やスペースなど、小売店の都合に影響される部分がかなりあります。当初はそうした問題を解消するために実験的にECを始め、売上規模が年々増加してきたことで本腰を入れ、2019年にAmazonにも参入しました。特にAmazonの売上はここ1年で倍近く伸びており、EC事業を強化する追い風になっています」
ECのメリットを理解した一方で、靴の試着ができないことがお客様の購入ハードルになることは、社内の誰もが意識していたといいます。そして、そのハードルを払拭する試みにもまた、独自のアイデアが宿っています。
赤石さん「ECで購入されるお客様用には、靴が合わなかった場合のために調整用のインナーソールを入れています。さらに、アフターサービスを無料で行うための『調整シート』も同梱しています。足のどの部分に、どんなシチュエーションで違和感があったかを細かくご記入した上で返送していただければ、お客様が納得するまで何度でも調整してお届けする独自の仕組みです」
緻密に設計されたパンプスと調製シート実店舗での販売も行っていますが、自社サイトでの販売がメインだったため、Amazonでの販売がお客様の流出につながるのではないかという懸念もあったといいます。
赤石さん「自社サイトとAmazonの購入者層を分析した結果、それは杞憂(きゆう)に終わりました。自社サイトで購入するお客様は自社サイトでしか購入せず、Amazonで購入するお客様はAmazonでしか購入しないという行動パターンが判明したからです。つまり、Amazonという販売チャネルを増やすことは、単純に新規のお客様を増やすことにつながったのです。それから、商品の保管から配送まで任せられるAmazonならではのサービス、フルフィルメント by Amazon(FBA)のメリットも実感しています。それまでは出荷日の調整や在庫管理など、日々の業務に追われ、本来の課題に取り組めないストレスを抱えていましたが、それらがすべて解消されました」
社員と談笑する赤石さん一方、腹巻を製造・販売するエル・アイ・シーがいち早くECに乗り出した背景には、旧態依然とした流通形態に疑問を感じたからでした。商品を店舗に卸していた頃は、兵庫から大阪の卸問屋に週3回通い、自ら在庫を確認、補充していたそう。しかも、商品棚にはスペースの限りがあることから、新商品が出ても棚に置いてもらえない悔しい経験もしたといいます。
船原さん「Amazonならスペースを気にせず、300種類ほどある腹巻をすべて出品することができます。また、FBAを利用しているので、物流拠点に商品を預けるだけで保管から注文処理、配送、カスタマーサービスまでをAmazonが代行してくれます。当時と比べると信じられないくらい便利ですね。FBAのおかげで家族と過ごす時間が増えました」
Amazonのカスタマーレビューを参考にし、商品開発に反映するという、BtoBの頃は得られなかった発見も貴重だといいます。
船原さん「腹巻は冬に売れるものだと思い込んでいたのですが、Amazonでは夏のほうが売れ行きがいいんです。夏になると店頭からは腹巻が消えてしまう中で、オフィスの強すぎる冷房や寝冷えに悩むお客様のニーズがあることに気付きました。これは大きな発見でしたね。他にも、お客様の声をもとにオーガニック素材を使った腹巻や、妊婦用や赤ちゃん用の腹巻など、腹巻のイメージを変える商品も生まれました」
Amazon「プライムデー」がビジネス躍進の起爆剤に
両社のビジネスをさらに加速させる転機となったのがAmazon「プライムデー」です。プライムデーとは、プライム会員向けに開催される年に一度の特別セール。多くのお客様から注目を集め、2020年の期間中、日本国内の販売事業者の販売個数は約800万個と過去最高を記録しました。
船原さん「2019年から参加していますが、プライムデーの期間は1日の売上が普段の5倍以上に伸びました。Amazonの担当者からアドバイスをいただき、事前に増産体制をかけていましたが、作っても作っても追いつかない状態でしたね。しかも、年々その勢いは増している印象です。プライムデーをきっかけに当社の腹巻を知り、リピーターになってくだるお客様もいらっしゃるので、数字以上の効果を実感しています。プライムデーで全商品が完売した時には、みんなで万歳三唱をしました(笑)。また、年間を通して安定した利益を確保できるようになったことで、より手頃な価格帯で腹巻を提供することができるようになりました」
売上増加の背景には、EC利用者の急増が挙げられます。日本国内のBtoC-EC市場(消費者向け電子商取引)はここ10年で約7.8兆円から約19.4兆円※3に拡大し、右肩上がりの成長を続けています。
船原さん「コロナ禍でEC市場が拡大してコロナバブルともいわれていますが、一時的なものではなく、ECでモノを買うことは消費行動のスタンダードになると思います。EC市場はずっと成長を続けてきましたし、生活に浸透するスピードが一時的に加速しただけだととらえています」
一方のAKAISHIもまた、プライムデーによって想像以上の恩恵を受けてきたといいます。昨年は中小規模の販売事業者を紹介する特集ページで紹介されたことで、ブランドの認知度向上につながりました。
赤石さん「プライムデーを機に露出が増え、多くのお客様に当社のことを知ってもらう絶好の機会になりました。ブランドの認知度が一気に上昇し、プライムデー前後は20~30%ほど売上がアップ。さらに、通常日の売上も底上げされるうれしい結果になりました。また、ブランドサイトに誘導する『スポンサーブランド広告』も欠かせないサービスです。事実、購入者の約8割がブランドストアを閲覧しているというデータもあります。商品単体を閲覧するだけではなく、当社の靴作りに対する想いを知っていただくことが購入を後押ししているのです」
実店舗ではお客様の足を診断しながら、足に合った一足を提案しているECにおける成功は、両社に次なるビジョンを与えています。
赤石さん「昔から『当たり前』という言葉が嫌いなんです。でも、靴業界は古い慣習にとらわれています。例えば、お客様が靴を履いてみて合わなかったら、他の靴を選ぶことが当たり前になっている。単純に言うと『靴が足を選ぶ』状況です。それを、お客様の足に合った靴を提供する状況、つまり『足が靴を選ぶ』に変えることが当社の使命。当たり前の先にある新しい価値を創るブランドとして成長していきたいですね」
船原さん「近年、温活という言葉と共に女性用腹巻も認知されてきましたが、当社はその先駆けとして、もっともっと腹巻文化を広めていきたいと思っています。靴下や下着のように、インナーウェアとして全員が腹巻をつける習慣を根付かせることが最大の目標です」
コロナ禍という激動の時代に変わりゆくニーズをとらえ、常識を覆す戦いに挑む両社。そこには、ピンチをチャンスに変える多くのヒントが隠されています。
※1 新型コロナ禍での生活者の意識変化調査(2020年11月12日~12月3日実施)
※2 経済産業省「第12回新事業創出WG 事務局説明資料②」
※3 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」
※2 経済産業省「第12回新事業創出WG 事務局説明資料②」
※3 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために












