日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第17回は、Amazonを通じて海外販売を行う中小企業のDXにフォーカスします。

※本記事は、2021年12月16日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴うインバウンド需要の消失を機に、日本製品の輸出の重要性がより一層増しています。加えて、将来的に見ても日本の人口は減少傾向にあり、国内需要は先細りが予想されているからです。
ただし、中小企業が海外販路や物流網を確保するためには莫大な費用や手間が必要です。その打開策として注目を集めているのが、日本貿易振興機構(JETRO)とAmazonが提携し、日本企業の海外進出を支援するJAPAN STORE プログラムです。今回は、11月にスタートしたこのプログラムを利用し、海外販売を加速させる中小企業のストーリーに迫ります。

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
株式会社杉本商店 代表取締役社長・杉本和英さん

生産者の生活を、産地を持続可能なものにする

宮崎県高千穂町において、クヌギの原木で栽培された干し椎茸の販売を手がける杉本商店は、2017年からAmazonグローバルセリングを利用して欧米での販売を行っています。創業は1954年。1970年の株式会社への改組後、47年目にして海外販売に踏み切ったのは、国内需要の先細りを見据えてのことです。加えて、「生産者や産地への想いが強かった」と代表取締役社長の杉本和英さんは語ります。

杉本さん「当社は、生産者が持ち込む干し椎茸を現金で買い取るという、生産者の生活を守るための仕組みをとっています。一方、買い取った干し椎茸を1年で売り切らないと事業の継続が難しくなる在庫リスクも抱え、縮小する国内市場の先行きに不安を感じていました」

約600軒の生産者と取引する中で、「自分たちの都合でこの仕組みをやめることはできない」と悟った杉本さんは、ある覚悟を決めます。

杉本さん「生産者の皆さんが干し椎茸を持ち込んでくださるのは約50年の信頼関係があってこそ。今から始めることも、誰かが真似することも難しい仕組みを終わらせることのほうが損失だと考え、私たちの使命は干し椎茸を売り続けることではなく、買い続けることなのだと覚悟を決めました。そこから、生産者の生活と、生産を持続可能なものにするためにできることはないかと考え始めたのです」

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持ち込まれた干し椎茸の大きさや香りを確認し、その場で現金で買い取る
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
仕入れた干し椎茸にはさらに遠赤外線乾燥仕上げを施し、風味を引き出す

海外販売を通して見えた付加価値やターゲット層

国内市場が縮小傾向にあるならば、海外に販路を広げるしかない。杉本さんは買い続けるという使命を果たすために、Amazonグローバルセリングを利用した海外販売を視野に入れます。まず、海外販売の足がかりとして2016年から国内のAmazonで販売を開始。その後、2017年に米国、2018年に欧州で販売を開始します。

杉本さん「Amazonの商品ページや出品方法は、どの国のマーケットプレイスでも同じです。国内のAmazonで販売経験を積んだので、マーケットプレイスが変わっても戸惑うことはまったくありませんでした」

しかし、当初は思うように売上が伸びなかったそうです。

杉本さん「商品への絶対的な自信はありました。椎茸はクヌギの原木で栽培したものが最もおいしいという定評がある中で、宮崎県は森林の多くをクヌギが占めます。さらに、標高が高い、高千穂郷では椎茸が低温でゆっくりと育つため、味が詰まった歯ごたえのある椎茸が生産できます。もちろんオーガニックです。海外では干し椎茸はニッチな商品ですが、米国Amazon.comで干し椎茸と検索すると中国産の商品がいくつか表示されます。ニッチだけれどニーズは確実に存在すると確信しました」

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何列も並ぶクヌギの原木で露地栽培される
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植菌から発生した椎茸はクヌギの養分を吸って育つ

転機となったのは2018年、ドイツで行われた輸出展示会での出来事です。

杉本さん「海外の方に干し椎茸を試食してもらう中で、栽培方法について質問がありました。栽培に使うクヌギは伐採しても15年後に元通りになること、定期的に伐採することで森を若返らせ、水源の維持につながることを話したところ、『なんてサステナブルなんだ!』と興味を持っていただきました。さらに、海外に多いヴィーガンやベジタリアンにとって、干し椎茸のグアニル酸という旨味成分は唯一無二のごちそうになることも知りました。こうした付加価値やターゲティングの重要性を確信し、米国Amazon.comの商品ページに情報を増やしていったのです」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
山のアワビと評される干し椎茸は歯ごたえと豊かな風味が特徴

Amazonは地方が抱える課題解決の糸口になる

海外販売を通して干し椎茸の新たな可能性を発見した杉本さん。変化を柔軟に受け入れる姿勢は、多種多様な取り組みにも波及しています。

杉本さん「プラントベース(植物由来の原材料を使用した食品)というカテゴリーの存在も、海外販売を通して得た視点の1つです。近年、海外では主に植物由来の原材料を使い、肉や魚に似せて作った食品が大きな注目を集めており、干し椎茸をパウダーにすればプラントベースに活用できると考えました。現在販売している干し椎茸のパウダーは、地域の障がい者の就労支援施設で栽培から加工までを行っています。また、地域の小学生に行っている味覚に関する授業も、将来的に干し椎茸の需要を増やすための試みです」

生産者から干し椎茸を買い続けるという使命を起点に生まれた、地域の産業を持続可能なものにするためのさまざまな取り組み。それらを実現するために、Amazonの存在は不可欠だったといいます。

杉本さん「Amazonを通して得たものはたくさんあります。例えば、フルフィルメント by Amazon(FBA)を使って海外の倉庫に商品を預ければ、商品の注文処理から配送、返品に関するカスタマーサポートまでをAmazonが代行してくれます。現地で倉庫や物流網を確保する必要がないので、私たちは商品ページに掲載する動画や画像の作成に集中することができます。

新たに始まったJAPAN STOREプログラムは、米国Amazon.comにおいて商品の露出が高まり、マーケティングサポートを受けられると聞いてすぐに申し込みました。販売促進のためのトレーニングコンテンツも提供される中で、スポンサープロダクト広告のオンラインセミナーは先進的な内容で充実しています。JAPAN STORE(日本商品特集)ページに掲載されてまだ間もないですが、少しずつ売上がアップし、効果が表れています」

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Amazon.comに出品されている杉本商店の干し椎茸
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常務取締役の兄・達則さん(写真右)は精進料理にヒントを得たレシピ開発を行うアイデアマン

海外販売の売上は年々倍増し、思わぬ相乗効果も得ています。

杉本さん「Amazonでの海外販売と並行して、BtoBを開拓するために独自に海外の食品卸メーカーへの輸出事業も始めました。食品卸メーカーとの商談の際、Amazonでの販売価格や販売実績、カスタマーレビューは強力な武器になります。『すでにAmazonでこの価格で売れています』と証明することで値引き要求はなくなり、商談がとてもスムーズに進んでいます」

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Amazonは地方の中小企業を世界に飛躍させてくれると語る杉本さん

Amazonの海外マーケットプレイスにおけるBtoC販売と、独自に実施した海外の食品卸メーカーへのBtoB販売というDXに成功した杉本商店。国内需要の先細りに直面する中小企業にとって、海外販売は有効な打開策になると杉本さんは言います。

杉本さん「中小企業は年間10%売上が落ちると苦しいものですが、海外販売はその10%を補うためのリスクヘッジになります。同時に、Amazonは高齢化や働き手不足といった地域が抱える課題を解決する糸口にもなると思います。現に、私たちは海外販売で事業を安定させることで、生産者や地域の皆さん、そして従業員に利益を還元し、将来的な雇用創出も含め、持続可能な地域社会の形成に取り組むことができています。世界で通用する日本製品が数多く存在する中で、Amazonは、同じような課題を抱える地方の中小企業にとって、世界に羽ばたくための翼を与えてくれる存在になっていくと思います」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
株式会社くれない 代表取締役社長・津田善朗さん

機能性を追い求めたオーダーメードカーテン

「海外販売は当社にとって一攫千金のチャンスではなく、先細りする国内需要を見据えたリスクヘッジ。国内の売上が落ちても、その分をAmazonを通じた海外販売の売上でカバーし、安定的に成長していくことが目的です」

そう語るのは、カーテンの企画・製造・販売を手がける株式会社くれないの代表取締役社長・津田善朗さん。Amazonグローバルセリングを利用して海外販売を始めたのは2021年9月ですが、EC事業には2000年から参入。国内のAmazonには2007年から出品している先駆者です。

津田さん「当社のルーツは、1965年に祖父母が大阪・高槻市の商店街に開いた小さなインテリアショップです。バブル崩壊後、商店街は閑散とし、危機感を抱いた父が始めたEC事業を三代目の私がさらに加速させました。地域密着型の店からECへの転換は大きな変化でしたが、その変化を受け入れていなければ当社の今はありませんでした」

国内の縫製工場で作られるカーテンは、オーダーメードと高機能という特長を持っています。

津田さん「カーテンを毎年のように買われるお客様は少ないですよね。カーテンは生活空間の一部でありながら、数年に一度しか買わないニッチな商品なんです。その点、あらゆる窓のサイズに対応できるオーダーメードはお客様にとって安心感があります。それから、新居に引っ越して『カーテンを買い忘れた!』と慌てて注文されるお客様も多いので、Amazonの迅速な配送とも相性がいい。当社のECにおける売上はAmazonが最も多く、約40%を占めています」

