社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第17回は、健康を支える食品をAmazonで販売する中小企業に迫ります。
※本記事は、2022年8月10日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

人生100年時代という考え方が普及した近年、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を示す健康寿命の延伸に注目が集まっています。さらに、コロナ禍における健康志向の高まりも影響し、食に対する意識は年々強くなっています。こうした流れを受けて、必要な栄養素を手軽にとれたり、腸内環境を整えたりする、健康への効果が期待される食品や飲料を目にする機会も増えています。

今回は、食を通じて日本の健康を支える企業として、新商品開発のために起業した新興企業と100年の伝統を持つ老舗企業という、中小企業2社によるDXの取り組みを紹介します。

豊富な栄養素が詰まった完全栄養食を開発

2016年に創業し、完全栄養食のパンやパスタなどを製造・販売するベースフード株式会社は、Amazonでも商品を販売し、着実に知名度を伸ばしています。代表取締役の橋本舜さんは、創業のきっかけは自身の食生活にあると言います。
※ 1食で、栄養素等表示基準値に基づき、過剰摂取が懸念される脂質・飽和脂肪酸・n-6系脂肪酸・炭水化物・ナトリウム・熱量を除いて、すべての栄養素で1日分の基準値の1/3以上を含む。

橋本さん「大学卒業後、就職してからの数年間、仕事に没頭する忙しい日々を送っていました。食生活には気を配っていましたが、一人暮らしなので外食が増え、忙しく働く人たちにとって、健康的な食事をとることの難しさを実感しました。そこで、いつも食べているパンやパスタなどの主食で、多品目の栄養を摂取する方法はないかと考え始めたんです」

広いキッチンにて、商品と並んで笑顔の橋本さんの写真
ベースフード株式会社 代表取締役・橋本舜さん

起業し、新しい主食の開発に着手するも、食品については知識や経験がなく、苦労の連続だったといいます。

橋本さん「ただ、新しいことを学ぶのは楽しくもありましたし、素人だからこそ見える視点があるという確信がありました。栄養士の友人に相談しながら、100回以上試作を重ね、試行錯誤を繰り返しました」

創業から約1年後の2017年にBASE PASTAが完成。たんぱく質や食物繊維、ビタミンなどの栄養素を豊富に含んだ完全栄養食を実現しました。

橋本さん「普段の生活の中で、どの栄養素が自分に足りていないかを把握するのは難しいものです。だからこそ、体に必要な栄養素を1つの食べ物で摂取できるものにしたいと考えました。当社の商品は国が定める栄養素等表示基準値に基づいており、たとえば、ベースブレッドは1食2袋で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取することができます」

色が濃いフィットチーネの生パスタの写真
BASE PASTAはペペロンチーノや焼きそばなど、自由自在なアレンジが可能
チョコレートが練りこんであるパンと、色が濃い食パン、クッキー、パスタとさまざまなスタイルの商品が並ぶ写真
完全栄養食のパンとパスタとクッキー。栄養バランスはもちろん、味わいにもこだわっている
白衣を着て食品を調合している写真
自社内にある開発スペースから新しい商品のアイデアが日々生まれている

少人数でも新規参入を成功させた要因

商品の開発に成功したものの、販路をはじめとする販売方法が障壁として立ちはだかりました。

橋本さん「食品業界につてはなく、どうやって販売しようかと悩みました。そんな中、Amazonであれば参入障壁が低く、チャンスがあると考え、2017年にAmazonでの販売を始めました。すると、販売開始直後に売上が伸び、大きな反響がありました。これには本当に驚きましたね。Amazonを通じて認知度も高まり、自分が作った商品はニーズがあるのだと確信することができました」

当時は橋本さんを含めてスタッフは2名。「少人数でも成功できたのはAmazonのおかげ」だと橋本さんは言います。

橋本さん「当時は人手が足りず、自社ECサイトを作る余力もありませんでした。一方、Amazonはサイトがしっかりと構築されており、販売方法も簡単ですし、初期費用も抑えられます。何より、Amazonは利用者が多いので、より多くのお客様に商品を届けることができています」

BASE BREAD、BASE Cookies、BASE PASTA、それぞれにいろいろな味や種類が展開されたパッケージが並ぶ写真
豊富な商品ラインアップと味のバリエーションを誇る
ミーティングをしている写真
Amazonのカスタマーレビューなどをもとに、日々、商品の改良を検討
熱く語る橋本さんの写真
従業員は現在67名に。今後も規模を拡大していきたいと橋本さんは語る

現在は自社ECサイトも構築し、決済方法にはAmazon Payも導入しています。

橋本さん「すでにAmazonのアカウントをお持ちのお客様なら、クレジットカード情報などの入力が省けるので、手間を最小限にできるメリットがあります。お客様にとっては使い慣れた決済方法なので、安心感も大きい。購入に対する心理的ハードルを下げてくれていると思います」

同じく自社ECサイトには、200種類を超えるクラウドサービスを提供するアマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用しています。

橋本さん「AWSを活用することで、サイト構築の際の工数を劇的に減らすことができました。Amazon Pay やAWSなど、Amazonのさまざまなサービスを組み合わせることで、ビジネスのスピードが上がり、可能性が広がったと思います」

成長を続けている今も、目標は創業当初から変わらないといいます。

橋本さん「当社のミッションは、『主食をイノベーションし、健康をあたりまえに』すること。主食を完全栄養食に置き換えることで、無理なくバランスのとれた食事を摂取できる世の中を目指しています。そして、社会全体で課題となっている、健康寿命の延伸に貢献していきたいですね」

