社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第9回は、社会に貢献する事業領域でAWSを活用する中小企業に迫ります。
※本記事は、2022年5月12日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

世界各国で多くの企業や行政機関に採用されているアマゾン ウェブ サービス(AWS)。高いセキュリティに加え、AIや機械学習、IoT、データ分析、アプリ開発などを含む200種類を超えるクラウドサービスを提供することで、幅広い業界・分野での活用が進んでいます。今回は、社会貢献型の事業に携わる2社の事例から、AWSを活用して日本の社会インフラを支えるDXを見てみましょう。

ワクチン接種を記録して確認するシステムを構築

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、社会全体の喫緊の課題となったワクチン接種。2021年2月から段階的に開始され、現在までの総接種回数は2.6億回にのぼります(2022年4月19日時点の首相官邸発表に基づく)。ワクチン接種準備にあたって大きな課題となったのが、国民の接種状況をどのようにして把握するか。そこでデジタル庁が主導したのが、ワクチン接種記録システム(VRS)の構築です。

「複数の開発業者が候補に挙がる中、当社が契約に至ったのが2021年2月のこと。そこから2か月間でシステム構築を行いました」と語るのは、株式会社ミラボの代表取締役・谷川一也さんです。

たくさんのモニターや本を背景にした谷川さんの写真
株式会社ミラボ 代表取締役・谷川一也さん

谷川さん「国家的なプロジェクトですから、ミスも遅延も許されない。正直、プレッシャーは大きかったです。怒涛の2か月間でしたが、国民の皆様にお役立ていただけるシステムに携われるやりがいを胸に、デジタル庁と当社が一丸となってプロジェクトを推進しました」

ミラボには多様な実績があったため、困難なプロジェクトにも挑戦することができました。

谷川さん「2015年にリリースした『子育てモバイル』は、現在、約300の自治体で導入されています。電子母子手帳としてAI(人工知能)を使った予防接種のスケジューラーや、健診の予約システム、電子申請サービスなどを備えたアプリです。2017年には書類や帳票の電子化を行うソリューションが内閣官房のマイナンバーシステムに採用されるなど、公共事業の課題解決を得意としてきました」

コロナ禍で行政手続きの電子化が加速し、政府や地方自治体共通のクラウドサービスであるガバメントクラウドの整備が進む中で、ミラボは信頼性のあるシステムを着実に作り上げてきたのです。

谷川さん「とはいえ、1億人以上の方が利用し、1日100万件以上のアクセスが予想されるシステムは前例のないものでした。デジタル庁との打ち合わせには常に私とエンジニアで出席し、細かな仕様変更にもスピーディに対応しました。すべて社内のエンジニアで対応する、自社で完結するという当社の強みが活かされたと思います」

オフィスで和やかに社員が顔をあわせる写真
80名いる社員のうち、7割程度をエンジニアが占める
同じモニターを見て話し合っている太田さんと谷川さんの写真
開発面はエンジニアである取締役CPOの太田さんがメインで担当
システム画面の写真
「子育てモバイル」の予防接種スケジューラーは特許を取得している

AWSを活用し、素早く、正確かつ安全にデータを記録

VRSの構築にあたって、AWSは欠かせないものだったと谷川さんは振り返ります。

谷川さん「VRSでは、国民の接種記録をクラウド上で管理します。各自治体が住民の情報を入力するとデータベースに反映され、接種状況が記録される仕組みです。フルマネージドサービス(セキュリティ監視や障害対応などをより細やかに運用代行する統合型サービス)であることが条件でしたので、AWSがベストな選択肢であると判断しました」

膨大なデータを記録するにあたって、素早く、正確にデータを記録し、高いセキュリティを保つことが絶対条件でした。

谷川さん「AWSはまさに短期リリース、高品質、高セキュリティ、さらに低コストを実現することが可能で、それによってミニマムな人員で開発に集中することができました。しかも、AWSは柔軟にカスタマイズできるので、度重なる仕様変更やシステム構築後の修正にも対応することができました」

同社は、VRSに登録されたデータを利用し、ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を発行できるデジタル庁公式の電子交付アプリも開発。今後、海外渡航手続きやワクチン・検査パッケージでの活用が期待されます。

スマートフォンで接種証明書アプリを操作している写真
ワクチン接種証明書が発行できるアプリ開発もデジタル庁と共に行った
語っている谷川さんの写真
「いま、ここにないもの」を創造することがミラボの信念であると語る谷川さん

谷川さん「今回のプロジェクトを含め、当社のミッションはITの力で人の価値を最大化し、社会に還元すること。ITはあくまでもサポートツールであり、重きを置いているのは人の価値、そして世の中の役に立つことです。これからは、福祉の分野でも新たな価値創造に挑み、人々が幸せになるDXを実現していきたいですね」

アクティブラーニングをサポートするアプリを開発

文部科学省が2019年に打ち出したGIGAスクール構想は、日本の教育を刷新するものとして社会的な注目を集めています。具体的には、1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークを整備し、子どもたちの資質・能力を育成するICT(情報通信技術)環境の実現を目指すもの。「GIGAスクール構想は、世界的にも遅れを取っている日本のICT教育を大きく加速させたと思います」と語るのは、株式会社LoiLo(ロイロ)の代表取締役・杉山竜太郎さんです。

オフィスを背景にした杉山さんの写真
株式会社LoiLo 代表取締役・杉山竜太郎さん

杉山さん「当社は教育現場に授業支援クラウド、ロイロノート・スクールを提供し、国内外1万以上の学校で毎日200万人以上の方にご利用いただいています。ロイロノート・スクールを開発した2014年当時、教育現場に端末を導入している学校はごくわずかでしたが、GIGAスクール構想を機にユーザー数は年々倍増しています」

ロイロノート・スクール開発のきっかけになったのは、教育機関向けの動画編集ソフトでした。

杉山さん「子どもでも簡単に動画を編集できるソフトの開発依頼を受け、2010年にロイロエディケーションをリリースしました。タブレット型端末がまだ普及していない時代に、タッチ操作を実現したものです。ところが、教育現場で操作の研修を重ねる中で、操作方法をなかなか理解してもらえないという壁に直面しました」

もっと簡単で、もっと直感的なものを作らなければ――。そう考えた杉山さんは、画面上にあるファイルとファイルを指でつなぐだけで編集できるアプリの開発に着手します。こうして2013年に生まれたのがロイロノートです。

杉山さん「動画ファイルのみならず、テキストファイルや写真ファイルをつなげ、生徒たちのプレゼンテーションに活用できるようにしました。先生が板書しながら話し、生徒はそれを聞いてノートに写すという従来の授業から、生徒自らが思考し、創造し、表現するという、アクティブラーニングをサポートする第一歩だったと思います」

こうしたアイデアのベースには、杉山さん自身の経験も深く影響しています。

杉山さん「大学時代は映像制作を学び、その後はVJ(ビジュアルジョッキー)やゲームのデザイナーなどを経て、弟の浩二とLoiLoを創業しました。そうしたキャリアの中で、『動画編集も写真編集も、テキストの作成も、1つのソフトで全部できれば便利なのに』という考えがずっと頭の中にありました。それを形にしたのが、今のロイロノート・スクールだと言えるかもしれません」

いろんなファイルが矢印でつながれている様子の画面写真
ファイルとファイルを指でつなぐだけで編集できるロイロノート・スクールの画面
動画データがたくさん埋め込まれている様子の画面写真
ファイルの中には動画データを埋め込むこともできる
動画ファイルの中に動画ファイルを保存する様子の写真
動画ファイルの中に動画ファイルを保存できるなど、操作性の自由度が高い点も特徴

AWSクラウドを活用し、知の共有をサポート

教育現場への研修を繰り返す中で得た気づきと、教師や生徒からのフィードバックをもとに、ロイロノートは進化を続けていきます。

杉山さん「端末上に動画や写真のデータがたまって困るという声を受けてクラウド化に乗り出し、ロイロノートをベースにした現在のロイロノート・スクールを2014年にリリースしました」

クラウドにAWSを利用したのは、自然な流れだったと言います。

杉山さん「創業当初から自社のWEBサイトの構築にAWSを利用し、サービスの良さを実感していたので、他の選択肢は思いつきませんでした。ロイロノート・スクールには膨大な量のデータがAWSクラウドに保存されます。仮に自社にデータ保管用のサーバーを設置するとなれば、ハードウェア、スペース、そして予算を確保しなければなりません。当然、リソースを奪われ、開発のスピードも落ちてしまう。AWSなくして、ロイロノート・スクールの進化はなかったと断言できます」

杉山さんは、15年以上前から利用してきたAWSを「クラウドコンピューティングサービスの先駆者として、常に進化や改善の手を緩めない存在」だと言います。ロイロノート・スクールは、AWSと共に今も進化を続けています。

「提出」や「送る」のアイコンが並ぶ画面の写真
生徒同士がデータを送り合ったり、教師に提出したりすることもできる
一覧表示にしている画面の写真
提出された生徒のアイデアを一覧表示し、活発な意見を交わすきっかけにしている
画面の写真
クラウド上で共有された教材は、他の教師が自由に改変・改良することができる

杉山さん「教材の配布や回答の回収・一覧化といった効率面はもちろん、シンキングツールやクラウド上での共同編集といった機能を追加することで、双方向で学び合うクリエイティブな授業をサポートしています。さらに、教師が作成した教材をクラウドで共有し、各自で改変・改良できるようにしました。これによって教える側のマインドも変化し、知の共有とアップデートが行われていく。ロイロノート・スクールを通じて、学ぶ喜びや知を深めることの価値を向上させていくことが今後の目標です」

笑顔で語る杉山さんの写真
成果主義的な学びから、研究主義的な学ぶ喜びへのシフトが重要だと語る杉山さん

接種状況を把握するためのワクチン接種記録システムと、教育の未来を変革するICT教育を後押しする授業支援クラウド。ミラボとLoiLoが手がける事業は、社会の大きな関心を集め、同時に社会への貢献度も高いと言えます。人々を幸せにしたい、学ぶ喜びを高めたいという両社の想いと、両社のアイデアの実現をサポートするAWS。そうした取り組みが、社会全体のDXを加速させていくことでしょう。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

そのほかのAmazonのニュースを読む