社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第24回は、Amazonで個性豊かな特産品を販売する中小企業を紹介します。
※本記事は、2022年10月20日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
海や山に囲まれた自然豊かな日本は、さまざまな農畜産物や海産物に恵まれた国です。たとえば、青森県ならリンゴ、高知県ならカツオと、47都道府県それぞれに魅力的な特産品があり、日本の食の豊かさを物語っています。こうした特産品は地域活性化の役割も担っており、地域の特性を生かして経済的効果を生み出す事業を促進する「地域未来投資促進法」をはじめ、国や地方公共団体が積極的に地域経済への支援を行っています。
では、EC(電子商取引)が普及した今、特産品はどのように流通し、地域を盛り上げているのでしょうか? Amazonを通じて特産品を販売する中小企業2社の取り組みから探ってみます。
地域の生産者とつながり、沖縄の特産品を販売
沖縄県の特産品といえば、シークヮーサーやソーキといった農畜産物、海ぶどうなどの海産物、さらにはサーターアンダギーといった菓子まで、実に多種多彩です。沖縄県那覇市にあるミヤギミートは、そうした沖縄の特産品を500種類以上取り扱い、販売しています。
「戦後間もない1950年、私の祖母が個人商店として始めた雑貨店が当社のルーツです。当時は物資が非常に乏しく、砂糖から靴まで、売れるものはなんでも売ったと伝え聞いています」と語るのは、代表を務める仲村淳さんです。
ミヤギミートはその後、肉の小売および卸販売に事業を展開。1986年、国際通りにほど近い商店街に新たな店舗を開業しました。
仲村さん「当時、沖縄県は徐々に観光客が増えてきており、観光客が集う国際通りの近隣という立地的な特性を生かし、肉の小売や卸販売に加え、周りに先駆けて沖縄の食材やお土産なども取り扱うようになりました。売れるものはなんでも売るという祖母の精神を受け継ぎ、さまざまな特産品を仕入れ、生産者や製造業者と共に商品開発も行っています」
サトウキビ農家とのプライベートブランド商品の開発や、地元商店の販売中止となった商品を譲り受け、再販するなど、ミヤギミートは地域に密着し、沖縄の特産品の魅力を伝えてきました。
仲村さん「地元の生産者や製造業者、商店も含め、周囲の人々の暮らしが少しでも豊かになればと日々考えています」
商品開発の時間を生んだAmazonのサービス
観光客としてミヤギミートで買い物をしたお客様から、「あの商品をまた食べたいから送ってほしい」という依頼が増えたこともあり、2013年からは「うちなーむん」というストア名でAmazonでの販売を開始。2019年からは、Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や商品に関するカスタマーサービスを代行してくれるフルフィルメント by Amazon(FBA)を利用することで業務効率化を実現しています。
仲村さん「ほぼ毎日、物流パレット2枚分の商品をFBAの物流拠点に預けています。約20名の当社において、これだけの商品数の注文処理や発送作業を行うことは不可能です。受注と出荷をアウトソーシングしたことで、実店舗での販売業務や商品開発などに集中でき、成長を遂げることができました」
生産者や製造業者と連携し、Amazonでの販売を加速させるための取り組みも行っています。
仲村さん「重量とサイズの規定を満たすと配送代行手数料が割り引かれるFBA小型軽量商品プログラムを利用するために、特産品の製造業者と一緒に商品パッケージの改良を行っています。Amazonは販売にかかる費用だけでなく、配送料のメリットも大きい。商品ページの作り込みや使いやすさも優れていると思います」
コロナ禍で観光客が激減した際は、Amazonでの販売が救いになったといいます。
仲村さん「実店舗を訪れる観光客は減り、肉を卸している飲食店の休業も相次ぎ、苦しい状態が続きました。そうした中、順調に伸び続けるAmazonでの売上によって、なんとかピンチを乗り切ることができました。今後は、Amazon、店舗販売、卸販売の三本柱をより強化していきたいと考えています」
沖縄には特産品が数多く存在しますが、特産品を通じた地域活性化は「人ありき」だと仲村さんは言います。
仲村さん「どんな商品を取り扱うかも大切ですが、商品を販売し、売上を伸ばし、周りにいる人たちを幸せにすることが一番の目標です。周りの人とは、お客様であり、従業員であり、地元の商店街であり、生産者や製造業者でもある。当社に関わるすべての人たちの生活を豊かにするために改善や進化を続けることが、持続可能な地域活性化につながると信じています」
生産者のもとを訪ね、自らの舌で確かめる
岐阜県岐阜市に本社を構える株式会社千成商会は、お酒のおつまみの卸販売を行っています。代表取締役社長の谷上文史さんは、「先代である父が1968年に創業した当初は、市場で昆布や煮干しなどを仕入れ、パックしてお店で販売する乾物問屋でした」と語ります。ただし、乾物は鍋や煮物といった冬場の料理に使われることが多いため、夏場は売上が落ちてしまいます。その打開策として、創業から数年後にはイカの燻製を仕入れ、おつまみとして販売を始めたといいます。
そんな同社の特徴は、北海道函館市産のイカの加工品や昆布をはじめ、山形豚を使ったサラミ、静岡県焼津市産のカツオを使った出汁パックなど、日本各地の特産品を販売していること。それらはどのような基準で選ばれているのでしょう?
谷上さん「心がけているのは、実際に生産者や製造業者に会いに行くこと。彼らから素材や製法へのこだわりを聞くうちに、自然とファンになっていくんです。視察というよりは、話を聞きに行くのが楽しいという感覚が強いですね」
生産者や製造業者のもとを毎年のように訪ねることは、商品の品質向上やラインアップの拡充にも影響を与えています。
谷上さん「たとえば、国内で作っているイカの燻製は、イカの下処理で使う水によって大きく味わいが異なります。それを自らの舌で確かめると、純粋においしさに感動するんです。生産者や製造業者と直接つながっているからこそ、新商品や改良のアイデアを話し合える関係性が築けていると思います」
谷上さんは生産者や製造業者に対し、「おいしいおつまみを作ってくれることへの感謝の気持ちを常に抱いている」と言います。そうしたおつまみをお客様に届けることが同社の使命ですが、長年の間、課題に感じていたことがあったそうです。
谷上さん「当社の主な販路は東海地方の酒販店やスーパーマーケットです。けれど、店舗の棚には限りがあり、珍味の類を扱ってくれる店舗はそこまで多くありません。私たちが『どうしてもこの味を広めたい、生産者のこだわりを届けたい』と思っても、販路が開拓できないという課題がありました」
Amazonのセールでの成功が飛躍の転機に
そんな課題の解決を目指し、2016年から「つまみ蔵」というストア名でAmazonでの販売を開始しました。
谷上さん「販売費用や操作性などを検討したとき、最も参入しやすかったのがAmazonでした。実際、商品ページを作る際に難しい操作はまったくありませんでした。商品の保管スペースとリソースの負担を下げてくれるFBAのメリットも大きかったですね」
2021年11月に行われたAmazon ブラックフライデーが同社の転機になりました。
谷上さん「あたりめとするめ足をセットにしたおつまみが爆発的に売れました。相乗効果も大きく、Amazon定期おトク便で購入されるリピーターのお客様が増え、セール時以外の売上が安定しました。ブランドとしての知名度も上がったので、Amazonでストアページを作成し、現在はブランディングにも力を入れ始めています」
「カスタマーレビューでお客様の声を知ることができるメリットも大きい」と谷上さんは言います。
谷上さん「お客様と直接触れる機会がなかった私たちにとって、Amazonのカスタマーレビューは非常に参考になります。おつまみの世界はニッチで、新しいお客様が急激に増えるわけではありません。だからこそ、商品を購入してくださるお客様を大切にしたい。そのために、カスタマーレビューを商品の改良に役立てています。将来的には、日本で一番品揃えが豊富なおつまみショップとして、生産者や製造業者のこだわりを全国に伝えていければと思っています」
特産品を販売するミヤギミートと千成商会は、生産者や製造業者とパートナーシップを築き、共に商品の開発や改善をしながら特産品の魅力を発信するという共通点を持っています。そして、地元での事業を大切にしながら、Amazonでの販売というDXによってパートナーシップを強め、地域活性化という好循環を生んでいます。両社の取り組みは、地域活性化におけるDXの重要性を教えてくれます。
中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX