社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第27回は、地方の商工会連合会が取り組むDXとAmazonのサポートを紹介します。
※本記事は、2022年11月21日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

2022年6月、地方からデジタルの実装を進め、全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指すデジタル田園都市国家構想が閣議決定し、同9月には行政のデジタル化を推し進める自治体DX推進計画が改定。DXの波が地方へ広がりを見せています。

そこで今回は、先進的なDXを推進する熊本県商工会連合会と、その取り組みをサポートするAmazonの社員の視点から、地方発DXが秘める可能性に迫ります。

ECは過疎化が進む地方の打開策になる

熊本県商工会連合会会長を務める笠愛一郎さんはまず、同会が果たす役割を次のように語ります。

笠さん「商工会の目的は、地域の商工業の総合的な改善発達を図り、社会一般の福祉の増進を後押しすることです。当会から各市町村の商工会に職員を派遣し、事業者の税務や金融、労務など、経営全般の支援を行っています。また、お祭りなどのイベントの開催支援など、地域振興の役割も担っています」

並んだデスクを背景に、笑顔の笠さん
熊本県商工会連合会会長・笠愛一郎さん

名産品を取り扱う事業者が集う物産フェアを開催したり、熊本駅前でマルシェを開いたりと、さまざまな形で事業者支援と地域活性化を後押しする同会は、「DXは重要課題である」とし、2019年頃から積極的にデジタル化を推進してきました。

笠さん「事業者の経理や財務といったバックオフィスのデジタル化支援を行う中で、課題に感じたことがあります。会員の9割は小規模事業者で、経営者の大半が高齢者のため、DXという言葉に抵抗感を示す方がいらっしゃったのです。当会としては、デジタル化のメリットや身近に始められるDXをご説明し、地道にデジタル化を進めてきました」

DXを加速させた大きな要因は、コロナ禍の到来だったといいます。

笠さん「少子高齢化、人口減少に伴い過疎化が進み、地方の商圏だけでは経営が厳しい状況に陥り、さらにコロナ禍の影響で観光需要も消失しました。その打開策として、EC(電子商取引)による販路拡大を計画する事業者が増えてきたのです」

しかし、地元の道の駅や物産館に商品を卸している事業者が多く、原材料名の表記が、ECでの販売条件を満たしていなかった商品もあったといいます。

笠さん「商品を識別するためのJANコードの取得や商品開発など、事業者のECを支援する中で、販売効果を高めるためにAmazonと協力することになりました」

数人で会議を行う人たち中央に笠さん
DX・デジタル化専任職員の設置、デジタル相談窓口の開設など、さまざまなデジタル化を推進している

Amazonの協力の下、知識向上の研修を実施

熊本県とAmazonとの取り組みの始まりは、2017年にさかのぼります。2016年に発生した熊本地震の復興支援として、翌年、Amazonと熊本県が産業振興と地域活性化などを目的とした協定を締結。Amazonの日本ストアで、名産品を販売する熊本県フェアなどを実施する過程で、熊本県商工会連合会もAmazonと連携するに至りました。

笠さん「熊本県フェア以降も、深刻な地震被害に見舞われ観光資源を失った、南阿蘇地域や私の地元でもある菊池市のフェアをAmazonで実施しました。Amazonでの販売によって日本全国へ販路が広がり、大きな成果を得ることができました。また、Amazonには世界各国での販売を支援するグローバルセリングがあるので、海外販売が見込める点でも将来性を感じています」

熊本の名産品。車海老せんべい、くまさんのスフレカステラ、廣田のチーズ巻など
商品開発や販路開拓を支援し、EC販売を実現した事例
Amazonの日本ストア Webサイト Topページ
日本各地の魅力的な商品を発信する日本ストア

さらに、Amazonの協力の下、2022年5月から月1回、ECの知識に関する職員向けのオンライン研修を開始しました。

笠さん「ECという経験のないことにチャレンジする中で、事業者はもちろん、当会の職員もECに関する知識を身につけなければならないと感じたためです」

研修では、JANコードや商品企画書に関する事柄や、ECで販売する際の商品登録や配送コストなどの基礎知識、Amazonのサービスに関するカリキュラムを実施。その効果は大きいと笠さんは言います。

笠さん「研修によって職員の知識が深まり、支援体制も構築され、Amazonで販売を始めた事業者は100社を超えました。全国へ販路を拡大することで人口減少や過疎化に対応し、ビジネスが軌道に乗ることで後継者が現れ、事業承継の解決にもつながっています。DXによって解決できる地方の課題は非常に多く、DXの可能性は大きい。これからも、継続を重視してDXに取り組んでいきます」
※熊本県商工会連合会調べ

DXによって地域の魅力を高める

熊本県商工会連合会の取り組みが示すように、Amazonは行政機関や経済団体、業界団体、企業などと連携し、さまざまな形で販売事業者様のビジネスを支援しています。セラーサービス事業本部・事業開発マネージャーの横丁瞳さんは、事業内容をこう語ります。

Amazonのオフィスに立つ横丁瞳さん
アマゾンジャパン合同会社 セラーサービス事業本部・事業開発マネージャー 横丁瞳さん

横丁さん「連携先の対象は幅広いのですが、私は主に公共機関を担当しています。たとえば、JETRO(日本貿易振興機構)と共同で、日本企業の海外販売を支援する『JAPAN STORE』プログラムにも携わっています」

販売事業者様の成長をサポートする業務は、Amazonへの出品方法やサービスの紹介はもちろん、その内容は多岐にわたります。

熊本県とAmazonが復興支援の協定を結んだ際には、Amazonの社屋で熊本県の物産フェアを開催し、期間限定で社員食堂のメニューに熊本県の食材を取り入れるなど、デジタルとリアルの垣根を超えた取り組みも行いました。

地方の公共機関や経済団体と協業する中で、ここ数年、地方のDXに変化の兆しが見られると横丁さんは言います。

横丁さん「地域ごとにデジタル化の課題は異なるため、対応状況もさまざまですが、明確に『DX推進が重要課題である』と意欲的に取り組む方が増えていると実感しています。ありがたいことに、公共機関側や経済団体のほうから声をかけていただき、EC販売に関してご相談いただくこともたくさんあり、ニーズや課題をお伺いしながらサポートを進めています。DXによって地域住民に利便性を提供し、地域の産業を活性化し、地域の魅力をどう高めていくかという視点は、地方にとって非常に大切だと思います」

Japan StoreのWebサイトTopページ

日本各地の名産品を発見し、発信したい

地方が抱える課題やニーズをヒアリングした上で行う販売事業者様のビジネス支援、さらにはECを活用した地域活性化などが横丁さんの業務の目標ですが、中でも熊本県商工会連合会との取り組みは「持続性が期待でき、全国的に見ても先進的」と言います。

横丁さん「同会の取り組みの特長は、Amazonがサポートするオンライン研修を通じ、職員の方がECに関する知識を深め、販売事業者様をサポートする体制づくりにあります。販売事業者様と距離が近い商工会連合会の職員の方が定期的かつ親身に相談に乗ることで、Amazon側からサポートできない部分を補っていただいています。最終的には、職員の方と販売事業者様が主体となり、ECを活用した販路拡大・地域経済の発展を目指されています。地域で自走できるデジタル化の基盤づくりは、とても素晴らしい取り組みだと思います」

同会の職員向けのアンケートでは、Amazonのオンライン研修に対して「役に立った」「継続してほしい」という声が上がっており、Amazonへ出品する販売事業者様も順調に増加しています。こうした効果に、横丁さんはやりがいを感じていると言います。

パソコンに向かって仕事をする横丁さん

横丁さん「Amazonでの販売を通じて販売事業者様のビジネスが成長することで、地域の産業が活性化し、地域の価値も高まり、商品を購入したお客様の生活の質も向上します。販売事業者様、そしてお客様の幸せを実現するために、今後も地方のDX をサポートしていければと思っています。何より、日本各地には魅力的な名産品が数多くあり、それらを発見し、情報発信や販売のお手伝いをできることはとても楽しいですね」

デジタル化を推し進める中で、事業者支援にECを活用し、さらにはAmazonの協力を得て、デジタル人材の育成にも着手している熊本県商工会連合会。そして、地域活性化や社会課題解決のために、デジタル化の基盤づくりをサポートするAmazon。復興支援を機に始まった両社の二人三脚の取り組みは、過疎化や事業承継といった社会課題を解決に導きました。この意義深い取り組みは、改めて、日本社会にとってDXが必要不可欠であることを教えてくれます。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX
Vol.25 中小企業が取り組むSDGsとDXの相乗効果
Vol. 26 健康意識の高まりを捉えた、中小企業のDX戦略

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

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