社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第23回は、Amazonを利用し、海外へ販路を広げる中小企業を紹介します。
※本記事は、2022年10月12日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

財務省貿易統計によると、2021年の日本の輸出額は83兆931億円。前年比21.5%増加し、過去2番目に高い水準を記録しました。

そうした中、中小企業における海外販売のビジネスチャンスが広がりを見せています。これまで海外販売の障壁となっていた販路の開拓や倉庫・物流の確保、販売促進などに関する課題解決を、Amazonがトータルでサポートするサービスを活用する中小企業が増えているためです。今回は、メイド・イン・ジャパンの品質を武器に、海外販売に挑む中小企業のDXを紹介します。

外国人観光客の言葉が海外販売の契機に

2013年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて以降、日本の食文化が世界的な注目を集めています。日本食の販売を手がける株式会社ヤマサンは、2015年からAmazonグローバルセリングを利用し、日本にいながら海外のAmazonのマーケットプレイスで販売を行っています。

「当社では、みそやしょうゆ、緑茶など、日本の伝統的な食品を仕入れ、現在はアメリカやイギリス、シンガポールなど、世界6か国のAmazonのマーケットプレイスで販売しています」と語るのは、専務取締役の大秦哲兵さんです。

商品が並べられた店内で笑顔の大秦さん
株式会社ヤマサン 専務取締役・大秦哲兵さん

大秦さん「創業当初からこだわっているのが、国産かつ無農薬・有機栽培で作られた食品を厳選してお客様にお届けすること。安心安全でおいしいものを伝え継ぎ、お客様の豊かなライフスタイルに貢献したいと考えています」

無農薬や有機栽培にこだわった食品を販売してきたことが、同社が海外販売に踏み切る契機になったといいます。

大秦さん「当社は世界遺産として知られる京都府宇治市の平等院の近くに直販の店舗を構えています。あるとき、ご来店された外国人のお客様に、数ある店舗の中から当店を選んでいただいた理由を尋ねたところ、『オーガニック食品を扱っているのはここだけだったから』と答えられました。安心安全に強いこだわりを持った私たちの食品は、オーガニックへの意識が高い海外のお客様に需要があるのではないかと気づいた瞬間でした。さらに、帰国後にも当社の食品を購入したいというお客様の声が増えたこともあり、思い切って海外販売に挑戦することにしました」

チューブ式の信州米麹みそ
素材や製法にこだわったみそは信州(長野県)から仕入れている
玉露と様々な出汁素材が描かれているパッケージ。
生産者と共同開発した「旨味だし」には、味わいを深めるために玉露を入れている

コロナ禍の窮地を救ったAmazonでの海外販売

海外販売の足がかりとして、2014年に卸販売を開始。翌年、Amazonグローバルセリングを利用し、自社での海外販売に踏み切りました。

大秦さん「海外販売において最もメリットを感じたのが、フルフィルメント by Amazon(FBA)というサービスです。Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や商品に関するカスタマーサービスを代行してくれるので、私たちは海外のAmazonの物流拠点に商品を送るだけでいい。現地法人や倉庫を作る必要もありませんし、複雑な手続きがないこともありがたかったですね」

JAPAN STORE プログラムを利用したことも、成功を収めた一因だと言います。

JAPAN STORE プログラムとは、Amazonと日本貿易振興機構(JETRO)が共同で日本企業の海外進出を支援するもの。アメリカのAmazon.comでの出品サポートや商品の露出の拡大、販促のためのトレーニングコンテンツの提供など、さまざまな支援を行っています。

大秦さん「JAPAN STORE プログラムを活用し、スポンサープロダクト広告などの販促施策に関するトレーニングセミナーに参加しました。JAPAN STORE プログラムに参加することで、Amazon.com内での露出が増加しました」

アメリカのamazon.comのストアページ
海外販売の商品ページでは、用途などの細かな説明を添えている。
英語で書かれた茶缶
海外販売向けにデザインされた有機抹茶のパッケージ
楽しそうに話すスタッフさんたちと大秦さん
スタッフと議論を重ね、海外需要が高い新たな食品を分析している

今では、海外販売における売上が同社の50%以上を占めるに至りました。世界中に販路を開拓できたことは、コロナ禍の到来と共により大きな効果を発揮したといいます。

大秦さん「コロナ禍で海外からの入国や他県からの移動が制限され、観光客が激減したこともあり、店舗の売上は大きく減少しました。そうした中で、Amazonの海外販売の安定した収入が救いとなり、より一層、海外販売に注力しました。Amazonでの海外販売の売上は成長を続けており、大きな手応えを感じています。『パーフェクト!』と書かれたカスタマーレビューを見たときはうれしかったですね」

海外販売での手応えをバネに、現在は国内のAmazonでの販売にも力を入れています。

大秦さん「スポンサープロダクト広告の効果もあり、国内での販売も順調に推移しています。安心安全の食品を届けるだけではなく、今後は日本の食文化や、日本食がもたらすほっとするひとときも伝えていければと思っています。Amazonで当社の商品を知った国内外のお客様に、京都の店舗にお立ち寄りいただけたら、これ以上幸せなことはないですね」

猛暑の夜にひらめいた蒸れないヘッドホン

メイド・イン・ジャパンという言葉が世界的に知られていることからもわかるように、日本の商品は世界的な評価を獲得しています。機能性や耐久性、独自性など、さまざまな面での品質の高さが評価の理由ですが、フィフティスクエア株式会社が手がけるヘッドホンカバー、mimimamo(ミミマモ)もまた、メイド・イン・ジャパンの品質に基づく商品だといえます。

同社代表取締役社長の林雅之さんは「日本のものづくりが元気な時代に幼少期を過ごしたこともあり、電機メーカーに勤めていた頃から、自分が欲しいと思う商品を生み出し、世界中の人に喜んでもらいたいという夢を抱き続けていました」と話します。そして、2012年に現在の商品、mimimamoの原点となるアイデアを思いつきます。

カバーをつけたヘッドホンを手に笑顔の林さん
フィフティスクエア株式会社 代表取締役社長・林雅之さん

林さん「猛暑の夜のことです。部屋の窓を開けて、ヘッドホンで音楽を聴いていました。すると、暑さで汗がにじみ、耳が蒸れてきました。そのとき、耳が蒸れないヘッドホンを作ろうというアイデアがひらめいたんです」

アイデアを形にしようと試行錯誤の日々が続きました。

林さん「ヘッドホンにファンを装着し、風を送るものを自作してみましたが、音がうるさくて音楽が聴こえませんでした。そこで発想を転換し、吸水・速乾効果のある布をヘッドホンに装着するという、現在の形にたどり着きました。着想を得てから1年半後のことです」

製造は国内の老舗アパレルメーカーに委託し、職人が手作業で縫製を行っています。ヘッドホンにフィットする生地の伸び具合、吸水性、速乾性、抗菌防臭加工など、林さんのこだわりを実現するためです。

林さん「2013年に創業し、2014年から販売を開始しましたが、EC(電子商取引)での販路はAmazonにしようと決めていました。販路のツテもなく、自分で商品の梱包や配送をする余裕がなくても、AmazonのFBAを利用すればチャンスがある。子どもの頃から抱いていた夢を実現できると思いました。FBAを知ったときの衝撃は今も忘れられません。社員数たった3人の当社がここまで成長したのは、FBAのおかげだと思っています」

生地を伸ばしながらヘッドホンに装着させる様子
ヘッドホンに装着しやすい、伸縮性のある生地を採用
単色と迷彩柄それぞれのカラー展開された商品
豊富なカラーバリエーションやデザインも人気の秘訣

海外へ販路を拡大し、さらなる飛躍へ

機能性と独自性を兼ね備えたmimimamoは、Amazonでの販売を通じて認知度を高め、家電量販店などにも販路を拡大。2021年からJAPAN STORE プログラムを利用したことで、さらなる飛躍を遂げます。

林さん「国内の需要が一段落し、規模を拡大したいと考えていたところにAmazonからお話をいただきました。海外販売というとハードルが高いイメージがありましたが、関税などの複雑な手続きもサポートしてくれるので非常に助かっています。Amazonの商品ページは世界共通なので、お客様は自国の商品を購入するいつもの感覚で商品を購入できます。私たち販売事業者も、販売代理店を通さずに海外で商品を販売できる。海外販売の最初の一歩を踏み出せたのはAmazonのおかげだと思います」

カバーをとりつけたヘッドホンを装着する様子
音質を邪魔しないヘッドホンカバーの機能性が海外でも評価を得ている
ヘッドホンカバーの商品ページ
リモートワークでヘッドホンを使う人が増えたこともあり、需要が拡大している
嬉しそうに話す林さん
幼少期からの夢が叶ったのはFBAのおかげだと語る林さん

将来的には、新商品の開発を思い描いています。

林さん「mimimamoも商標権や特許を取得していますが、今後も長く愛される独自性のある商品を作りたいですね。ただ、こだわりが強すぎてなかなか商品化に至らないんです。でも、Amazonのおかげで販路開拓の営業をしなくて済むので、ものづくりに専念することができています」

世界各国にマーケットプレイスを持つAmazonを利用し、国境を越えて商品を販売することに成功したヤマサンとフィフティスクエア。その背景には、日本食や自分で生み出した商品で世界中の人を喜ばせたいという想い、夢が存在します。そうした夢が生み出す原動力があることが、世界に羽ばたく中小企業の共通点だと言えるでしょう。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

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