日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第5回は、事業承継を行った中小企業の成功例にフォーカスします。
※本記事は、2021年6月25日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
事業承継のケースは、企業の数だけ存在する
事業承継。企業の社長の高齢化に伴い、ここ数年、クローズアップされている言葉です。次期社長を誰にするか、後継者をどう育てるか、資産の譲渡、経営理念などの知的資産の継承など、事業承継にあたって解決すべき課題は少なくありません。オーナー社長の経営手腕や人脈に依存しやすい中小企業において、そうした課題は顕在化しやすいといえます。
中小企業庁によれば、2016年以降、休廃業・解散企業は年間4万件台で推移し、それらの企業の経営者は60〜70代が過半数を占めます※。このデータからは、社長が高齢になり、後継者不在によってやむなく休廃業したというケースを読み解くことができるでしょう。
「事業を受け継ぐ際は、先代である父と何度も衝突しました」と振り返るのは、栃木県小山市にある布団メーカー・株式会社コバックスの中條裕介さん。創業は明治にさかのぼり、高祖父の代から布団の製造を手がけています。中條さんがサラリーマンを経て家業に入ったのは2012年のことです。
中條さん「当社は一貫してOEMで布団の製造・卸販売をしてきました。しかし、薄利多売と相次ぐ価格競争の波に抗えず、民事再生手続きをすることに……。債権を完済したのは2013年ですから、入社当時は会社全体が疲弊していました。なんとかOEMから脱却し、新しいビジネスモデルを模索していた私と、OEMに固執する父。衝突は免れませんでしたが、2017年に代表権を譲り受けました。父は一線から退きましたが、今でも毎朝出社していますよ。肩の荷が下りたのか、今は円満にやっています(笑)」
コバックスと同じく100年以上の歴史を持ち、日本有数の刃物の産地として知られる岐阜県関市の刃物メーカー・三星刃物株式会社の事業承継もまた、ひと筋縄ではいきませんでした。渡邉隆久さんは社長に就任した1998年当時をこう振り返ります。
渡邉さん「先代社長の父が病に倒れ、突然、会社を継がざるを得ない状況に陥りました。サラリーマンを経て三星刃物に入社後、すでに12年が経っていましたし、将来的に家業を継ぐ覚悟でいましたが、あまりに突然の出来事で慌ただしい日々を過ごしました。事業面の引き継ぎで支障はありませんでしたが、商工会議所など、お付き合いの面は引き継ぐ暇もありませんでした。どこに行って誰に会えばいいのか、全くわからずに苦労しましたね」
事業面においてはコバックスと同様、OEMの限界を感じていたといいます。
渡邉さん「OEMは注文どおりの製品をきちんと仕上げさえすれば、在庫を抱えなくて済みますし、販路開拓や販促する必要もない。つまり、リスクを最小限に抑えられる優れたビジネスモデルなんです。アメリカの大手スーパーマーケットチェーンに刃物を卸すなど、大きな利益を生んだ時期もありましたが、価格競争は年々激しさを増し、数十年前から海外も含めた競合に仕事を奪われるケースが増えてきたのです」
OEMからの脱却と自社ブランド開発という挑戦
OEMからの脱却が必要だった両社が選んだのは、自社ブランドの開発という選択肢でした。しかし、創業始まって以来のBtoCへの舵取りは苦労の連続だったといいます。
中條さん「2013年に『APHRODITA(アプロディーテ)』という自社ブランドを作り、ショップ名を『お布団工房』としました。品質にとことんこだわって、中綿も生地も清潔に保てる抗菌防臭加工、吸汗速乾機能などを備え、素材はすべて国産のものを使用。日本ふとん製造協同組合が定める品質基準もクリアしています」
優れた商品は完成したものの、中條さんが最も苦労したのは、自社のブランドを確立し、商品の良さを伝えることでした。
中條さん「OEM時代は、自分たちの布団に対する想いを言語化することがなかったので、ずいぶん頭を悩ませました。先代たちが育んできた価値観に思いを馳せ、導き出したのが『寝室から人生をより豊かに』というコンセプトでした」
一方、三星刃物の自社ブランド開発のドラマには、30年間連れ添う奥様の存在がありました。
渡邉さん「妻が主宰するパン教室に当社で作った包丁やナイフを持っていくと、『140年以上の歴史があるのに、なんで自社ブランドがないの?』と言われ、ハッとしました。妻の後押し、そしてOEMに限界を感じていたこともあり、一大決心をして自社ブランドの開発に着手しました。試作を重ねては妻と夜通し議論を重ね、包丁の重さや長さをグラム単位、ミリ単位で検討していきました。パン教室の生徒さんたちの意見も取り入れながら、良い包丁とは何かを一から見直し、2015年に生まれたのが『和 NAGOMI』です」
開発には当然、熟練の職人の技術も欠かせません。
渡邉さん「和 NAGOMIで目指したのは一生モノの包丁です。素材のおいしさを引き出す切れ味、握りやすいハンドル、長く使える手入れのしやすさ。職人が試作品を作って、検品するのは私の役目です。何度もダメ出しをするものだから、時には職人に詰め寄られることも。『なんで今さら自社ブランドなんか作るんだ!』って(笑)。それでも、理想の包丁を作るには受け継がれてきた技術が必要不可欠でしたから、粘り強く説得して完成にこぎ着けました」
両社の変革を支えたAmazonのサポート
和 NAGOMIのブランドイメージを大切に育みたいという想いから、当初の販路は自社サイトのみでしたが、2020年にAmazonでの販売をスタートしました。
渡邉さん「Amazonならしっかりと私たちの想いを伝えられると思い、Amazonでの出品に踏み切りました。巣ごもり需要の増加という追い風があったにせよ、効果が表れる速さには驚きました。出品の翌月には売上が倍に、1年が経過した現在では約10倍に伸長しました。創業以来、初めての自社ブランドへの挑戦でしたが、Amazonのおかげで大きく売上を伸ばすことができました。一番胸をなでおろしているのは、発案者としてプレッシャーを感じていた妻かもしれません(笑)」
コロナによって会社自体が休業を余儀なくされたときも、フルフィルメント by Amazon(FBA)がビジネスを支えてくれたといいます。
渡邉さん「社員が出社できない中でも、注文が入った製品はAmazonの物流拠点から配送され、カスタマーサービスも代行してくれるので本当に助かりました。年末年始もそうです。年始めに包丁を買い替えるお客様が多いのですが、私たちが長期休暇に入っていてもAmazonがしっかりと注文処理も配送もしてくれます。社員はゆっくり休むことができますし、お客様にとっても指定した日に製品が届くので良いことずくめですね」
一方のコバックスは、自社ブランド立ち上げと同時にECに販路を見出しました。
中條さん「BtoCの販路を持たない我々にとって、選択肢はECしかありませんでした。自社サイトのお布団工房に加え、他社のECサイトにもいくつか出品していますが、Amazonの売上がトップを占めます。一番の要因はAmazon担当者のサポートです。我々のブランドと真摯に向き合い、その存在価値を高めるためにさまざまな努力をしてくれています」
Amazon担当者のアドバイスを受け、「やれることは全部やろう」と決心した中條さん。その効果は確実に表れています。
中條さん「Amazonと同様のお届け品質をお客様にお約束するマケプレプライムを活用することで、商品にプライムマークを付けることができます。プライム会員のお客様にとって、プライムマークがあることは安心感につながるので、購入の後押しになります。カスタマーレビューを重視し、商品の改善に役立てられるのもAmazonならではの強みだと思います。それから、特選タイムセールに参加したおかげでブランドの認知率が上がりましたし、自社の商品をまとめて紹介できるページでは、しっかり商品に込めた想いを伝えることができる。自社ブランド開発という新たな取り組みにおいて、Amazonのサービスやサポートは欠かせない要素でした」
変革に挑んだ両社を、売上面はもちろん、ブランディングやプロモーションでも支えていたのがAmazonだったのです。
DXの推進と産地の未来への想い
BtoCへの転換は、両社にさまざまな変化をもたらしました。
渡邉さん「和 NAGOMIを人生のパートナーにしてほしいという想いから、製品には無料の研ぎ直しサービス券を1回分、同梱しています。包丁の切れ味が落ちたと感じたら当社に送っていただくと、職人が手作業で包丁を研ぎます。大抵のお客様は刃の部分の研ぎ直しだと思われますが、当社ではハンドルの部分も磨いて新品同様のツヤを出しています。すると、多くのお客様が驚いて、感謝のメールをいただくこともあります」
そうしたお客様の感謝の言葉を、工場の入り口に貼り出していることも三星刃物ならではの取り組みです。
渡邉さん「社長が100回言う言葉よりも、お客様の1回の言葉のほうが社員を動かす力があるんです(笑)。BtoCでお客様の声を知ることで、社員に自覚や誇りが芽生えたことはとてもいい影響でした」
中條さん「代表に就いてからは苦労の連続でしたが、お客様から『APHRODITAのおかげで眠りの質が上がった』『腰痛が改善された』と感謝の手紙をいただくとすべてが報われます。社員には自社ブランドに対する愛や誇りが生まれ、労働環境の改善も進めたこともあり、社内はとてもいい雰囲気になってきました。睡眠環境寝具指導士の受検を社員に奨励したり、ちょっとした糸の綻びなどで検品を通らなかったB格品を養護施設に寄付して地域に貢献したりと、これまで取り組んできた新しいことの成果がさまざまな相乗効果を生んでいると思います」
ビジネスモデルの転換を成功に収めた両社ですが、挑戦はまだ終わりません。
中條さん「現在、お客様の睡眠データを記録できるアプリを開発しています。布団の劣化具合も記録できるので、それを数値化して商品開発に生かす予定です。クラウド型の業務効率化ツールなども職場に導入し、DXを推し進めて付加価値の創出や業務改善に役立てています。目指すは日本一の寝具メーカー。お客様にさまざまな形で良い眠りを提供し、充実した毎日をサポートしていきたいと思っています」
渡邉さん「江戸時代から鍛冶屋町として栄えた関市は、街全体が大きな工場のようにサプライチェーンが密集している特殊な土地です。和 NAGOMIがもっと多くの人に使われるようになれば、産業として発展し、街全体が活気づき、新しい働き手も外からやってきて技術が継承されていく。和 NAGOMIを生み出すことに協力してくれた地元のためにも、和 NAGOMIを世界に冠たるブランドに育てていく必要があるのです」
事業を受け継ぎ、創業以来のビジネスモデルの転換に成功した両社。幾多の困難に直面しながらも、変革を恐れず、挑戦する姿勢を貫きました。その姿勢には、事業継承を成功させるヒントを見つけることができるでしょう。
※中小企業庁「2021年版中小企業白書」
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために










