社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第20回は、約200年の歴史を持つ老舗企業が挑んだDXに迫ります。
※本記事は、2022年9月8日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
社会全体にDXが浸透する中で、DXの一環として、実店舗で販売を行うメーカーがEC(電子商取引)に進出するケースが増えています。事業を拡大する次なる一手としてECを活用する老舗企業も数多く存在し、ECへの進出が長い歴史のターニングポイントとなることも少なくありません。
今回は、Amazonでの販売やオンライン決済のAmazon Payを活用し、成功を収める老舗企業2社の事例から、伝統ある企業にもたらされたDXによる効果を紹介します。
時代の変化に寄り添い、宇治茶の新しい価値を広める
京都府宇治市に実店舗を構え、宇治茶や宇治抹茶スイーツの製造・販売を手がける株式会社伊藤久右衛門は、京都の名だたる寺社御用達の宇治茶専門店です。
「1832年の創業以来、上質な宇治茶にこだわった商品を作り続けてきました。代々お付き合いのある宇治茶の生産家から茶葉を仕入れ、石臼でひく伝統的な製法を用いることで、濃厚な味わいの宇治抹茶ができあがるんです」と、WEB営業部部長の足立容子さんは語ります。
同社の特長は、多彩な商品ラインアップです。宇治茶をベースにした商品は100種類以上。伝統的な宇治抹茶から、宇治抹茶パフェやティラミスなどの甘味、そして宇治抹茶カレーやクラフトコーラなどの意外な商品まで、多岐にわたります。
足立さん「珍しい商品が多くて驚かれるかもしれませんが、すべての商品に『古くから伝わる宇治茶文化の可能性を追求し、その価値を世の中に広める』という企業理念が根付いています。昔は多くのご家庭に急須でお茶をいれる習慣がありましたが、今はペットボトルでしかお茶を飲まない方も多いですよね。宇治茶の文化をただ守るのではなく、時代の変化に合わせた宇治茶の楽しみ方をご提案したいという想いから、商品開発に力を入れています。『伝統とは守るものではなく創るもの』という考え方が根底にあるんです」
商品力の高さが認められ、スイーツコンテストなどで受賞歴を持つ同社ですが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、創業以来の窮地に立たされます。感染拡大防止のために移動が制限され、京都を訪れる国内外の観光客が激減したのです。
足立さん「実店舗の来店数は大幅に落ち込み、商品が売れ残ってしまうこともありました」
窮地を救ったECとAmazon Pay
そんな窮地を救ったのが、ECでの販売です。2000年から始めた自社ECでは、Amazonが提供するオンライン決済サービスであるAmazon Payを2016年に導入し、大きな成果を挙げています。
足立さん「ECでの販売は、宇治茶の魅力を全国に広めたいという想いから始めました。Amazon Payを導入する以前は、決済時にお客様が個人情報を入力する煩わしさがあり、カートに商品を入れたものの、購入まで至らずに離脱してしまうケースがありました。しかし導入後は、お客様のカート離脱率が約10%減りました。売上に与える影響も大きく、より多くのお客様に商品を届けられる喜びを実感しています」
2014年から開始したAmazonでの販売では、顧客層の拡大にもつながっているといいます。
足立さん「実店舗でのお客様は女性がメインですが、Amazonでは、今までアプローチできなかった男性のお客様が増えて驚きました。男性のお客様の中には、店頭でスイーツを買うのが恥ずかしいと感じる方もいらっしゃるようなんです。Amazonでは気兼ねなく、落ち着いて商品を選べるからうれしいというカスタマーレビューをいただきました」
Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、注文や返品に関するカスタマーサービスを代行するフルフィルメント by Amazon(FBA)によって、業務効率化も図れているといいます。
足立さん「梱包や配送処理を代わりに行ってくれるので、以前より時間に余裕が生まれ、細やかな接客ができるようになりました。その時間を活用し、何度もご注文いただいたお客様に、感謝の気持ちをつづった手紙を送ることもできるようになり、お客様とより深い結びつきが生まれました」
FBAは、商品の需要が高まるイベントシーズンにも役立っているといいます。
足立さん「特に敬老の日やバレンタインデー、ホワイトデーといったイベント時はギフト需要が伸び、一気に注文が増えます。当社の人員では出荷できる数に限度がありますが、FBAのおかげで1日に出荷できる数が大幅に増えました。手間のかかる梱包や配送処理からも解放され、こんなに便利なサービスはなかなかないと実感しています」
190年の歴史の上で成し遂げられたDXという変革の一方で、変わらない想いもあります。
足立さん「お客様に新たなお茶の価値をお届けしていきたい。1人1人のお客様にとって宝物のような時間を作れるように、これからも努力していきたいと思います」
伝統にとらわれない老舗煎餅店の挑戦
1804年創業の株式会社松崎商店は、長年にわたって東京・銀座で煎餅店を営んできた老舗企業です。そんな同社において、デジタルを活用した新風を巻き起こしているのが、8代目である代表取締役社長の松﨑宗平さんです。
松﨑さん「老舗という看板だけで集客できる時代はとうに終わりました。代々受け継いできた煎餅の味には自信を持っていますが、そもそもお客様に最初の一口を味わってもらうことがすごく難しい。煎餅になじみが薄い人にも関心を持っていただけるように、伝統にとらわれず、新しいことにどんどん挑戦していきたいんです」
その言葉通り、カフェを併設したコンセプトストアのオープンや、松﨑さん自らがDJとなって開催した和菓子を楽しむ音楽イベント、キャラクターとのコラボレーションなど、新たな取り組みを次々と打ち出してきました。そうした挑戦を続ける一方で、脈々と受け継いでいる信念もあるといいます。
松﨑さん「先代である祖母や父から教わった『1枚1枚心を込めて手を抜くな』という言葉が大好きで、社訓にしました。当社の看板商品は、四季折々の風情を砂糖蜜で色鮮やかに描いた瓦煎餅です。これは、職人が1枚1枚、丁寧に焼き、色をつけることでしか作れません。1枚1枚心を込めて……という言葉は、単に煎餅のことだけでなく、お客様そして従業員1人1人に丁寧に向き合う、そういう意味もあると思っています」
Amazon Payの高い信頼度
デジタル技術の活用も、松崎商店の新たな挑戦の1つです。松﨑さんが主体となり、積極的にDXを推し進めています。
松﨑さん「事業を受け継ぐ前はIT系のベンチャー企業に勤めていました。8代目に就任してから、すぐに松崎商店のIT化に取りかかり、その一環として、自社ECサイトを立ち上げました。約10年前のことです」
自社ECサイトでは、決済方法にAmazon Payを導入しています。
松﨑さん「お客様にとって、自社ECでのお買い物は、個人情報漏えいなどへの不安があると思います。それは当社の知名度だけでカバーできる問題ではありません。その点、Amazon Payはセキュリティに対する高い信頼があります。また、すでにAmazonアカウントをお持ちのお客様の場合、クレジットカード情報などを入力する面倒な手間もありません。Amazon Payを導入したのは正しい選択だったと思いますね。今では自社ECの決済のうち、約30%がAmazon Payによるものです」
自社ECが軌道に乗り、2013年からはAmazonでの販売も行っています。
松﨑さん「僕がAmazonを愛用しており、サイトのデザインが好きという理由からAmazonでの販売を始めました。コロナ禍では、銀座を行き交う人やインバウンド需要が減り、実店舗での売上が落ち込む中で、Amazonでの売上に助けられた部分は大きかったですね。まずは煎餅に対する入り口を増やすことが大事だと考えてきたので、Amazonが実店舗とは異なるお客様との接点となっていることもうれしいですね」
そのほかにも、Amazonでの販売は、思わぬ効果をもたらしたといいます。
松﨑さん「EC販売はITの知識がある僕が主導しているのですが、Amazonはユーザーインターフェースがしっかりしているので、デジタルに詳しくない従業員でも操作がしやすく、業務の均質化につながりました。また、システム上の不明点や疑問点が生じたときは、Amazonの担当者に問い合わせるとすぐに回答してくれることも助かっています」
Amazonを活用して、松﨑さんはさらなる挑戦を思い描いています。
松﨑さん「昨年、新事業に取り組もうという決意を込めて、長年名乗ってきた屋号を『銀座 松﨑煎餅』から『MATSUZAKI SHOTEN』に変えました。自分の中で良いと思うこと、おいしいと思うものへの直感を信じて、新たな商品開発やAmazonを通じた海外販売を目指しています」
宇治茶の新しい価値の創造に取り組む伊藤久右衛門と、伝統にとらわれない挑戦を続ける松崎商店。共に長い歴史を有する両社は、Amazonのサービスを活用したDXを通じ、さらなる成長を遂げました。伝統や歴史を重んじつつ、変化を柔軟に受け入れる姿勢は、成長のための新たな一歩を踏み出す鍵だと言えるでしょう。
中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX