社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第18回は、アマゾン ウェブ サービス(AWS)を活用し、社会課題を解決に導く技術を提供する中小企業に迫ります。
※本記事は、2022年8月23日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

社会全体でDXが加速する中、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)、IoTといったテクノロジーを活用した社会課題の解決が進んでいます。たとえば、人手不足に対応する省人化や業務効率化、災害時の被災状況の確認、老朽化する社会インフラの点検・予知保全など、DXによって解決が期待される社会課題は多岐にわたります。

今回は、AIや機械学習、IoT、データ分析、アプリ開発などを含む200種類を超えるクラウドサービスを提供するAWSを活用し、社会課題の解決に取り組む中小企業2社を紹介します。

被災状況を把握するアプリにAWSを活用

株式会社リアルグローブは、2008年の創業以来、クラウドを活用した社会課題解決に取り組んでいます。代表取締役社長の大畑貴弘さんは、「当社はクラウドと共に歩んできました。つまり、AWSと共に歩んできたとも言えます」と同社の軌跡を振り返ります。

オフィスを背景に、笑顔で腕を組む大畑さんの写真
株式会社リアルグローブ代表取締役社長・大畑貴弘さん

大畑さん「創業当初はクラウドサービスを提供する事業を行っていましたが、後に事業譲渡し、クラウドを活用した社会課題の解決に事業をシフトしました。2013年頃から学校教育にICTを導入し、教育現場の課題を解決する事業を始めました。当時は、教育現場にタブレット端末とクラウドを持ち込むこと自体、画期的なことだったんです」

当時からAWSを利用する大畑さんは、「AWSの利点は非常に大きい」と言います。

大畑さん「AWSは信頼性の高いクラウドとして認知度が高く、利用者もたくさんいます。そのため、インターネットで調べ物をしたときに出てくる情報量が圧倒的に多い。これはエンジニアにとって大きな利点であり、AWSを使ってさまざまなことにトライできている要因の1つになっています」

2014年、大畑さんはドローンに着目し、後に同社の中核を担う事業の構想を描いていきます。

大畑さん「当時はまだ、ドローンがどんな分野で応用されるかも未知数の状態。私自身、クラウドを活用した社会課題解決とドローンをどのように結びつけるか、試行錯誤しました。そんな中、教育事業のときに知り合った全国の自治体の方々と話す中で、自治体の災害対策においてドローンとクラウドを活かせると思いついたんです」

そして2016年、ドローンで撮影した動画データと位置情報を地図上に表示し、広範囲の被災状況を正確に把握できるアプリケーション「Hec-Eye(ヘックアイ)」を開発。ドローンで撮影した映像は自動的にクラウドへアップロードされ、リアルタイムで映像を見ることができます。

大畑さん「この仕組みは、AWSのAIや分析ツールといったクラウドサービスを組み合わせることで成り立っています。AWSがなければツールを自分たちで作る必要があったので、開発にかかる時間やコスト面からも実現不可能でした」

AWSは費用面のメリットも大きいと大畑さんは続けます。

大畑さん「自社でサーバーを構築するには、当然、設備投資やメンテナンス費用が発生します。そして、一度構築したら仮に事業規模を縮小しようにも、縮小することさえ難しくなります。一方、AWSクラウドは使いたいときに使いたい分だけ使える自由度があり、拡張性が高い。少ないリスクで最大限のチャレンジができます。イノベーティブなチャレンジを続けられるのは、AWSのおかげだと思います」

衛生写真の地図にドローンの位置が示され、ドローンが撮影した動画がサブウィンドウで表示されている画面
ドローンで撮影した動画と位置情報を同一画面に表示するHec-Eye
地図に災害場所とドローンの位置が示され、サブウィンドウではドローンからの建物の映像と災害状況の映像が映されている様子
災害時の被災状況をリアルタイムで確認することができる
農業地帯にドローンの位置が示され、ドローンが撮影した鳥の映像をサブウィンドウで映している画面
被災状況の確認をはじめ、鳥獣被害対策も行うなど、活用分野が拡がっている

テクノロジーが進化しても工夫や改善を考えるのは人

Hec-Eyeは、2016年に発生した熊本地震で活用されたことを機に、全国の自治体での導入が広まっていきました。

大畑さん「被災状況の確認をはじめ、鳥獣害対策や作付け確認、不法投棄対策などにも取り組んでいるほか、老朽化する道路や設備など、社会インフラの点検での活用も進めています」

クラウドを軸としたDXを支援する中で、大畑さんは「DXに正解はない」と考えています。

大畑さん「DXはこうあるべき、という正解はないし、定義にとらわれてはいけないと思います。DXはデジタルを駆使した業務の再定義という本質を持っていますが、業務の課題は現場によって1つ1つ違う。だからこそ、現場に軸足を据え、課題について一緒に考え、解決していくことを大事にしています」

熱く嬉しそうに話す大畑さんの写真
DXによって「もっと自在に、ちょうどいい世界」を作りたいと語る大畑さん
モニターに映されたシステムを見ながら社内ミーティングをしている写真
社員は約30名。大畑さんの母校である東京大学の研究室から人材を採用することも多い

そして、「DXが人の価値を再発見させる」と言います。

大畑さん「当社が提供するサービスは、お客様の体験を軸にしています。お客様が使いやすいことはもちろん、お客様自身が工夫して改善できる余地を残すことを目指しています。どんなにテクノロジーが進化しても、工夫や改善を考えて、世の中を良くできるのは人しかいない。当社のサービスを通じて、人が持つ価値を伝えていけたらいいですね」

AWSが進化させた画像解析AI

株式会社アダコテックは、日本最大級の研究機関である産業技術総合研究所の特許技術、HLAC(エイチラック)とAWSをかけ合わせ、主に製造業の人手不足の課題解決をサポートしています。

代表取締役の河邑亮太さんは、「2019年にHLACとAWSクラウドをかけ合わせたことがターニングポイントになりました」と言います。

アダコテックのロゴTシャツを着て腕を組む河邑さんの写真
株式会社アダコテック代表取締役・河邑亮太さん

河邑さん「当社は、画像解析や認識などに用いられる特徴抽出法であるHLACを用いたAIを開発しています。たとえば、製造業の検品工程において、画像解析によって製品の正常/異常を判定したり、老朽化したトンネル内の画像を解析して空洞や水分量を検知したりと、さまざまな分野で応用されています。それまで人が行っていた作業をデジタルに移行することで、人手不足などの課題に対応しています」

HLACの技術的な特長はどんなところにあるのでしょうか?

河邑さん「大きく分けて3つあります。1つ目は、画像解析に必要なデータの量が少ないこと。ディープラーニングなら、正常/異常の画像データを数千枚集める必要がありますが、HLACの場合は、正常データのみ100〜200枚程度集めれば済むので、短時間かつ少ない労力でアルゴリズムを構築することができます。画像データはすべてAWSクラウドにアップロードされ、AWSクラウド上で解析する仕組みです」

2つ目は、一般的なPCのスペックで運用ができるため、導入コストを抑えられること。そして、3つ目の説明性の高さが重要だと河邑さんは強調します。

河邑さん「ディープラーニングなどを用いると、非常に複雑な計算方法のため、異常と判定されてもその原因がわからないというブラックボックス現象が起きてしまいます。一方、機械学習を用いたHLACであれば、異常と判定された原因を明らかにすることができるので、お客様自身で改善策を講じることができるのです」

それら3つの特長にAWSをかけ合わせることで、2019年、HLACはさらなる進化を遂げました。

河邑さん「AWSクラウドは豊富な計算資源を提供しているため、それらを活用し、パラメータ(設定値)の自動最適化を行いました。簡単に言うと、専門知識が必要だったアルゴリズムの設定が、AWSクラウドのおかげで誰でも簡単にできるようになり、お客様が自ら設定や運用、改善ができるようになったのです」
※計算機(コンピュータ、そこで動くプロセスやジョブ、抽象的な計算模型)が計算量のために費やす具体的あるいは抽象的資源

円の画像の円が欠けた部分に赤や黄色で異常を示しているシステム画面
画像のどの部分に異常を検知したかを表示
判定が正常なものは緑、注意が必要なところは赤や黄色で結果を表示してる画面
正常と異常の判定結果のレポート画面
グラフを表示するシステムの画面
正常と異常の分布をグラフ化することで改善策に役立てている

DXによって人の創造性や挑戦を後押ししていきたい

パラメータの自動最適化をはじめ、AWS活用の利点が同社のビジネスを大きく加速させたといいます。

河邑さん「AWSを活用する以前は、お客様自身がサーバーを設置する『オンプレミス』でのサービスを提供していました。問題は、オンプレミスだとサービスをアップデートした際にお客様ごとに機能や拡張性などにバラつきが出ることでした。AWSクラウドであれば、均一なサービスをご提供できますし、拡張性が高いので新しいことにどんどんチャレンジできるんです」

その挑戦の先に、河邑さんは社会課題解決とモノづくりの未来を思い描いています。

河邑さん「製造業を中心にDXを推し進め、人手不足や技術の属人化、あるいはいかに技術を伝承するかといったモノづくり全体の課題を解決し、モノづくりの進化と革新を支えることが当社のミッションです。その根底には、工夫や試行錯誤をしながら、モノづくりを楽しんでほしいという想いがあります。当社のサービスが現場で改善できる仕様になっているのはそのためです。DXによって、人にしか発揮できない創造性やチャレンジを後押ししていけるといいですね」

力強く語る河邑さんの写真
「今後はHLACを使って動画や音の解析にも挑戦したい」と語る河邑さん
社内ミーティングの写真。ガラスのパーテーションの向こうにたくさんの社員がいるのが見える。
創業時は3名だった社員は現在、約20名に増加

そして、将来的には海外進出も目指しているそうです。

河邑さん「日本の製造業を起点に、日本のテクノロジーで世界のモノづくりを支える目標を持っています。ゆくゆくは蓄積したデータを活用し、品質管理や生産性向上などをトータルでサポートする製造業のプラットフォームを構築することで、世界の製造業にインパクトを与えられると信じています」

AWSを活用し、災害時の被災状況の確認・分析を行うリアルグローブと、製造業におけるさまざまな課題解決をサポートするアダコテック。自社の技術とAWSをかけ合わせ、社会課題を解決するイノベーティブなサービスを提供する両社には、DXによって人の創意工夫やチャレンジを支えたいという共通の想いがあります。人の活躍を後押しするDXという視点は、DXを進める際に意識すべき大きな指針になっていくでしょう。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

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