社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第16回は、AWSを活用し、情報資産の保護と事業継続に取り組む中小企業に迫ります。
※本記事は、2022年8月3日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

BCP(事業継続計画)という言葉をご存じでしょうか? 地震や洪水といった自然災害、事故や火災、感染症のまん延、テロ攻撃、サイバー攻撃といった緊急事態に際し、事業資産の被害を最小限に抑え、事業の継続あるいは早期復旧を実現するための計画です。

具体例として、緊急時の対応マニュアル作成や安否確認方法の取り決め、防災対策、避難訓練などが挙げられますが、情報資産であるデータの紛失・漏えいを防ぐセキュリティ対策も重要です。今回は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のクラウドサービスを活用し、データを守るためのBCP対策を講じる中小企業2社を紹介します。

自社の技術を存続するためにクラウドを活用

「万が一、地震などの災害が発生したときでも、ダイヤモンド工具を製造するための自社独自の技術を守るために、BCP対策の一環としてAWSクラウドを活用しています」と語るのは、株式会社東京ダイヤモンド工具製作所取締役社長の濱田洋右さんです。

濱田さん「ダイヤモンドは、天然に存在する物質の中で最も高い硬度を持っています。そのダイヤモンドの原石を加工し、工具を作るのが当社の事業です。高い硬度を維持した工具であるため、超硬合金やセラミックスといった硬い物質の加工に向いており、工具が摩耗しにくい特長があります」

さまざまな機器を背景に笑顔の濱田さんの写真
株式会社東京ダイヤモンド工具製作所 取締役社長・濱田洋右さん

ダイヤモンド工具は、スマートフォンやコンピューター、自動車など、身近な精密機器や工業製品の製造現場で用いられています。

濱田さん「たとえば、年を追うごとに性能が進化を遂げる、スマートフォンのカメラのレンズ。その金型を作る際には、ダイヤモンド工具が必要不可欠なのです」

1932年の創業以来、常に最先端分野で活用されてきた技術力は、取引先との信頼によって培われ、大切に継承されてきた財産だと言えます。

濱田さん「ダイヤモンド工具による鏡面加工と、放電を駆使した加工を開発し、特許を取得したことが高精度な工業製品の製造に寄与し、当社の信頼を高めてきました。時代の最先端の装置と、熟練の職人技をかけ合わせ、世界No.1の高性能な工具を提供できるダイヤモンド工具メーカーになることを目指しています」

ダイヤモンドがよく見える黒いケースにダイヤモンドの結晶をたくさんのせている写真
加工前のダイヤモンドの原石。一粒ずつ異なる結晶を見極めながら加工していく
先端にダイヤモンドをつけた工具と、それによって縁に溝が作られた円盤型の金属工具たちがならぶ写真
研削・切削部分などにダイヤモンド加工が施された工具
社内でミーティング中の写真
社員は約300名。国内に11拠点、国外に3拠点を構える

BCP(事業継続計画)を意識した転機

同社がBCPを強く意識するようになったのは、東日本大震災によって仙台工場が被害を受けたためです。

濱田さん「それまでもBCPを策定していましたが、被災後、計画の甘さを痛感しました。停電によってサーバーがダウンしたため、バックアップ用のハードディスクを社員の自宅に持ち帰り、なんとかデータの紛失を防ぎました」

工場のサーバーには、ノウハウが詰まった工具の設計図や、工業製品に関する秘匿情報など、多くの機密情報が含まれていました。

濱田さん「工場の設備は修復することができますが、データは修復できない可能性があります。そして、データ紛失や漏えいによって失った信頼は、そう簡単に取り戻すことができません。BCPの強化を決意し、AWSの利用を始めました」

AWSでは、AIや機械学習、IoT、データ分析、アプリ開発などを含む、200種類を超えるクラウドサービスを提供しています。

濱田さん「グループウェアやテレビ会議システム、IT資産管理システムなどをAWSに移行しました。AWSは信頼性が高く、どこからでもアクセスできるという安心感がありました。また、サーバーの場合、容量の余裕をもって設置するのでオーバースペックになりがちですが、AWSは必要なときに、必要な分だけ容量を拡張することができます。設置スペースやメンテナンスの手間、初期費用や維持費などの観点からもコストメリットが非常に大きいです」

工具の出来上がりをみる濱田さんの写真
今後は職人の技を継承するため、AWSのAIを活用したいと語る濱田さん
パソコンで仕事をする小久保さんと濱田さんの写真
AWSの活用はシステム担当部長の小久保さん(写真右)が推進した

2022年に起きた福島沖地震でも仙台工場が被災しましたが、AWSによるBCP対策が効果を発揮したといいます。

濱田さん「機密性の高いデータはすべてAWSクラウドに移行していたので、データの紛失や漏えいといった被害はなし。不安もまったくありませんでした」

BCP策定によって安心を得た今は、さらに社会貢献を意識したものづくりを見据えています。

濱田さん「私たちは時代と共に変化する工業製品に技術を提供し、豊かな暮らしに貢献してきました。一方で、工業製品の生産過程で生まれる温室効果ガスが社会に悪影響を及ぼしています。長年にわたって『安心で安全な自然循環に寄与する』という理念を掲げてきた当社としては、環境負荷の低減につながる工具を開発し、SDGsに貢献できればと考えています」

文字起こし業務におけるセキュリティの重要性

東京反訳株式会社は、依頼主から受領した音声データをもとに、音声を文字に書き起こし、データ納品する業務を請け負っています。2006年の創業以来、業界内で着実に地位を築き、現在では年間2万件の依頼があるといいますが、どのような業界・業種に文字起こしのニーズが存在するのでしょうか?