オートミールで日本の食生活を豊かに

腸活という言葉に代表されるように、近年、食生活を通じて腸内環境を整えることが注目を集めています。腸内環境に効果的な食品として、食物繊維を豊富に含んだシリアル(穀物を加工した食品)が支持されており、オートミールもその1つに数えられます。

「オーツ麦を原材料とするオートミールは、食物繊維や鉄分、ビタミンB1などを豊富に含んでいます。手軽に食べられる点も忙しい現代人にぴったりなんです」と語るのは、日本食品製造合資会社の代表社員、戸部謙ルイスさんです。

棚のガラスキャニスターに収納された様々な商品を背景に、笑顔の戸部さんの写真。手にはオートミールのパッケージ。
日本食品製造合資会社 代表社員・戸部謙ルイスさん

同社の創業は1918年。オートミールやフレーク、スイートコーンの缶詰など、北海道の自然素材を活かした商品の開発・製造を続け、現在はAmazonでも販売しています。

戸部さん「創業者である私の祖父が、『日本の食生活を豊かにしたい』という想いを胸に、食料品を研究するために欧米視察に行ったことが当社のルーツです。当時、北海道では馬のエサとして大量栽培されていたオーツ麦が、海外では健康食品として食べられていることを知って衝撃を受けたそうです」

戸部さんの祖父は帰国後、日本初のオートミールの製造に成功し、販売を始めます。

戸部さん「今でこそオートミールは人気ですが、当時はなかなか受け入れてもらえませんでした。けれど、オートミールを通じて人々の健康に寄与したいという祖父の想いを受け継ぎ、ずっと作り続けてきました。創業から100年を超えましたが、今でもベンチャー・スピリッツを受け継いで、新しいことに挑戦しています」

時代に流されることなくオートミールの製造を続ける中、新型コロナウイルス感染症のまん延が転機をもたらします。コロナ禍による健康志向の高まりを受け、オートミールがメディアで注目を集めたのです。そこで、Amazonでの販売が追い風になったと戸部さんは言います。

戸部さん「当社は小売店での卸販売、プライベートブランド商品の製造、そして業務用製品の販売という販路の柱がありました。そして、4つ目の柱にEC販売を据え、2019年からAmazonで本格的に販売を始めました。コロナ禍で店頭や業務用製品の売上が落ち込んだ際も、Amazonでの販売は順調に推移し、非常に助かりました」

木のボウルにはいったオートミールの写真
自然素材の良さを活かしたオートミールづくりにこだわっている
麦の穂の写真。実のひとひとつが飛んでいるつばめの姿に似ている。
オートミールの原材料であるオーツ麦。ツバメの姿に似ていることから燕麦(えんばく)とも呼ばれる
杖を持ち燕尾服にシルクハットをかぶったジェントルマンのロゴマークが書かれた昔のパッケージの写真
企業姿勢を表したジェントルマンのブランドマーク
棚におさめられた色褪せた昔の缶のパッケージたちの写真。
戦前に作られた歴代の商品が日本食品の歴史の長さを物語る

安定した販売を支えるAmazonという販路

Amazonという新たな販路は、戸部さんの想像を上回る効果をもたらしたといいます。

戸部さん「スーパーマーケットなどにはシリアル商品の棚が必ずと言っていいほどありますが、競合企業も多い。当社のような小さな会社の商品は、いつ棚から除外されても不思議ではありません。そんな中、Amazonには棚という概念がないので、安定して商品を販売することができます。そして、商品力さえあればお客様に選んでもらえる。従来の商習慣を覆す発見がありました」

オートミールがメディアで取り上げられ、需要が伸びた際は、フルフィルメント by Amazon(FBA)が役立ったといいます。

戸部さん「FBAでは、Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や返品に関するカスタマーサービスを代行してくれるので、一気に売上が伸びても慌てることなく、安心して業務に専念することができました」

オートミール、ミューズリー、グラノーラ、コーンフレークとバラエティ豊かなパッケージが並ぶ写真。
コーンフレークやグラノーラなど、幅広い商品を手掛けている
社員と商品を囲んでミーティングしている写真
社員は約80人。札幌・夕張・東京に拠点を構える
嬉しそうに語る戸部さんの写真
オートミールのレシピを開発するなど、「オートミールの魅力をもっと広めたい」と語る戸部さん

加えて、ビジネスの購買をサポートするAmazonビジネスにも助けられていると戸部さんは言います。

戸部さん「事務用品や椅子などの備品を購入する際に利用しています。当社は札幌と夕張、そして東京に拠点がありますが、Amazonビジネスは拠点の垣根を越えて一括購入できるので、精算の処理などがぐっと楽になりました。業務効率化の面でもAmazonビジネスの効果は大きいですね」

Amazonを活用して、今後は新たな商品展開に挑みたいといいます。

戸部さん「オートミールは離乳食としても、介護食としても活用できます。その用途の広さを活かし、年齢や目的・機能に合わせたオートミールを開発していきたいと考えています。幅広い層の人に届けられるという点でECに勝るものはないので、今後もAmazonを活用していく予定です」

完全栄養食である主食を開発したベースフードと、100年以上にわたってオートミールを販売する日本食品製造。両社が抱えていた販路に関する課題は、Amazonを活用したDXによって解決されました。多くのお客様が利用するAmazonでの販売は、両社の商品を、食を通じて健康を支えたいという両社の想いを、より多くのお客様に届けていくことでしょう。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

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