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生地の裁断や接合などは機械を使って正確に行う
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繊細な技術が必要な工程は手作業で行う。衛生面に配慮して全スタッフがマスク・帽子を着用している
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カーテンの強度を左右する芯地付け。細部にジャパンクオリティが光る

カーテンの高機能化を推進したきっかけは、2011年の東日本大震災でした。

津田さん「震災後、社会全体で計画停電が行われる中で、改めてエコの重要性を実感しました。窓から入る夏場の日差しは室温を上昇させますし、冬場に暖房で室内を暖めてもカーテンが薄ければ熱は逃げていく。遮熱、断熱、さらには二次災害である火事を防ぐ防炎といった機能性を追求しました」

津田さんの視点はさらに社会全体へとシフトしていきます。

津田さん「もともと、お客様に商品を売り込むスタイルではなく、お客様に選ばれる商品を作りたいという信念を持っていました。それが、東日本大震災を機に、お客様はもちろん、社会全体に選ばれる企業でありたいと思うようになりました。例えば、不要となったカーテンを無料で引き取ってリサイクルするなど、持続可能な社会に貢献できるさまざまな活動に力を入れています」

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膨大な数のカラーやデザインバリエーションを誇る
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タッセルは余り生地を使ってすべて手作業で作られる
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完成品にはくれないのロゴが付けられる

国内で築き上げた商品力で海外でも勝負できる

津田さんの視点が海外へと広がったきっかけは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大でした。

津田さん「コロナ禍で経済活動が戻らない日々が続く中で、米国ではいち早く経済活動が再開していました。そこで、巣ごもり生活による急激な需要増加を経て落ち着いた国内需要のリカバリーとして海外販売を始めました。ゆえに、挑戦というよりはリスクヘッジでした。私たちは長年にわたって日本国内のAmazonで販売を行ってきたので、全世界共通のAmazonのインターフェースに慣れていたこともハードルを下げてくれました」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
Amazon.comの出品画面。カーテンのほかにレースなども販売している

FBAも海外販売の決め手になったといいます。

津田さん「Amazonでは元々、約140種類のサイズパターンから選べるセミオーダー形式をとっていました。注文が入る前にカーテンを作り、FBAに在庫を預けておくことには当初ためらいがありましたが、過去に注文が多かったサイズを絞り込んで量産し、FBAでAmazon のフルフィルメントセンターに預けたのです。蓋を開けてみると大成功でした。注文が入ってもAmazon が自動的に出荷してくれるので工場の稼働に余裕が生まれ、生産計画も立てやすくなりました。この成功体験があったからこそ、Amazonであれば国内販売と海外販売でやることに大きな違いはないと確信したのです」

米国市場に進出するにあたって、新たな戦略は練ったのでしょうか?

津田さん「海外製のカーテンはデザイン性が高くて安価、生地は薄いものが多い印象です。遮熱や断熱、遮光、防炎といった機能性に特化したものは少ないので、これなら自分たちが築き上げてきた商品力で勝負できると確信しました」

米国Amazon.comには4つのプロダクトラインを出品し、12種類のサイズパターンを販売。11月からはJAPAN STOREプログラムにも参加し、米国での海外販売を加速させています。

津田さん「申込みから審査までは非常にスムーズで、先日、プレミアムプランの合格通知が届いたところです。JAPAN STOREページでの露出はもちろん、スポンサープロダクト広告のクレジット付与や販促サポートなどもあるので、今後どのような効果が得られるか楽しみにしています。世界共通の出品サービスがあるAmazonでなければ私たちの海外販売は実現しませんでしたし、Amazonは多くの日本の中小企業と世界を結ぶ架け橋になっていくはずです。今後は米国のライフスタイルやカーテンへのニーズを調査し、Amazonと一緒にEC事業を安定化させていきたいと思っています」

デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
日本製カーテンは必ず世界でも通用すると自信をのぞかせる津田さん
デジタルが切り拓く中小企業の未来 Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
遮光性が高い生地にはしっかりとした厚みがある

Amazonを通じて海外販売を行い、JAPAN STOREプログラムでさらなる飛躍が期待される杉本商店とくれない。両社が海外販売をリスクヘッジと位置づけている点も興味深いですが、ニッチなジャンルで他社にはない品質や付加価値が強みとなっていることは示唆に富んでいます。そして、出品サービスやFBAをはじめ、Amazonが提供する世界共通のサービスを利用することで、両社の海外販売が実現したことも重要なポイントです。これからも、Amazonを通して世界に羽ばたく日本の中小企業が増えていくことに期待が膨らみます。

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