「議事録関係ですと、企業の株主総会や決算説明会、医療関係の新薬会議や治験審査委員会など、あるいは裁判所に提出するための証拠音声を書き起こした反訳書など、秘匿性が求められる文章を多く手がけています」と語るのは、代表取締役の吉田隆さん。幅広い業界・業種の文字起こしに対応するため、専門知識を有したスタッフのネットワークを構築しています。

オフィスを背景にした吉田さんの写真
東京反訳株式会社 代表取締役・吉田隆さん

吉田さん「実際に文字起こしを担当するのは在宅ワーカーで、当社の社員は彼らと依頼主を結びつけるハブの役割を果たしています。在宅ワーカーは、一般教養などの試験に受かった約750名が在籍しており、それぞれの専門領域に合った案件を担当してもらっています」

在宅ワーカーの大半は女性が占めるといいます。

吉田さん「子育てなどを理由に働きに出られないけれど、高い技能を持った女性たちです。彼女たちをサポートしたい、直接会う機会は少ないけれど人間的な付き合いがしたいという想いがあったので、誕生日に会社からお花を贈ったり、コロナ禍以前は懇親会を開いたりしていました。お互い気持ちよく、楽しく働く。それが私のモットーなんです」

機密性の高い情報を扱うため、依頼主とは秘密保持契約を結び、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を取得するなど、セキュリティ対策には特に力を入れています。

吉田さん「セキュリティ対策に万全を期しているからこそ、お客様に安心してご依頼いただいています。そうしたセキュリティ面を考慮して、2015年からはAWSクラウド上に基幹システムを構築しました」

2018年からはAWSのデスクトップサービス、Amazon WorkSpaces(ワークスペーシーズ/WS)を利用し、いつでも、どこからでも、データを持ち出すことなくアクセスできるセキュアなワークスペースを実現しました。

吉田さん「クラウドへのデータ移行を進めたことで、災害時にもお客様の情報を守り、事業を継続できる安心感を得ることができました。次第に、当社のBCP対策の大部分をAWSがカバーするようになっていきました」

パソコンに向かい、作業をするスタッフの写真
依頼を受けた案件の特性を見極め、適確な人選とマッチングが東京反訳の強み
パソコンのデスクトップ上に、仮想デスクトップのウィンドウが表示されている写真
セキュアな仮想デスクトップであるAmazon WorkSpacesの画面

緊急事態宣言下で活きたBCP対策

2020年に新型コロナウイルス感染症がまん延した際は、AWSの活用が事業の継続に大きな役割を果たしたといいます。

吉田さん「実験的にリモートワークを進めていたこともあり、2020年4月の緊急事態宣言発出とほぼ同時に、全社員47名用に一気にリモートワーク体制を構築しました。社員全員にリモートワーク用のPCを用意する選択肢もありましたが、在宅PCの設定や操作などのサポートを限られたメンバーで対応するのは難しい。一方、WSであれば個人のパソコンからでもセキュアなアクセスができ、リモートでのサポートも簡単ですし、10分もあればアカウント登録を終えることができます」

AWSを活用したBCPによって、営業的な損失を最小限に抑えることができたと吉田さんは振り返ります。

吉田さん「緊急事態宣言によって出社が困難な状況下で、自社サーバーに依存しないセキュアな環境を構築することができていなければ、多くの依頼を断らざるを得ず、数千万円規模の損失が出ていたと思います。当社のような中小企業にとっては、サーバーを管理する手間が省ける効率面や、使った容量分だけ料金が発生する従量制料金のコストメリットも大きい。今や、AWSなくして当社のビジネスは成り立ちません」

コロナ禍によってオンライン会議の議事録作成依頼が増え、成長を続けている東京反訳。そうした中で、創業時から信念は揺るぎないと吉田さんは言います。

吉田さん「私たちの使命は、正しい記録を残すことでフェアな社会を築くこと。音声を文字として残すことが、時代や国境を超えて知識や知恵を共有することに役立てばと考えています」

企業の核となる重要データをAWSクラウドへ移行し、災害に強い体制を築いた東京ダイヤモンド工具製作所。AWSを活用し、緊急事態宣言下において在宅勤務体制を速やかに整え、ビジネスチャンスに転換した東京反訳。大きな外部環境の変化がいつ起こるともわからない時代において、BCPの策定、そしてクラウドの活用はますます重要になっていくでしょう。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

そのほかのAmazonのニュースを読む